Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第487号(2020.11.20発行)

都心に誕生した新しい科学館「港区立みなと科学館」

[KEYWORDS]港区立みなと科学館/港区の海/教育
東京都港区立みなと科学館連携・広報担当◆眞木まどか

東京都港区立みなと科学館は、科学を体験できる場所を提供することで、区民の科学への関心を高め、教養の向上や主体的な学びの意欲増進に寄与する目的で、2020年6月にオープンした。
都心の強みを活かして、港区のステークホルダーとネットワークを築き、人と情報の交流の「機会」の創出を目指す。

港区立みなと科学館とは

■図1タッチパネルでモードを選択し、さまざまな情報を俯瞰できる「みなと・クエストMap」

港区立みなと科学館は、2020年6月に東京都港区虎ノ門にオープンしました。港区立初の科学館であり、東京都23区内でも32年ぶりの区立科学館の誕生です。当館は、科学を体験できる場所を提供することにより、区民の科学への関心を高め、教養の向上や主体的な学びの意欲増進に寄与する目的で設立されました。子どもたちに科学館を楽しんでもらうだけでなく、虎ノ門のビジネス街で働く大人にも科学に親しんでいただけるよう、朝9時から夜8時まで開館しています。事業コンセプトは、「先進的な学びの、その先へ“まちと共に人々の成長を支える科学館”」。世界で活躍する人材の輩出を科学館として支えることを目指しています。なお、2階には気象庁気象科学館が併設されており、みなと科学館の入館者も自由に見学することができます。宇宙の姿を美しく再現できる4Kデジタル投影機搭載のプラネタリウムホールも備えています。
みなと科学館の基本的な性格の一つとして、学校の学び、とくに理科学習の補充・展開の場としての役割を担うことが挙げられます。当館の事業の中心である常設展示コーナーのコンセプトは、「“まちに息づく科学“の発見と探究」です。港区のような「まち」にも、実はさまざまな科学や技術がかくれていることを自ら発見していただくことを目指しました。テーマは、「しぜん」「まち」「うみ」「わたし」で構成し、それらにまつわる科学や技術に触れ、その不思議をひも解く体験を提供しています。4つのテーマの中心に位置するのは、当館オリジナルコンテンツの「みなと・クエストMap」です。港区の地形を模した大型スクリーンに、港区内の埋立地の変遷、昼夜人口の比較、外来生物が発見された場所などが投影されます(図1参照)。
常設展示コーナーは、この「みなと・クエストMap」を体験後、各テーマに沿った詳しい科学に触れていただく構造になっています。「しぜん」を例にとると、「みなと・クエストMap」で、港区内にいる生きものの生息場所とその種類や、区内の緑地を俯瞰した後、「みなと・気づきWall」にある昆虫や両生類の標本で、身近な生きものの特徴をご覧いただきます。そして「みなと・探究Lab」では、大型スクリーンに映し出された港区民の森で虫取りを楽しめる展示の他、回転式パネルや光学式顕微鏡を使いながら、生きものの成長過程や生息環境、身体の構造の細部を体験的に学んでいただけます。

「まち」からとらえた港区にある海

■図2 自分の身体を船に見立てて、仮想の川下り体験ができる「水流シミュレーター」

近世からその歴史を簡単に振り返りますと、現在の芝浦付近はもともと、漁村として海の豊かな恵みを受けていました。さらに江戸時代初期から埋め立てが始まり、末期には「品川台場砲台」が築かれるなど、海へ向けて土地の拡大が行われました。明治時代になると、物流機能強化のため近代的な鉄道や港湾が整備されました。近年では埋立地に新たに商業施設や住宅の建設などの都市開発が進み、海に近い「まち」が誕生しました。港区に面する海は、食糧調達の場から始まり、庶民の生活の土地、その後、国防のための拠点や、産業の発展に寄与する交通や港湾の整備へと進んできたのです。
現在では産業発展や人口増加に伴う水質悪化等の改善も進んできてはいますが、臨海副都心の開発によって「お台場エリア」に人の住む新たな街が誕生したにもかかわらず、まだまだ充分なものではありません。この状況を改善しようと住民や地元企業の方々による「東京ベイ・クリーンアップ大作戦」が20年以上にわたり続けられています。2014年には「泳げる海、お台場」を合言葉に、2日間限定の「お台場海水浴」を開催するなど、現在は人が楽しめる海であることが大切にされています。2018年に港区と東京大学が共同で開発した「お台場海水浴予報システム」を使って、降水量や降雨の場所の情報から水質を予想できるようになり、お台場の海を楽しめる日があらかじめ分かるようになりました。
「まちに住む人と海」の関係が深まってきたことを伝えるために、当館の「みなと・クエストMap」では、埋立地の変遷や、埋立地の土地利用がわかるデータを重ね、埠頭から出港する船の種類や航路など、港区と海のつながりをご覧いただけます。隣接する「うみ」コーナーでも、運河から見える実際の風景や、レインボーブリッジの技術、ジェット船が進む仕組みなどを展開し、港区の「まち」から捉えた海とのかかわりを展示しています。このように知識を学びながら、展示を通して体感し(図2 参照)、「まち」からみた海の科学や技術に気づいてもらえるよう促しています。
また、併設の気象庁気象科学館には、水槽で実際に波を起こして、津波がどのように街に近づき被害を及ぼすかを示す津波発生模型があります。水底から水が動く様子を横から観察でき、波浪(普通の波)と比べて津波がどれほどのエネルギーを持っているのか疑似体験することで、津波が迫るメカニズムと避難の重要性を理解いただけます。気象科学館が展示している地球科学や気象現象、防災や減災、地球環境の観測技術などの分野と、みなと科学館が展示する「まち」にある身近な科学と技術の分野が補完しあい、より深い科学体験を来館者に提供できる、国内でも珍しい施設です。

都心の科学館の強みを活かして

地域の科学館として決して大きな施設ではないので、展示の入替や更新、空間の利活用を柔軟に行えることも強みの一つです。さまざまな科学や技術を紹介し、来館者に何度も新しい発見と感動体験をしていただきたいと思います。
そしてみなと科学館は、従来の科学館像である科学の知識を伝える場所になるだけにとどまらず、多くの人たちとともに、科学的視点をもって社会の課題について対話し、考え、具体的なアクションを増やす新しい科学館像を目指しています。さらにこの役割を、港区に立地する企業や研究機関など多くのステークホルダーとネットワークを築きながら実行できるところが、当館のユニークさにつながると考えています。
このように当館は、都心にあるメリットを活かして、人と情報の交流の「機会」を創出します。未来を担う子どもたちが港区に愛着を持ちつつ、世界のウェルビーイングを考え、持続可能な環境や社会づくりに貢献できる活動を行います。皆様には、ぜひ一度足を運んでいただき、ご意見をお聞かせいただけますと幸いです。(了)

  1. 港区立みなと科学館 住所 : 東京都港区虎ノ門3-6-9(港区立鞆絵小学校跡地に2020年に完成した気象庁虎ノ門庁舎内)
    TEL : 03-6381-5041 URL : https://minato-kagaku.tokyo/ 11月1日現在、新型コロナウイルス感染拡大防止のため入場は電話予約制

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