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オーシャンニュースレター

第451号(2019.05.20発行)

鬼界巨大海底カルデラ探査プロジェクト~超巨大噴火予測に挑む~

[KEYWORDS]海底探査/超巨大災害/海底鉱床
神戸大学海洋底探査センター教授◆巽 好幸

世界一の火山大国日本では、今後100年間に約1%の確率で超巨大噴火が発生し、これまでにない甚大な災害となる可能性がある。
この噴火を予測するには、地下にある巨大なマグマ溜りを正確に可視化しモニタリングすることが必要だ。
しかしこのための大規模人工地震探査を陸上で実施することは事実上不可能に近い。
そこで私たちは日本で唯一海域にあり、しかも直近に活動した超巨大火山「鬼界カルデラ」にターゲットを絞った。

焦眉の急:超巨大噴火

日本列島の現在の地勢、すなわちプレートの配置や運動が定まったのは今から約300万年前のことである。従って、この300万年間に起きてきた「天変地異」は、これからも必ずこの列島で起きる。日本列島の変動を、「有史以降」とか、ましてや「生まれてこの方」などという短いタイムスケールで捉えてはいけないのだ。
日本史上最大規模の噴火は富士山宝永噴火や桜島大正噴火などで、およそ1.5立方km(東京ドーム1,300杯分)のマグマを噴出した。しかし日本列島では、これらの大噴火の数十倍から数百倍のマグマを一気に噴き上げる「超巨大噴火」の痕跡が、地質記録としてよく残っている過去12万年間に限っても、少なくとも11回も起きてきた。これほど莫大な量のマグマが放出されると地下には大きな空洞ができ、地盤が大陥没を起こして「カルデラ」と呼ばれる直径20kmにも及ぶ窪地が形成される。直近のものが、7,300年前に超巨大噴火を起こし、南九州縄文人を消し去り天岩戸神話のモチーフになったとも言われる「鬼界海底カルデラ」である。
12万年間に11回という超巨大噴火の発生を確率で表すと、今後100年間に約1%にあたる。この一見低い確率が相当に高い切迫性を示すことは、1995年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)や2017年の熊本地震によって実証済みである。さらに、例えば九州で超巨大噴火が起きた場合には、本州・四国の全域が10cm以上の火山灰に覆われ、すべてのライフラインは停止すると予想される。この破局的災害を「危険値」(=想定被害者数×年間発生確率)で表現すると約4,000人/年となる。この値が、交通事故死亡者に対する値とほぼ同程度であることを考えると、超巨大噴火を火山大国における「自然災害」として認識し、対策を講じることが必要であろう。

鬼界カルデラ探査:これまでの成果

■図1
鬼界カルデラの位置と海底地形。実線は地形と地下構造から推定されるカルデラ縁を、破線は反射法地震探査の側線を、黄色四角は水柱音響異常を示す。

破局的な災害を引き起こす超巨大噴火を予測するには、病院のCT検査と同様の原理で、地下にある「マグマ溜り」を精密に可視化して、それをモニタリングすることが必要である。ただ、地下を調べるには、X線の代わりに人工地震波を用いた探査を行う。しかし、多数の地点で人工地震を起こすことが必要であるため、陸上で大規模な探査を実施することは困難である。そこで私たちは、日本で唯一海底に存在し、しかも直近に超巨大噴火を起こした「鬼界カルデラ」(図1)にターゲットを絞った。これまで数多くの外航船員を輩出して来た神戸大学海事科学部の附属練習船「深江丸」に、最新の人工地震発生装置や受信機を装着し、さらに、海底地形を精密に測定するマルチナロービーム音響測深装置、海底の岩石や地層を観察し試料を採取するROV(遠隔操作型海中ロボット)を搭載し、2016年9月から探査を開始した。船上観測のみならず、電位差磁力計、地震計などを海底に設置し、地下の様子をより多角的に観測している。
海底地形や地下構造の調査によって、このカルデラが24×19km(長径と短径)と17×15kmの2重の構造を持つことが明らかになった(図1)。一般にカルデラの認定は地形的な窪み(陥没)で行われるが、今回は地形に加えて陥没を引き起こした地下の断層の位置も考慮に入れて、カルデラの形を正確に求めた(図2)、その陥没量は、内側のカルデラでは約600m、外側は約300m、カルデラの容積は約140立方km。壮大な阿蘇カルデラとほぼ同規模のカルデラが海底に潜んでいたのである。
鬼界カルデラの内部に、ドーム状の高まりが存在することは以前の海上保安庁の調査などで分かっていたが、その正体は不明であった。海中ロボットでこのドームを観察すると、その表面は角ばった岩石が散在し、高温マグマが水と接してできる特徴的な亀甲状の割れ目を示していた。またこれらの岩石を採取して分析すると、流紋岩と呼ばれる火山岩であることが分かった。これらのことから、カルデラ内に存在するドーム状の地形は、32立方kmを超える世界最大級の溶岩ドームであることが明らかになった。
また、内側のカルデラ底を作っていた平坦な地層が、溶岩ドームの成長に伴って捲れ上がっていることから(図2)、この巨大溶岩ドームは7,300年間のカルデラ形成以降に貫入・噴出したことが分かった。さらに、この溶岩の化学的特性を7,300年前の超巨大噴火時のマグマと比較すると、両者は独立に形成されたことが判明した。つまりこの火山は、超巨大噴火とカルデラの形成の後の静穏期にあるのではなく、次の超巨大噴火の準備期に入っていると考えるのが妥当であろう。鬼界海底火山の地下では現在でも活発にマグマが供給されている可能性が高い。

■図2 反射法地震探査によって得られた地下構造。
ドームや貫入岩以外のところでは層状の構造が顕著であるが、
ドーム内にはゴースト波と呼ばれる干渉ノイズを除くと、層状構造はまったく見られない。

鬼界海底カルデラ探査:今後の取り組み

2021年度には(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)と共同で、最新鋭の探査船「かいめい」を用いた地下30km程度までの大規模地下構造探査を実施する予定である。この探査によって、マグマ溜りやそれにマグマを供給する「火山システム」の全容を、世界で初めて明らかにできると期待される。さらには、JAMSTECの調査船を用いて超深度ピストンコアリング、ドレッジなどを行い、鬼界カルデラ火山の活動史、過去の超巨大噴火のサイクルを明らかにし、噴火予測に生かしたいと考えている。
また溶岩ドームでは、いくつかの場所で水中音響異常が見つかっており、この異常は熱水プルームによって引き起こされている可能性がある。熱水プルーム周辺では、熱水金属鉱床が形成されている場合が数多く知られており、(独法)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)と連携して調査検討を行っていく予定である。
このような超巨大噴火の予測や資源評価などに関する研究を進めるとともに、将来必ず私たちを襲うと予想されているこの破局的な災害に対してどのような減災対策が可能かを、皆さんと一緒に模索して行きたいと考えている。(了)

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