Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】最新号

第493号(2021.2.20 発行)

銚子沖の鯨類と海洋環境を見つめて

[KEYWORDS]イルカ・クジラウォッチング/洋上風力発電/海洋ごみ回収
(有)銚子海洋研究所取締役社長◆宮内幸雄

房総半島の東端に設立した(有)銚子海洋研究所で20年以上にわたりイルカ・クジラウォッチング事業を実施してきた。
鯨類を頂点とした無数の生命の営みを支える海は今、地球規模の温暖化や海洋ごみの増加などの深刻な影響を受けている。
海からたくさんの恩恵をいただいてきた私たちは、これからも海への関心と親しみを持ち続け、海洋環境の重要性を訴えていきたい。

海とイルカに魅せられて起業

イルカ・クジラウォッチング事業実施を目的に、(有)銚子海洋研究所を設立して2020年で22年になります。その前は地元水族館の飼育技師として、6mもあるゴンドウクジラやイルカ、アザラシなどの海産哺乳類から、メダカや2cm足らずのウミウシ類まで、多種多様な水生生物の飼育展示を行なっていました。
今から30年前のある日、付き合いのある地元漁師の「銚子の海にもイルカはたくさんいるぞ」という一言で、その後の人生が一変する光景を目にすることになりました。銚子の海にたくさんイルカがいる!? それなら一度一緒に海に連れて行ってくれと漁の邪魔になるのを承知でお願いし、半信半疑で初めて外洋に出た日、突然目の前に出現したカマイルカの大群(800〜1,000頭)に、ただただ圧倒されました。呆然と野生のイルカたちの躍動を感じながら、海という大自然とそこに息づく野生動物への畏敬の念を覚えたことを今でも記憶しています。
その日以来、水族館勤務の後半10年間は何かと漁師に同乗し、憑かれたように銚子沖のイルカやクジラを観察しました。生息調査や季節的変動調査を経て、間違いなくこの銚子沖で「イルカウォッチング」が年間を通して実施可能と判断し、長年お世話になった水族館を退職して1998年に起業し、イルカ・クジラたちとの出会いという感動体験をたくさんの方々と共有して現在に至っています。

銚子の海とイルカ・クジラウォッチング

図1 銚子沖で出会ったカマイルカの群れ

銚子の海は、利根川が栄養分の豊富な水を運んでくるうえ三陸沖から南下する寒流の親潮と伊豆諸島を北上する暖流の黒潮がぶつかり、豊かな漁場を形成しています。回遊性のイルカやクジラたちも、この豊富な餌となる魚を求め銚子の海に集まってきます。
大多数のイルカやクジラは季節的な移動をする回遊性の哺乳類ですが、なかにはその地域から大きな移動をしない定住性のイルカもいます。世界では2020年現在90種類のイルカ・クジラが確認されています。日本近海では42種類のイルカ・クジラ類が確認されていますが、これまで銚子沖では、その半分にあたる22種類(ハンドウイルカ、コビレゴンドウ、シャチ、マッコウクジラ、タイヘイヨウアカボウモドキなど)が確認されています※1。銚子はその遭遇できる鯨類の種数の多さから、日本のみならず世界でも有数のウォッチングスポットとなっています(図1)。
銚子海洋研究所は1998年のイルカ・クジラウォッチング事業開始と同時に、たくさんの子どもたちに海への関心と親しみを持ってもらう活動も始めました。小中学生を対象とした講演や、実際に海に出る体験乗船、磯の生物観察会、ビーチコーミング、ビーチクリーン等、海の自然体験活動を毎年実施しています。
2019年5月には、社屋1階に「世界一ちっちゃな水族館」を開館しました。40m2、12坪という小さなスペースに、磯生物との触れ合い水槽(タッチングプール)を中心に大小10個の水槽を配置し、クラゲ類、ウミウシ類など比較的身近な海岸生物を飼育展示しています。それまではイルカ・クジラウォッチングの参加者や一般の観光客の皆さんに休憩所として提供していましたが、元職場の地元水族館の閉館に伴い、規模は小さくとも水族館と銘打ってオープンすることにしました。近隣の子どもたちや家族連れ、観光客の方々に、気軽な体験と学びの場として利用いただいております※2

洋上風力発電と環境との共生

現在、銚子沖には既存の着床式洋上風力発電設備1基が実証実験を経て稼働中です。銚子海洋研究所は、発電設備の建設前年(2010年)から工事期間を経て実証実験(2012〜2016年)までの6年間、環境影響評価の重要項目である海産哺乳類「スナメリ」の生息調査に携わる機会をいただきながら、環境変化に対する海洋生物の行動等についての多くの知見を得ることができました。
2020(令和2)年7月に銚子沖南海域が「再エネ海域利用法」に基づく洋上風力発電事業を推進するための「促進区域」として国より指定を受けました。これにより今後、洋上風力発電設備・整備が検討され、発電設備整備完了後20年以上にわたり発電が行われる可能性があります。銚子市においても地域の新たな産業、雇用、また観光資源の創出として、この発電事業に大きな期待を寄せています。
「促進区域」39km2(3,900ha)という広範囲に30〜37基の洋上風力発電設備を設置する案が事業者により示されていますが、本海域は希少な魚類や沿岸性小型鯨類スナメリの生息海域でもあります。「生物多様性の観点から重要度の高い海域」に選定されていることを踏まえ、実証の経験を生かして、より適切で高度な専門的調査を継続し、皆で知恵と工夫を常にこらしながら環境との共生を確立させていくことが重要であると考えます。

SDGs「目標14」のゴールを目指して

思えば水族館で23年間、多種多様な水生生物と共に過ごし、独立後は22年間も海と野生生物との出会いに明け暮れてきました。通算45年間という年月、生物たちと「海」という大自然に生かしていただいたことを実感しています。
ですから、2019年11月のクジラウォッチングで出会えたツチクジラの姿(図2)は、あまりにもショックでした。間違いなく彼らを苦しめている海の実情を目の当たりにして、今度は海とそこに暮らす生物たちのために何かできないか、私たちができることから始めてみようということで、2020年1月より計画を作成し、クラウドファンディングを活用し、たくさんの方々の賛同とご支援をいただきながら、8月に第1回「海洋ゴミ回収プロジェクト」を実施しました(図3)。それから月に1回一般参加者を募り、通常はウォッチング船から、荒天の場合は海岸で、ゴミ類を回収しています。
地球規模で問題となっている海洋ごみを、まず目の前の海から少しでも回収するよう、微力ですがプロジェクトを実行していきます。未来の子どもたちに、いつまでも青い海を残すためにも、この活動を続けていきます。(了)

  1. ※1銚子沖イルカ・クジラウォッチング遭遇鯨類(1998~2020年)の一覧表を、銚子海洋研究所のホームページに掲載している。
    https://choshi-iruka-watching.co.jp/watching/
  2. ※2「世界一ちっちゃな水族館」は現在改修中。2021年3月中に再開予定。
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