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オーシャンニュースレター

第545号(2023.04.20発行)

海洋基本計画の残された課題と今後の展望

[KEYWORDS]海洋政策/海洋基本法/海洋基本計画
(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長◆阪口秀

2008年に制定された海洋基本計画は、これまでに2013年、2018年に改定が行われ、時宜に応じた海洋政策の推進の基盤となっており、本年には3回目の改定が予定されている。
今回の改定をより良いものとすることを目指して実施した「わが国における最近の海洋政策に関するアンケート調査─『第4期海洋基本計画』策定を念頭に─」の結果から見えてきた課題を踏まえて新たな海洋基本計画のあり方を提示したい。

新たな海洋基本計画の改定への貢献を目指して

海洋基本計画は、「海洋に関する情勢の変化を勘案し、及び海洋に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに、海洋基本計画の見直しを行う」という海洋基本法の第16条に基づき、2013年および2018年に改定が行われ、時宜に応じた海洋政策の基盤となっている。そして、本年(2023年)は3回目の改定が予定されている。本稿は今回の改定をより良いものとすべく実施した「わが国における最近の海洋政策に関するアンケート調査─『第4期海洋基本計画』策定を念頭に─(以下、「本調査」とする)」の結果※をもとに、現行の海洋基本計画(以下「第3期計画」とする)の課題を踏まえた新たな海洋基本計画(以下「第4期計画」とする)のあり方を提示する。
なお、本調査は(一社)海洋産業研究・振興協会の協力を得て、海洋政策に関心のある国会議員や地方自治体職員、大学等教職員、研究機関(独立行政法人/国立研究開発法人等)役職員、団体(NPO・NGO含む)役職員、民間企業役職員など(約6,000名)を対象としてオンライン形式(メールおよびウェブサイト)で実施し、2022年10月21日~11月9日の実施期間に355名から回答を得た。ご協力いただいた皆様には、心より御礼申し上げたい。

アンケートの結果から見えるもの

本調査で、海洋基本法や海洋基本計画というわが国の海洋政策の制度面に注目したQ1-3、第3期計画の第2部に記載されている「海洋に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策」の取り組み状況に注目したQ4-13、わが国の海洋政策の継続的な改善に注目したQ14-17をそれぞれ設けた。このうちQ4-13では課題もあるものの、概ね好意的に評価されている。
一方で、海洋基本法や海洋基本計画などの制度面に注目したQ1-3では、「あなたは海洋基本法をご存じでしたか?(Q1)」という質問に32.5%が「知らなかった」または「聞いたことはあるがよく知らない」、「海洋基本計画が5年ごとに策定されることをご存じでしたか?(Q2)」という質問に33.9%が「知らなかった」、「現在、第3期海洋基本計画の計画期間中ということをご存じでしたか?(Q3)」という質問に47.6%が「知らなかった」とそれぞれ回答するなど、海洋基本法や海洋基本計画自体の認知度が低い結果が出る状況となっている。
また、海洋政策の継続的な改善に注目したQ14-17でも、「『PDCAサイクル』による施策の工程管理が実施されていることを、ご存じでしたか?(Q14)」に55.2%が「知らなかった」、「参与会議は行政に対する助言機関ですが、『海洋基本計画に掲げた諸施策の実施状況を継続的にフォローしていくため、各施策の実施主体である関係府省は、参与会議に積極的に参画する』とされていることをご存じでしたか?(Q15)」に61.7%が「知らなかった」と回答するなど、わが国の海洋政策のこれまでの改善プロセスが十分に理解されていない現状が明らかとなった。この意識の低さは、資金の流れが少ないこと、投資の対象として魅力が無いことが原因かと推測される。

有識者はこの結果をどう見たか

本調査で、上述の355名のアンケート結果に加え、9名の有識者へヒアリング調査を実施した。ヒアリング調査は、第3期計画(第2部)が重視する9つの施策に関する評価の妥当性に注目しているが、第3期計画全体に対する評価や第4期計画への期待についても言及している。
その結果、「各省の施策ではできないところを、総合海洋政策推進事務局が取り組んで、シナジーを生み出すことを第4期計画に期待する。また、同事務局が、省庁連携に積極的に取り組むことや、そのことについて良い評価がなされるべきである。そうした省庁連携に取り組むことが、同事務局の重要な役割の一つとなる」という回答が寄せられた一方で、「海洋基本法を制定した際の「統合」や「総合」という視点が、相対的に弱化しつつある。(中略)海洋基本法ができて15年が経ち、行政の担当者も変わり、海洋政策の統合への意識(日本が縦割りのままではいけないのではないかという立法の基本的な精神)が段々と弱まっているように感じる」という現状の課題を指摘する意見も寄せられた。
また、海洋政策の推進体制についても、「データに基づくシステム科学が海洋基本計画では要素的なものに矮小化されてしまっている印象がある」、「参与会議も含めPDCAサイクルは実質的に機能しているのであろうか。第4期計画では海洋基本法の精神に戻り、各省庁が行えばよいことと内閣府で統合的に行うべきことを仕分けして、各省庁の総花的なものではなく、PDCAサイクルが目に見えるような簡潔なものにすべきではないだろうか」といった意見に加え、「総合海洋政策本部が積極的に動いて、総合性の確保についての情報発信の仕掛けや工夫をして欲しい。批判されているのは、総合性の欠如である。総合性をしっかり確保しながら行っているというメッセージを出していく、総合性の出し方が大切になってくると思われる」や「新しく省庁の連携あるいは省庁の枠組みを超えてなにが具体的に展開され、整備されたのかが明確に見えてこない。成果の国民への広報活動も弱いように思う」といった情報発信に対する課題を指摘する意見も寄せられた。

出典:「我が国における最近の海洋政策に関するアンケート調査―「第4期海洋基本計画」策定を念頭に―」をもとに筆者作成。

第4期海洋基本計画への期待

日本経済新聞(2023年3月6日付)によると、第4期計画で、「総合的な海洋の安全保障」と「持続可能な海洋の構築」が主要なテーマになるという。これらの課題はこれまでも海洋基本計画で重視されてきたが、地球環境や国際情勢の急激な変化を踏まえると、妥当な方向性である。しかし、これらの達成には、本稿で指摘したように統合的あるいは総合的に取り組むことが求められる。何よりも国民ひとりひとりが主体的に取り組むことがその達成には必須である。本調査が突きつけた課題を超克する第4期計画が示されることを切に願うとともに、海洋政策における日本の立ち位置が大きく後退し、国際的なリーダーシップが失われつつあることを十分に認識しながら、その達成に当研究所が十二分に貢献する決意を新たにする次第である。(了)

  1. 海洋政策研究所 我が国における最近の海洋政策に関するアンケート調査―『第4期海洋基本計画』策定を念頭に―
    https://www.spf.org/opri/news/20230126.html(概要版)、
    https://www.spf.org/opri/news/20230316.html(結果報告)

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