Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第72号(2003.08.05発行)

第72号(2003.08.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(横浜国立大学国際社会学研究科教授)◆来生 新

◆72号は海の知識にかかわる組織で活躍される方々からのオピニオンをいただくことができた。「波ゆきて波ゆきて寄る海月かな」高野素十。海の月と書いてクラゲ。クラゲという生物にこの文字を当てた先人の美意識の鋭さ。8月の海は海水浴とクラゲの海である。

◆「生物多様性と水族館の役割」をお書きいただいた堀氏の江ノ島水族館はクラゲの飼育展示を始めた水族館として有名である。古くからの観光名所、サザンの湘南イメージの地である江ノ島に、クラゲで有名な水族館があることはあまり知られていない。この夏は各地の水族館を訪れて、海を知ることを楽しみたいもの。

◆GESAMPという名称が、ほとんどの読者にとって初耳であろう。海の環境を良好に保つことは、われわれ人類の未来の健全な存続に大きな意味を持つ。海の国際的な性質は国連の役割を決定的に重要なものとし、因果の複雑さは科学的な認識の必要を大きなものとする。多くの科学関係者のプールへの積極的参加を本誌も期待したい。

◆現存する全国唯一の大名船千山丸にまつわるエピソードを紹介する須藤オピニオンは、後の世代に歴史的な価値を有しうる物が、時の流れの中で廃棄されずに保存され、その価値が再評価されるまでに、いかに多くの意図せざる出来事が積み重なり、その積み重ねが結果において大きな意味を持つかを教える。

◆時代が刹那に求めるものとそれに応ずるための知識、それらの意義と限界、刹那を超える価値を認識することの難しさ、意図せざることの結果における意義と意図的な知的営為の意味と限界。波ゆきて寄る海月のように、私たちの思いや営みは、時代の潮流に漂う受動のものではあるが、同時になお、ある意図を持って能動的に動く。海月の無味は、それ自体の持つ歯ざわりと、他人の施す巧みな調理とが出会うことにより、独特の存在感を主張するに至る。などと、とつおいつ考えつ、ビールの軽い酔いとともに今年の夏も過ぎて行く。暑さに負けずよい夏を。(了)

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