Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第496号(2021.04.05発行)

山形における海洋プラスチックごみ問題への挑戦

[KEYWORDS]飛島/指標評価手法/多様な主体による連携
NPO法人パートナーシップオフィス理事◆金子博

2006年の国の調査で、海岸に漂着しているプラスチックごみが青森県と並んで全国で最も多いとされた山形県の海岸。
20年にわたる多様な主体による地域を越えた連携により、一部の海岸で一時ではあるが裸足で歩ける状態にまで改善した。
活動の経緯を振り返り、責務を抱えた大人世代のこれからの行動を考える。

裸足で歩けない海岸

20年前、山形県の離島である飛島(酒田市)の西海岸の一部では1.5m程に積み重なった漁網類や雑多のプラスチックごみが壁となって、歩くこともままならなかった(写真1)。島民らは粛々とごみ拾いを続けていた。2001年、山形県と酒田市がボランティアを公募し「飛島クリーンアップ作戦」を実施した際に、NPO法人パートナーシップオフィスでは、清掃場所の近くに漂着ごみのモニタリング区画を設けるなどの関わりを持った。2002年からは多様な主体で実行委員会を構成し、「飛島クリーンアップ作戦」を実施している。毎回、県内外からのボランティアを公募し、参加費を徴収して200名余りの態勢で回収活動を継続してきた。およそ20年の取り組みで、海岸の一部は裸足で歩ける状態に一時ではあるが改善することができた(写真2)。ちなみに、2020年はコロナ禍のため、延期の上、規模を縮小し開催予定であったが、残念ながら台風による荒天により最終的には中止となってしまった。
海洋プラスチックごみ問題は、沖縄県や日本海側の離島や海岸で顕著に生じていた。日本列島の地理的な条件が背景にあるにしても、長い間、一部地域での問題に留まっていた。今では世界的な環境問題と認識されるに至ったが、2000年当時、国の関係省庁は実状についてほとんど認識していなかった。そこで当NPO法人は、この問題にいち早く取り組んでいたJEAN/クリーンアップ全国事務局(現(一社)JEAN)や(公財)日本離島センターと連携し、この問題の社会発信と共有化に動き出した。2006年から3年をかけて、被害甚大な海岸を抱える地域の国会議員、地方議員や当NPO法人などが協働し、個別対策法である「海岸漂着物処理推進法」の制定(2009年)に至った。その後の同法改正(2018年)により、海洋プラスチックごみの発生量を抑制していくための社会の流れが生まれ、第4 次循環型社会形成推進基本計画(2018年)の下で「プラスチック資源循環戦略」が策定された。2020年7月からの「レジ袋有料化」の取り組みもこの一環である。

写真1 2004年飛島西海岸クリーンアップ活動後 写真2 2010年飛島西海岸クリーンアップ活動後

漂着ごみ量の「物差し」づくりと啓発活動

河川や海岸などに漂着するごみの量を客観的に比較して、対策に役立てる方法はないか。国土交通省東北地方整備局の山形河川国道事務所の発議を受けて、2003年から当NPO法人が協働で開発したのが「水辺の散乱ごみ等の指標評価手法」である。山形県ではこの手法を海岸漂着物処理推進法に基づく地域計画上のモニタリングに採用し、2011年より実施している(図1)。10年にわたる回収活動等の成果として、砂浜海岸では秋期の漂着ごみは半減したが、磯場や消波ブロック施設海岸での改善は困難なことが明らかになった。海岸漂着物処理推進法では漂着ごみの回収は都道府県が中心的な役割を果たすことになっているが、改善の困難な磯場等の海岸については国による一歩踏み出した対応が求められる。
海洋プラスチックごみ問題では回収を下流側とすると、海にごみを出さないための上流側での啓発活動(発生抑制対策)も重要である。山形県での啓発活動の取り組みには3つの視点を置いている。①回収活動を啓発活動の一環としてとらえ(飛島クリーンアップ作戦等)、②海と離れた内陸部の県民を現場に連れ出し(とびしまクリーンツーリズム等)、③海のごみ問題を日常の機会に知ってもらう(出前講座や商業施設や公共施設でのパネル展示等)。このうちのクリーンツーリズムは、子どもと保護者を対象にしたプログラムで、「海ごみゼロアワード2020日本財団賞」※1を合同会社とびしまと合同受賞した。この取り組みは、2013年度に検討した体験型の環境学習プログラムが元になっており、県民をはじめ企業、行政担当者向けのプログラムも用意している。

大人世代の責務~減プラスチック社会への転換を

山形県における海洋プラスチックごみ問題への取り組みの特徴の一つに「多様な主体による連携」がある。県の象徴でもある最上川の歴史・文化の継承、環境保全や地域経済の活性化を目的に2001年設立された「美しい山形・最上川フォーラム」※2と、海洋プラスチックごみ問題に取り組む「美しいやまがたの海プラットフォーム」※3は、事務局の運営に県民が関わり、多様な団体等で構成されている。特に「美しいやまがたの海プラットフォーム」は、県、大学、NPO法人の三者で協働事務局を設置して2008年に始動した。後に海岸漂着物処理推進法の中で都道府県が設置できる対策協議会のモデルとなるが、行政、大学、NPO等が企画段階から議論を重ね、得意分野を持ち寄ることで対策を進めていくことを出発点としている。
2021年、山形県では海岸漂着物処理推進法に基づく地域計画が改定される。啓発活動の一環として実施してきた県内外の学生らによるクリーンアップ活動の成果の一つとして、2019年に県内大学生の任意団体※4が生まれた。地域計画の改定に際しては、学生らからも対策協議会へ提言をいただいた。さらに学生の対策協議会への加入に向けて調整している。
海洋プラスチックごみ問題の元凶は、大量生産、大量消費、大量廃棄という経済構造にある。若い世代にリスクを負わせ続けている大人世代の責務として、循環型経済への構造転換は不可欠である。まずは、使い捨てプラスチック製品の製造を一部使途は除いて早期に最小化することが必要である。2050年の脱炭素社会の実現のためにも石油由来プラスチックの生産停止を目指し、身近な生活の中での消費行動の変容として、われわれが取り組めることは多い。(了)

  1. ※1海ごみゼロアワード2020結果発表 https://uminohi.jp/umigomizero_award2020/announcement2020.html
  2. ※2美しい山形・最上川フォーラム http://www.mogamigawa.gr.jp/
  3. ※3美しいやまがたの海プラットフォーム「カワカラ・ウミカラ」 https://yamagatapf.info/
  4. ※4SCOP(Student Carry Out Project)東北公益文科大学の学生が中心となって発足した団体 https://scop.work/

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