したがって、国際社会は、アフガニスタンの近未来については、専門集団による効率的な民主的政府の運営という実現不可能な幻想を抱くことをやめ、国全体を緩やかに束ねる仲介委員会の設立と、この委員会を6カ月に限定せずに無期限に機能させることに目標を定めるべきであろう。仲介委員会は近代国家の権能のすべてをアフガニスタンに整える必要はなく、中世文化に不可欠であった三つの最低限の条件――大規模な武力紛争の防止、主要な交易ルートの安全確保、首都の安全と中立の確保――に集中すればよい。この役目を担うのは、アフガニスタン国軍(これも実態を無視した幻想にすぎない)ではなく、米空軍の制裁力によって保護される国連多国籍軍でなければならない。ボン合意で実現が決められたロヤ・ジルガ(国民大集会)において、こうした最低限必要な条件を作り上げる道筋について合意できれば、実施不可能な欧米型民主憲法の起草を承認するよりもはるかに大きな成果であろう。
たとえ、広範囲な国民を基盤とする国家が形として存続していても、西側はほとんどの援助をアフガニスタン政府ではなく、各地域に直接に手渡さなければならない。これは、武装勢力とその指導者が援助資金を和平を保つことによって得られる報償とみなし、与える側が援助資金を和平を守るための武器として明確な意図と厳格な方針に基づいて使うことができるようにするためである。これはいわば買収に近く、各地の武装勢力の力を温存し、延命させるかに見えるかもしれない。しかし、ソマリアを初めとするアフリカの国々のケースを見れば分かるように、国際援助資金の受け手を中央政府に限定すれば、それが深刻な紛争を生む可能性は格段に高くなるのである。受け手が中央政府に限られれば、各地の武装集団は中央政府と首都カブールの支配権を争奪する価値のあるパイとみなすようになり、援助そのものが将来の紛争の火種になってしまうのである。
各地域の村や組織が直接に援助を受け取れるようにしなければならないが、国際社会は、そうすることによって、軍閥将軍や武装勢力を完全に排除できると考えてはならない。国際的な援助機関は、多くの国で、武装集団や権力者が支配地域における援助資金の使途について常に絶大な影響力を持つことをよく知っているのである。
これまで述べたことから、アフガニスタンにおける国際戦略は、以下のような原則に基づいて策定されるべきであろう。
アフガニスタンを近代的な民主国家に変貌させるためにはどのような援助が必要かとの視点から援助の方法や規模を策定することをやめ、アフガニスタン国民がある程度の普通の生活を送ることができるようになり、交易をはじめとする基本的な経済活動を可能にするために、アフガン中央政府は最低限何をすればよいかという観点から、援助を厳しく策定する。
事務官は、内外のNGOと協力する。この任務には、NGOの自由な活動を支援するだけでなく、NGOが危険なまでに地域の政争に巻き込まれないようにすることも含まれる。
影響力の安定している地域指導者と直接に協力しあう。これら指導者と国際機関を取り次ぐ事務官を任命する。事務官は地域指導者の言動(特に少数民族の扱い、他の地域や民族との関係)をチェックし、テロリストを匿っていないか厳重に監視する。
事務官として働く人材、もしくはアフガニスタン援助に専従する国際公務員を育成する。彼らはかなりの長期にわたって困難で危険な仕事に従事しなければならず、各地の言語、歴史、慣習を学ぶための資金も必要なことから、十分な報酬を与えられる。事務官の地位と権限を確立するためにできることはすべてすべきであろう。大英帝国のインド統治庁がよい手本を残している。この組織は、賢明にも直接に統治することなく、アフガン王家と関係を築き、パシュトゥン人が支配する地域を管理した。
援助資金と引き換えに地域指導者に要求する規範を十分に吟味しなければならない。非現実的な規範を押し付けたい誘惑に負けてはならない。一時に解決すべき問題を絞る必要があろう。たとえば女性の家庭における地位を規定している、政治的、社会的慣習、女性の政治参加などについて、最初から抜本的な改革を求めず、まず少女の教育に限定して援助資金を与えるなどが考えられる。緩やかな変化の方が持続しやすいものである。
たとえ援助の受け取りに条件を設け、チェックをしても、腐敗を完全に排除するのは不可能なことを肝に銘じておかなければならない。援助資金が軍閥将軍の権力とその勢力範囲の強化につながる場合もありえよう。大規模な資金援助は、たとえそれが正式な政府機関を通して与えられる場合でも腐敗を伴いやすいことは、これまでの経験から明らかである。援助資金は、平和を維持するための政治的武器であることを常に意識しながら使われねばならない。
真の国家行政機関の設立は遠い将来のアフガニスタンに委ねるものの、ごく基礎的な中央政府機関をカブールに設置する。暫定中央政府は仲介の役目を担う委員会とするのがよいだろう。カブールと中央政府を奪い取る価値があるパイにしてはならない。
大規模な国連多国籍軍を組織して、カブールの安全と中立を守らせる。これは、各地の指導者がカブールに集まって会議を開き、交渉できるようにするためであり、いずれはここに国家行政機関の土台を築くためである。多国籍軍は少なくとも数年間はを駐留する必要があろう。
選挙の実施など、民主主義手法の導入を求めてはならない。求めれば、各地の軍閥将軍や民族、宗教勢力の争いを激化させてしまうだろう。現在の状況では、たとえ選挙を実施しても、安定した民主主義制度が根づく可能性は皆無である。