Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第547号(2023.05.22発行)

海洋予測のための相乗的な海洋観測網SynObsについて

[KEYWORDS]国連海洋科学の10年/海洋予測/観測システム評価
気象研究所全球大気海洋研究部、「国連海洋科学の10年」プロジェクトSynObs共同議長◆藤井陽介

SynObsは、日本が主導する「国連海洋科学の10年」プロジェクトの一つである。
SynObsは、海洋予測においてさまざまな観測データが最大限の相乗効果を発揮するような効率的な海洋観測網の提案を目指している。
日本からも海洋科学に関係する研究者の積極的な参加を期待したい。

SynObsの発足

国連では、2021~2030年を「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」と定め、持続可能な開発目標(SDGs)達成のために海洋科学の知見を活用するさまざまな活動の後押しをしている。日本でも、国連海洋科学の10年国内委員会※1が設置された他、多くの研究者が関連する活動に参画している。その中で日本が主導する「国連海洋科学の10年」プロジェクトの一つが、「海洋予測のための相乗的な海洋観測網(SynObs:Synergistic Observing Network for Ocean Prediction)」である※2。SynObsは海洋予測においてさまざまな観測データが最大限の相乗効果を発揮するような効率的な海洋観測網の提案を目指している。
海洋予測にとって海洋観測データは、将来変化を予測する海洋数値モデルに与える最初の海洋状態を推定するために、必要不可欠である。一方海洋観測にとっても、海洋予測はそのデータの実社会における主要な活用先であり、観測網の維持には観測データの予測におけるインパクトをアピールすることが必要である。1998~2008年実施の「全球海洋データ同化実験プログラム(GODAE)」ではそのことが当初より認識され、2007年には「観測システム評価タスクチーム(OS-Eavl TT)」が結成された。その後OS-Eval TTは後継プログラム、現「海洋予測に関する国際研究プログラム(OceanPredict)」に引き継がれ、この問題に継続的に取り組んだ。しかし、観測の詳細情報の交換や評価結果の活用について観測機関との連携が十分でないなどの課題もあった。そこでOS-Eval TTは、「国連海洋科学の10年」を機にSynObsを立ち上げた。
SynObsは、「未来のための海洋予測の可能性(ForeSea)」、「海洋観測の共同設計(Ocean Observing Co-Design)」、「世界沿岸海洋の観測と予測(CoastPredict)」※3という3つの「国連海洋科学の10年」プログラムの包括的プロジェクトとして運営されている(図1)。ここでForeSeaはOceanPredictが、残り2つはユネスコ政府間海洋学委員会(UNESO-IOC)と世界気象機関(WMO)に所属する全球海洋観測システム(GOOS)が主導している。また、日本では(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)が中心に推進している「国連海洋科学の10年」プログラム「海洋デジタルツイン(DITTO)」や、Ocean Observing Co-Designの下部プロジェクトである「2020年以降の統合全球海洋観測アレイ(OneArgo)」とも連携を進める予定である。

■図1 SynObsと関連する国際研究組織

キックオフワークショップの開催

SynObsでは、2022年11月15~18日に、気象研究所主催、JAMSTECの共催で、つくば市においてキックオフワークショップを開催した(図2)。オンラインを含め国外から84名、国内から62名の研究者が参加し、全53件の研究発表が行われた。
本ワークショップでは、観測データのインパクトに関する研究について多くの発表が行われた。例えば、マイアミ大学Matthieu Le Henaff博士は、台風予測に関する観測インパクト実験についての発表を行った。またリエージュ大学Marilaure Gregoire博士からはWMO主導の気象予測に対する観測インパクトの継続的評価について発表があり、今後、海洋を含む地球システムモデルを用いた気象・気候予測における観測インパクト評価について、WMOとSynObsの協力の必要性を確認した。また、観測データの取得に関する漁業者との協力の深化についても、九州大学広瀬直毅博士他2名による発表を受けて議論された。参加者には、OneArgoやOcean Observing Co-Design、衛星観測ミッションの関係者も多く、海洋観測の現状や今後の観測計画などについて紹介していただいた。海洋予測と海洋観測の専門家が多くの議論を交わした本ワークショップを通して、国内外の研究者にSynObsの開始をアピールすると同時に、今後の協力体制を構築できた。

■図2 SynObsキックオフワークショップの様子(大会場で密を避けて開催)

SynObsの今後の活動について

SynObsでは現在、参加する各国機関の協力のもと、観測システム実験(OSE)や観測システムシミュレーション実験(OSSE)を10以上の海洋予測システムで同時に実施することを計画している。OSE(Observing System Experiment)とは、予測に必要な最初の海洋状態を推定するためにある実際の観測データについて利用した場合としなかった場合の予測を行い、両者の差からそのインパクトを評価する実験である。またOSSE(Observing System Simulation Experiment)とは、高解像度モデルによるシミュレーション結果から作成したバーチャルな観測データを用いたOSEと同様の実験で、まだ実在しない将来の観測システムのインパクト評価が可能である。個々のシステムによるOSEやOSSEの結果はどうしてもそのシステムの性能や特性に左右される。SynObsでは、多数のシステムによるOSE・OSSEの結果を総合したシステムに依存しない一般的で信頼性の高い評価を行い、より良い海洋観測ネットワークの設計に資することを目指す。
OSEでは、既存の衛星海面高度計やアルゴフロート、熱帯係留ブイなどの重要度の評価を行う。またOSSEでは、将来の衛星海流観測ミッションや、アルゴフロートの高密度化、水中グライダーによる陸棚域観測のインパクトについて評価する。実験は2023年中に実施し、その結果を2024年に開催されるWMO観測インパクトワークショップやOceanPredictシンポジウム等で発表する予定である。
またSynObsでは、海洋観測のインパクト評価を観測関係者や海洋科学コミュニティに広く周知するため「観測システム評価ショーケース」と称する活動も計画しており、ウェブページの作成や国際学術誌の特集号を予定している。さらに、Ocean Observing Co-DesignやWMOと協力し、既存の海洋観測の重要性や将来の観測ネットワークの設計に関する提案書の作成を目指している。SynObsの活動は、海洋予測や海洋観測に関わる科学者の自発的な参加や支援に支えられている。日本国内からも積極的な貢献を期待する。(了)

  1. ※1https://oceandecade.jp/ja/
  2. ※2https://oceanpredict.org/foresea/synobs
  3. ※3Nadia PINARDI「コースト・プレディクト始動~グローバルな沿岸海洋の観測と予測」本誌第514号(2022.1.5)
    https://www.spf.org/opri/newsletter/514_2.html

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