Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第493号(2021.02.20発行)

リニューアルした神戸海洋博物館

[KEYWORDS]神戸港/海事人材育成/海・船・港
神戸市港湾局担当局長◆加島洋子

2020年2月5日、神戸海洋博物館は「神戸とみなとのあゆみ」をテーマに港の発展と神戸港の関わりを伝え、未来の海事人材育成に寄与する施設としてリニューアルオープンした。
映像技術を用いた展示や体験型コンテンツを組み込み、スケール感や魅力が向上した同館について紹介する。

神戸海洋博物館の歴史・変遷

神戸海洋博物館は、1987年4月に、「神戸開港120年」を記念して開館した。大海原を駆ける帆船の帆と波をイメージした白いスペースフレームの大屋根が特徴的で、「海から港から神戸が始まり、未来に船出する」をテーマに、船の仕組みやクルーズ客船の魅力、港の施設や役割、古の時より時代とともに移り変わる港と街の様子を、数多くの模型やジオラマ模型、映像などを用いた展示で紹介してきた。しかし、1995年に起こった阪神・淡路大震災は、神戸港にも甚大な被害をもたらした。本施設においても、液状化で周辺が地盤沈下したことによる電気や水道、ガスの途絶や建物及び展示物の損傷があり、約2か月半の休館期間を経て、再開した(なお、同じメリケンパーク内にある神戸港震災メモリアルパークは、被災したメリケン波止場の一部を保存するほか、震災被害と復興の記録を解説している)。その後、2006年からは、神戸港の開港以来その歴史とともに歩んできた川崎重工業(株)が、1階西側展示室で企業博物館「カワサキワールド」を展開している。
当館はメリケンパークの中核的な施設であり、市民をはじめとし、多くの方々にご利用いただいてきたが、開館から30年が経ち、全館的に老朽化してきたこともあり、中突堤周辺地区の魅力向上・にぎわい創出の一環として2019年にリニューアル工事に踏み切った。
これらに加えて、海運業界における人材不足が社会的課題となる中、港湾関連産業が集積する神戸市において、海事人材の確保・育成の取り組みを強化する必要性から2020年2月5日、「神戸とみなとのあゆみ」をテーマに港の発展と神戸港の関わりを伝え、未来の海事人材育成に寄与する施設としてリニューアルオープンした。

生まれ変わった神戸海洋博物館

リニューアル後は、神戸の海・船・港の過去・現在・未来を展示した総合博物館としての従来の役割を受け継ぎながら、映像技術を用いた展示や体験型コンテンツなどが組み込まれ、これまで以上に魅力ある施設となっている。
大きく分けて、①開港150年シアター、②行き交う船たち、③あゆみとはたらき、④国際交流、の4つのエリアから構成されており、①開港150年シアターでは、ロドニー号が大海原を越えて神戸港にやってくる映像や、神戸開港から150年のあゆみを感じる映像がエントランスホール全体に映し出され、ロドニー号の8分の1の大型模型とともに来館者を迎える。
②行き交う船たちエリアの「さわって発見!神戸の船たち」は、神戸港から世界に広がる航路網とその取扱い貨物、港で活躍する様々な船を紹介する体験型展示であり、その名のとおり、映像の中の港を行き交う船に触れるとそれぞれの役割や特徴が表示され、ゲーム感覚で学べるものとなっている。また、左右の大型壁面には鳥瞰図絵師・青山大介氏によりコンテナ船やクルーズ客船が描かれ、その存在感が来館者の目をひく。また、1階北側には博物館を訪れた記念となる写真を撮影できるトリックアートも設置されているので、来館した際には挑戦して頂きたい。
③あゆみとはたらきエリアは、開港から今日までの神戸港の歴史や役割・機能を伝え、体験型コンテンツを通じて、楽しみながら海・船・港の仕事の重要性を理解してもらい、未来の海事人材につなげる。ガントリークレーンと操船のシミュレーターは、子どもから大人まで楽しめる今回のリニューアルの目玉の一つである。ガントリークレーンシミュレーターでは、2本のレバーでガントリークレーンを操作し、船に積まれたコンテナを吊り上げてトラックに載せる荷役作業を行い、普段は見ることのできないクレーンオペレーター目線での操作が体験できる。操船シミュレーターでは、神戸港をCGで再現した映像の中で船を操縦する。雨を降らせたり、視点を変えるなど条件の設定変更もでき、航海士の仕事をより本格的に体験できる。その他にも、開港から現代までの神戸港の変遷を紹介するタッチコンテンツや、神戸港内の施設が描かれたピースを制限時間内に正しい場所に配置するパズル形式のタッチコンテンツで学びを深める。そして、このエリアを締めくくるのは実際に働いている人のインタビュー映像である。「洋上のしごと」「海を守る仕事」「物流を担う仕事」の3つのカテゴリーで、働く様子とともに働く人の生の声をインタビュー映像で紹介しており、これまでに学び・体験したことがより具体的に感じられる。
④国際交流エリアでは、神戸港を訪れたクルーズ客船や神戸港と提携を結ぶ姉妹(友好)都市・姉妹(友好)港の紹介、神戸海洋博物館の歴史など、神戸港の国際交流を様々な角度から紹介している。
ミュージアムショップには、海や船をテーマにセレクトしたグッズが取り揃えられ、企画展とコラボした商品が並ぶこともあり、選ぶのが楽しいラインナップになっている。また、トイレにはコンテナが描かれるなど、遊び心が感じられる意外な注目ポイントもある。

神戸海洋博物館全景(photo Forward Stroke inc) http://www.kobe-maritime-museum.com
博物館内部、ロドニー号模型展示

神戸海洋博物館の未来

新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リニューアルオープンした1カ月後の3月2日から神戸海洋博物館も休館を余儀なくされたが、国の緊急事態宣言解除を受け、6月2日から再スタートした。再開にあたっては、川崎重工業(株)の人共存型双腕スカラロボット「duAro2」(デュアロ・ツー)を設置し、自動検温システムを導入するなど、新型コロナウイルス感染対策をしっかりと取りながら、運営においても新しい取り組みを行っている。
2020年夏季には、ウォーターフロントエリアの活性化を目指し、夜の営業時間を延長し、音楽やキッチンカーなどと連携したナイトミュージアムや周辺レストランとの連携等を実施した。また、海・船・港に関する企画展の他、ポパイTMといった人気キャラクターとコラボした企画展など、魅力ある展示を次々と展開している。加えて、海事人材育成の視点から学校教育との連携を強め、神戸市内の小・中学校が校外学習の一環として遊覧船に乗って神戸港巡りを行う際に、併せて神戸海洋博物館をご利用いただき、学習効果を高める取り組みも行っている。
これらのウォーターフロントエリアにおける中核的な施設として賑わいづくりにも貢献する多様な取り組みを行いながら、海事人材育成という海洋博物館本来の目的を達成している。皆様方にも、コロナ感染対策状況を踏まえ、生まれ変わった神戸海洋博物館へぜひ足を運んでいただきたい。(了)

  1. ロドニー号:英国軍艦、1868年の神戸開港時に来航した船の一隻

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