Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第479号(2020.07.20発行)

海洋プラスチックごみの解決に向けて

[KEYWORDS]海洋プラスチックごみ/プラスチック廃棄物管理/ゼロエミッション
(公財)環日本海環境協力センター主任研究員◆吉田尚郁

海洋プラスチックごみ問題が世界的に注目されるようになった。
しかし、海洋プラスチックごみの問題は20年前の調査でも認識されており、プラスチック製品の利用が本格化した1960年代から始まっている。
今、この海洋プラスチックごみ問題を解決するために必要なことは何であるかを考える。

公益財団法人環日本海環境協力センターと海洋ごみ

(公財)環日本海環境協力センター(以下、NPEC)は、1997年に富山県富山市に、日本海、黄海の海洋環境保全のため、近隣諸国、沿岸自治体と連携・協力していくことを目的として設立された。
設立翌年の1998年からは、国内および中国、韓国、ロシアの日本海・黄海の沿岸自治体やNGO等の協力を得て、市民や子どもたちの参加のもと海辺の漂着物調査を実施してきた。これまでに4か国の38自治体、243海岸で、延べ39,410人の参加のもと実施された(2018年度現在)。
NPECの調査方法はシンプルであり、一定の区画(基本:10m×10m)内の海洋ごみ(人工物に限る)を収集し、8つの素材(プラスチック類、ゴム類、発泡スチロール類、紙類、布類、ガラス・陶磁器類、金属類およびその他人工物)に分類したのち、個々の計数、計量を行う。多くの調査は年1回であるため、調査の時期や調査前の気象条件等によっては、必ずしもその地域の海洋ごみの状況を正確に示すものではないが、市民や子どもたちに海洋ごみの問題を伝える役割を長年にわたって担ってきた。
この20年にわたる調査で変わらないことがある。それは海岸に漂着するごみの組成である。図に2004年と2018年の海岸漂着物の組成の国内全調査地点の平均を示す。図に示されるように、漂着物の多くは海洋プラスチックごみであり、発泡スチロールを含めると、9割がプラスチックである。近年、海洋プラスチックごみやマイクロプラスチックが世界的に注目されるようになったが、プラスチックごみの問題は20年前の調査時点ですでに認識されていた。わが国の海岸に限らず、世界中の海岸で問題が認識されるようになり、今では国際的な環境問題として取り上げられるようになった。

■ 2004年と2018年のNPECの調査による海岸漂着物の組成の変化

海洋プラスチックごみ問題

市民や子どもたちが参加して行った海辺の漂着物調査

そもそもプラスチックが使われるようになったのは、ポリスチレンやアクリル樹脂、ナイロンなどが工業生産される1930年代からである。1960年代からは、石油由来のポリエチレンなどのプラスチック製品が安価に、また、大量に生産されるようになり、世界的にその使用が拡大した。当時は現在のように、ごみを分別しリサイクルすることもなく、多くのプラスチックごみは埋立処分されていた。1990年代には、ペットボトルが普及し始め、さらにプラスチック製品の生産量が増加し、私たちの身の回りの日常製品にプラスチックは欠かせないものとなってしまった。1991年の廃棄物処理法の改正、同年の資源の有効な利用の促進に関する法律、2000年の循環型社会形成推進基本法の制定を受け、国内の廃棄物の排出抑制と分別、3R(リデュース(Reduce)、リユース(Reuse)、リサイクル(Recycle))を促進する体制が整えられた(環境省2014)。プラスチックの普及から30 年にわたって利用されてきたプラスチックの一部がごみとなって海域に流出し、現在の海洋プラスチック問題の発端となったと考えられている。

海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて

海洋プラスチックごみ問題も地球温暖化の問題と同じだと考えている。排出する物質が、プラスチックなのか、温室効果ガスかの違いだけである。先進国が石油を利用し、大量の温室効果ガスを排出した。同様にプラスチック製品を大量に生産、消費、そして排出した。21世紀になると世界的な経済発展に伴い、先進国・発展途上国にかかわらず、すべての国が排出国となり、現在の地球では許容できない状況を産み出した。今後、適切な対策を講じなければ、将来の世代に地球温暖化、海洋プラスチックごみのさらに悪化した状況を押し付けることになる。
しかし、地球温暖化と海洋プラスチックごみには、その対応に大きな隔たりが存在する。温室効果ガス濃度は18世紀半ばから上昇を始め、急速な増加に転じたのは19世紀半ば以降で、プラスチック製品の生産増加時期とさほど変わらない。けれども、気候変動に関する国際連合枠組条約は1994年に発効し、締約国会議の開催はすでに25回を数え、地球環境問題として対応が進められている。一方で、海洋プラスチックごみに関しては、2015年G7エルマウ・サミットの共同声明においてはじめて言及され、2016年に開催されたG7主要7カ国首脳会議で『海洋プラスチック憲章』が提案されたのを皮切りに、2019年のG20大阪サミットで『大阪ブルー・オーシャン・ビジョン』が共有されるなど、国際的に動き始めたばかりである。
どちらの問題も、解決策は排出量をどれほど減らせるかという点で共通している。しかしながら、石油もプラスチックも私たちの生活には欠かせないものとなり、経済・産業活動を考えた場合、簡単には排出量を削減できない。ただ、プラスチックの排出削減は、温室効果ガスの排出削減に比べ、まだその見通しに可能性を感じる。温室効果ガスを回収し、排出量を削減するのは、技術的な面、費用的な面でもハードルが高い。一方、廃プラスチックの回収に関しては、すでにその手法、すなわち廃棄物管理技術を持ち合わせており、回収率を高めさえすれば、排出量を限りなく減らすことが可能である。プラスチックは、その利便性、製造の容易さ、経済性から、私たちの生活から全て無くすことは不可能である。引き続き一定量を利用するという観点から、生産者、利用者、回収処理業者、行政が回収率を高めるための負担をどう分かち合うか合意できれば、海洋プラスチック問題の解決の糸口になるのではないか。
温室効果ガスの排出削減を目指す、ゼロカーボンという考え方が多くの自治体に浸透し始めたのと同様に、廃棄物の排出削減を目指す、ゼロエミッションやゼロウェイストという考え方も広まり始めている。全国的に始めるには法整備など様々な対応が必要となるが、市町村や都道府県単位であれば、現在の枠組みの中でも十分対応可能である。新たなプラスチック排出管理を世界に広めることができれば、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けた道筋を創り出すことができるのではないだろうか。(了)

  1.  参考 環境省(2014):日本の廃棄物処理の歴史と現状

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