Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第473号(2020.04.20発行)

海上交通バリアフリー施設整備の取り組みと展望

[KEYWORDS]旅客船/旅客船ターミナル/バリアフリー化
(公財)交通エコロジー・モビリティ財団理事兼バリアフリー推進部長◆吉田哲朗
(公財)交通エコロジー・モビリティ財団バリアフリー推進部整備支援課課長代理◆髙橋 徹

海上交通を担う旅客船等のバリアフリー化は、通院、通学、買い物などの日常生活の足として利用される離島航路から、遠隔地間の旅行に選好される長距離航路、観光目的の遊覧船やレストラン船まで、幅広く望まれているが、他の交通機関に比べ、対応が遅れている。
そのため、利用する高齢者・障害者等の移動の円滑化に寄与することを目的として、旅客船事業者が行う旅客船等の施設整備のうちバリアフリー化事業に対し助成を行っている。

「海上交通バリアフリー施設整備推進」事業

公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団(以下、エコモ財団)は、1994(平成6)年に、高齢者・障害者等が公共交通機関を安全かつ快適に利用して移動できるよう鉄道駅、空港、バスターミナル、旅客船、旅客船ターミナル等におけるエレベーター、エスカレーター等のバリアフリー施設・設備の整備に対する助成や啓発広報および調査研究等を行う目的で日本財団、交通事業者等の支援を受け、設立されました。
現在は、鉄道駅等のバリアフリー施設整備は終了しておりますが、2002(平成14)年から、旅客船および旅客船ターミナル(以下、旅客船等)のバリアフリー施設・設備の整備に対する日本財団助成事業「海上交通バリアフリー施設整備推進」に特化して行っています。
本事業は、海上交通におけるバリアフリー化を推進するため、海上運送法による一般旅客定期航路事業並びに不定期航路事業に使用する旅客船等のバリアフリー施設・設備の整備に対して助成を行っています。助成を行うに際しては、①離島航路に就航している旅客船等(特に小型船舶)、②自然災害により被災された旅客船等、③バリアフリーガイドライン等の推奨基準を満たす旅客船等を重視し、優先しています。
また、助成対象は、高齢者・障害者等が安全かつ身体的負担を少なくする施設や設備であるエレベーター、バリアフリー便所(車椅子用トイレ)、バリアフリー客席、運航情報提供表示装置等を対象としています

旅客船等のバリアフリー化の法的位置づけ

旅客船等の公共交通機関におけるバリアフリー化は、2000(平成12)年の「高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の円滑化の促進に関する法律(以下、交通バリアフリー法)」により義務化されました。その後、2006(平成18)年に建築物を対象とした「高齢者、身体障害者等が円滑に利用できる特定建築物の建築の促進に関する法律(以下、ハートビル法)」と統合・拡充した「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(以下、バリアフリー法)」となり、2018(平成30)年5月に一部改正され、現在に至っています。
バリアフリー法に基づき、「移動等円滑化のために必要な旅客施設又は車両等の構造及び設備に関する基準を定める省令(以下、移動等円滑化基準)」が制定され、整備すべき基準が定められています。また、公共交通事業者等が、高齢者・障害者等をはじめとした多様な利用者の多彩なニーズに応えるため、バリアフリー整備のあり方を具体的に示した目安としてバリアフリーに関するガイドラインが公表されています。旅客船は「旅客船バリアフリーガイドライン」、旅客船ターミナルは「バリアフリー整備ガイドライン(旅客施設編)」を参照し、取り組まれています。
旅客船におけるバリアフリー化については、人口の減少による旅客輸送の減少に伴う厳しい経営状況にあることなどにより他の公共交通機関に比べ、徐々には増えているがなかなか進まない状況であり、2019年3月末現在、46.2%(308隻)となっています。なお、旅客船におけるバリアフリー化には公的な支援がほとんどないため、旅客船事業者がすべての費用負担をしなければならないこともその一因となっています。

■表1 旅客船におけるバリアフリー化率の推移
(出典:国土交通省ホームページより筆者作成)
2018年度助成船舶「マーメイドⅡ」(網地島ライン株式会社)の船体、右写真はそのバリアフリー便所(車椅子使用者でも利用しやすいように出入口扉が自動ドアであり、トイレ内では転回できる広さとなっている)

離島の現状

国土交通省によると、日本には6,847におよぶ離島が存在し、416島に人が居住しています。これらの離島は、わが国の領域、排他的経済水域等の保全、海洋資源の利用、多様な文化の継承、自然環境の保全とあわせて、自然との触れ合いの場および機会の提供、食料の安定的な供給等、わが国および国民の利益の保護および増進に重要な役割を担っています。
さらに、近年では国境離島の重要性が再認識されており、2017(平成29)年4月には「有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法」が施行されました。同法の中で有人国境離島地域のうち、継続的な居住が可能となる環境の整備を図ることがその地域社会を維持する上で特に必要と認められるものを「特定有人国境離島地域」と定義し、国内一般旅客定期航路事業等に係る運賃等の低廉化などの施策に取り組んでいます。なお、『高齢社会白書』によると、日本の高齢化率は28.1%(2018年10月現在)となっていますが、離島の高齢化率は40%を超え、80%を超える離島も点在しています。

これまでのバリアフリー化の実績等について

これまで、「海上交通バリアフリー施設整備推進」によるバリアフリー施設・設備の整備に対する助成は、旅客船延べ214隻、旅客船ターミナル延べ107件を行ってきました。現状のバリアフリー化船のうち、約70%の船舶に支援をしたことになります。当初は、船舶のバリアフリー化について物理的な条件や障害者等の利用実態などから、旅客船事業者によっては敬遠してしまうこともありました。しかし、少子高齢化の進展などの社会環境の変化により、近年では積極的な導入が増えてきています。
今後も離島等の高齢化などを勘案すると、旅客船事業者を取巻く経営環境は一段と厳しく、公的支援がない中では、新たに旅客船等のバリアフリー化に取り組むのは難しいことが推測されます。そのため、本事業を継続・実施していくことが、離島に住む高齢者・障害者等の外出支援に大きく貢献すると考えられます。また、一般旅客定期航路事業だけではなく不定期航路事業の旅客船等も対象とすることで、あらゆる移動困難者の旅客船利用の移動円滑化に寄与するよう取り組んでいきたいと考えています。(了)

  1. 海上交通バリアフリー施設整備 http://www.ecomo.or.jp/barrierfree/barifuri-ship/index.html

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