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オーシャンニュースレター

第522号(2022.05.05発行)

トンガ海底火山噴火:海洋国家・火山大国ニッポンへの教訓

[KEYWORDS]火山災害/超巨大噴火/海域観測
神戸大学海洋底探査センター客員教授◆巽 好幸

トンガで発生した海底火山の噴火は火山津波災害の存在を再認識させた。
海域火山も多数分布するわが国ではこれらの監視を強化するとともに、将来必ず起きる超巨大噴火による破局的災害に備えて、世界をリードする海域探査・観測を実施すべきである。

トンガでの海底火山の噴火

昨年から活動を続けていた南太平洋トンガ王国のフンガトンガ・フンガハアパイ火山で、1月15日に大規模な噴火が起きた。噴煙は20km超まで立ち上がり、2,000km以上離れたニュージーランドでも爆発音が聞こえたと言う。噴火のメカニズムなど、詳細は依然として不明であるが、今回の噴火は世界中に衝撃を与えた。遥か離れた日本や北米、中南米など環太平洋沿岸でも津波が観測されたのだ。
わが国では幸いにも地震と比べると頻度が少なかったこともあり、火山災害についての関心は決して高いとは言えない。しかしこの国には世界中の7%に当たる111の活火山(約1万年前以降に活動した火山)が密集し、世界一の火山大国である。また四方を海で囲まれた海洋国家であるために、活火山の約3分の1は海域に分布する。

災害としての火山津波

津波は、東日本大震災のように海溝型地震に伴う海底地殻変動が原因で起きることはよく知られている。一方で火山活動に伴う「火山津波」もこれまでにも多くの被害を出してきた。1792年には、1万5,000人というわが国の火山災害史上最多の犠牲者を出した津波災害(島原大変肥後迷惑)が島原半島周辺で起きた。また1640年の北海道駒ケ岳や1741年の渡島大島西山の噴火に伴う津波は最大遡上高が20mを超え、それぞれ700人以上および1,500人近い犠牲者を出した。これらはいずれも火山活動によって山体が崩壊して、岩屑流が海へと流れ込んだことが原因だ(図1(a))。しかし、今回のフンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火では大規模な山体崩壊は認められていない。
大規模な噴煙が立ち上がると重力バランスが崩れて噴煙柱が崩壊し、発生した火砕流が海へ突っ込むと津波が発生する場合がある(図1(b))。また多量のマグマが噴出した結果海底にカルデラが形成され、この陥没を伴う海底地盤変動に伴って津波が引き起こされる可能性もある(図1(c))。海底火山の大規模噴火によって誘発されるこれらの津波は、今から7,300年前に、南九州の縄文文化を壊滅に追いやった「鬼界海底カルデラ」の超巨大噴火でも発生した。近隣では波高20m超、また現在の大分、高知、和歌山の沿岸にも高さ数mの津波が到達した。ただし今回のトンガ噴火では、火砕流の発生やカルデラの陥没は現時点では確認されていない。
フンガトンガ・フンガハアパイ火山噴火に伴って発生して広範囲に広がった津波は、噴火によって発生した衝撃波が伝播する際に海面を押すために波を励起して、これらが共鳴現象を起こして重ね合わされた可能性が高い(図1(d))。

■図1 火山津波の主な発生メカニズム

焦眉の急、海域火山探査・観測

トンガ火山列島は、太平洋プレートがトンガ・ケルマディック海溝からオーストラリアプレートの下へ沈み込んで形成されている。火山列は陸域のニュージーランド北島からケルマディック諸島をへてトンガ諸島へと連なる。実はこの地勢は、日本列島、特に伊豆半島から南へのびる火山列島と酷似している(図2)。まず同じ太平洋プレートがほぼ同じ速さで沈み込んでいる。そしてこの火山列は、地球の海底の大部分を占める「海洋地殻」の上に造られている。現在も活動的な西之島火山や、昨年「軽石漂着」を引き起こした福徳岡ノ場など、今回のトンガでの噴火と災害を他山の石とすべき海底火山が多数分布している。上述したような火山津波の発生も含めて、このような海域火山(海底火山と火山島の総称)の監視強化はわが国にとって喫緊の課題である。
今回のトンガ噴火以来、国内のマスコミは「海底火山」に焦点を絞ってその危険性などを報道してきた。これは海底火山が多数分布するわが国では当然のことであろう。わが国は111座の火山が密集する世界一の火山大国であるのだから、たびたび切迫度が高いことが話題になる富士山を始めとして、海域陸域を問わず常に噴火の危険性に晒されているのだ。さらに私たちが対応しなければいけないことがある。それは今回のトンガでの噴火とは比べ物にならないくらい超ド級の「超巨大噴火」だ。この噴火は最も新しい地質時代である完新世(約12万年前以降)に限っても、図2に示した7つの火山で少なくとも11回も起きている。統計学的にはこの噴火は今後100年間に1%の確率で発生する。ひとたびこの噴火が起きればその被害は破局的だ。最悪のケースとして九州で超巨大噴火が起きた場合を想定すると、九州は高温の火砕流に覆い尽くされ、四国と本州全域には10cm以上の火山灰が降り積もる。こうなると現状のライフラインは全てストップ、おまけに復旧救援活動は不可能であるため、1億人以上が危急存亡の秋(とき)に立たされる。
一方でこのような破局的災害は低頻度であるが故に「自然災害」という認識すら無いのが現状だ。しかしその危険値(=想定死亡者数×年間発生確率)は富士山噴火より2桁、豪雨災害や首都直下地震よりも1桁大きく、交通事故と同程度である。このような破局的な火山災害被害を少しでも軽減して、日本という国家、日本人という民族が存続する術を考えることこそ、私たちの世代に課せられた使命ではないだろうか。
また現状ではこのような超巨大噴火を予測することは困難である。その最大の原因は、火山の地下に潜むマグマ溜まりをCTスキャンの原理を用いて正確に可視化することができていないことだ。この観測が進まないのは、多地点で人工地震を起こすことが人口が密集する陸上ではほぼ不可能なことによる。
しかし海域火山、例えば直近に超巨大噴火を起こした鬼界海底カルデラ※1では船舶を用いれば探査観測を行うことができる。このようなマグマ溜まりを高精度で可視化する世界で初めての試みは神戸大学が始めている。今後必ず起きる破局的火山災害の軽減を目指して、海洋立国・技術立国であるわが国が世界に先駆けて重点的に行うべきであろう。さらには、活動的な海域火山の常時高精度モニタリングを実現するために、海域に設置された光ファイバー網を活用する観測研究も必要不可欠であろう。(了)

■図2 日本の活火山(三角)と超巨大噴火を起こした火山(ピンク三角)。

  1. ※1巽好幸著:「鬼界巨大海底カルデラ探査プロジェクト~超巨大噴火予測に挑む~」、本誌451号(2019.5.20発行)

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