Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第473号(2020.04.20発行)

「世界で最も美しい湾クラブ」世界総会の開催について

[KEYWORDS]世界で最も美しい湾クラブ/ワールドカフェ/富山宣言
美しい富山湾クラブ理事・事務局長◆高桑幸一

世界で最も美しい湾クラブの世界総会が、日本で初めて富山湾で開催され、「未来への展望~沿岸域の持続可能な発展のための環境保全~」というテーマの下に「ワールドカフェ」で議論され、今後20年のビジョン「富山宣言」が取りまとめられた。

世界で最も美しい湾クラブ

2019年10月16日(水)~20日(日)に「世界で最も美しい湾クラブ」の世界総会が富山で開催されました。世界で最も美しい湾クラブとは、湾を活用した観光振興と資源の保全を目的に1997年に設立され、フランス政府の支援の下、モルビアン観光局(ヴァンヌ市)に本部を置く国際的組織です。
フランスのモンサンミッシェル湾やベトナムのハロン湾など、26カ国1 地域から世界的に著名な44湾が登録されており、日本から松島湾、富山湾、駿河湾、宮津・伊根湾、九十九島湾が加盟しています。富山湾が加盟して5 周年の節目の年に、世界総会が日本で初めて富山で、今までで最多の参加者(世界15の国と地域から33湾128名)により開催されました。

「世界で最も美しい湾クラブ」の世界総会参加者。富山県内の総会会場では日本の加盟5湾の取り組み(環境保全、観光紹介など)のパネル展示が行われるとともに、総会に向けて開発された富山湾土産の販売が行われた。今後の総会開催は2020年ダクラ湾(モロッコ)、2021年エイラート湾(イスラエル)、2022年カンボジア湾、2023年麗水湾(韓国)に決定。

プレイベント

富山での世界総会の開催にあたり、海洋ごみ問題や世界総会を広報するラッピング電車や、県庁内へのカウントダウンボードの設置、記念切手の発行などにより周知がされました。また、開催に先立って次の行事や取り組みが行われ、環境意識の高揚が図られるとともに、総会を盛り上げました。①富山湾岸9か所において約3,000人が手をつないで富山湾を「ハグ」した後、海岸清掃を行う「富山湾ウェーブ」を行いました。②中国青島~ロシア ウラジオストック~日本富山の国際レースである「極東杯国際ヨットレース」が日本で初めて行われました。③海洋研究科学委員会(SCOR)と日本海洋学会と共同でシンポジウムを開催し、海洋に関わる国内外の研究者と海洋環境の問題などについて議論しました。

富山湾ウェーブ

ワールドカフェと「富山宣言」

総会では、富山に事務所のあるNOWPAP※のイエゴール・ヴォロヴィック所長の記念講演の後、2018年事業報告・会計報告、2019年事業計画・予算、新規加盟湾などが承認されました。新規加盟湾はラ・シオタ湾(フランス)とダクラ湾(モロッコ)で、加盟湾は26か国1地域からの44 湾となりました。日本から鹿児島湾と美保湾(鳥取県)が参加検討湾として紹介されました。
従来の総会は各湾の紹介や主催湾からのプレゼンテーションに留まっていたのですが、今回は初めて「未来への展望~沿岸域の持続可能な発展のための環境保全~」というテーマの下に2日間の議論「ワールドカフェ」が10チームに分かれて行われ、国際フォーラムへの積極的な参加などを示した、今後20 年のビジョン「富山宣言」を取りまとめることができました。
さらに、総会とあわせて、海王丸パークで漁船パレードの見学や、記念植樹、新湊マリーナまでのサンセットクルージング、富山湾加盟5周年記念行事が行われました。記念行事では、「怪魚ハンター」として知られる小塚拓矢さんと魚津水族館稲村修館長の「リュウグウノツカイ&ダイオウイカは釣れるのか?」という対談があり、ロビーに展示された4.6mのリュウグウノツカイの剥製を見て驚かされるとともに、最近富山湾で巨大深海生物が出現していることに、地球環境変化の不気味さを感じました。また、参加者のエクスカーションとして、総会開催中に、富山県美術館、富岩運河環水公園、雨晴(あめはらし)道の駅、富岩水上ライン、新湊漁協(昼セリ)の視察が行われるとともに、総会後には5コースに分かれて富山湾岸の視察が行われ、各地で市町長も出席する歓迎ぶりに、出席者はアンビリーバブルと感動して富山を後にして頂きました。

富山宣言(概要)
目標達成のため、加盟湾間での情報共有の強化や国際フォーラムへの積極的な参加、クラブの国際的な地位の向上などに優先的に取り組む
<目標(世界で最も美しい湾クラブの活動理念)>
• 湾の自然や固有性を保全する責務と経済発展の両立を確保しながら、その地域に住む人々の生活様式や伝統を尊重する
• 湾の自然環境や景観を保全するだけでなく、それを観光資源として活かすことで観光振興や地域経済の活性化に貢献する
• 加盟都市やクラブの使命に賛同する国際機関や研究機関との間で、湾の保全や観光振興に関する専門知識や経験の交流を促進する

総会を振り返って

2015年の国連持続可能な開発サミットにおいて持続可能な開発目標SDGsが採択され、海洋に関してSDG14海の豊かさを守ろう「海洋・海洋資源の保全と持続可能な利用」が目標とされました。2017年6月に「私たちの海、私たちの未来:SDG14の達成に向けた連携」をテーマに国連海洋会議が国連本部で開催されて「行動の要請」が採択され、様々な主体による「自発的約束」が求められました。2019年10月時点で1,573件の自発的約束が登録されており、2020年には第2回の国連海洋会議が予定されています。
このような時に、世界で最も美しい湾クラブが富山宣言を取りまとめて国際的なNGO組織として取り組むことを宣言したことはとても意義深く、クラブのターニングポイントになったとの参加者の声が多くありました。
具体的な取り組みについては今後協議されて行くことになりますが、自発的約束をした上で行動を始めることによって、クラブの活動理念に改めて立ち返ってクラブのステータスを向上させるための素晴らしい機会になったと思われます。
2018年4月フランス総会で石井隆一富山県知事のプレゼンテーションによって富山総会が決定されてから、実行委員会が組織され、県・各市町はもとより、各種団体や一般市民を巻き込んで準備が進められました。台風19号の水害によって北陸新幹線が不通となりましたが、参加者は空路利用や東海道新幹線経由で来て頂き、会議や諸行事がほぼ時間通りに進行されたのは、対応する事務局の熱意の賜物であり、参加者から非常に喜んで頂ける総会だったと思います。今後富山宣言が具体化され、観光振興と環境保全が両立する取り組みについてより積極的に取り組むとともに、国際フォーラムに働きかけ、実効を上げていくことに大いに期待しています。(了)

世界で最も美しい湾クラブ(左)と美しい富山湾クラブ(右)のロゴ

  1. NOWPAP:北西太平洋地域における海洋及び沿岸の環境保全・管理・開発のための行動計画。国連環境計画(UNEP)の地域海行動計画のひとつ。

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