Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第452号(2019.06.05発行)

編集後記

帝京大学戦略的イノベーション研究センター客員教授♦窪川かおる

♦『サラダ記念日』(河出書房新社、1987)は32年前に出版された俵万智の歌集で、短歌を詠みたくなる若者や自分だけの大切な記念日が増えた。今号の発行日前後は海洋に関する3つの重要な記念日がある。それらは「IUU漁業対策に関する国際日」「世界環境の日」(5日)「世界海の日」(8日)である。本号をお読みいただき、海洋が持続可能な地球と人類の将来に向けて果たす海の役割について考える日としてはいかがだろうか。
♦略語が増えるこの頃だが、「IUU漁業」という略語には速やかな撤退を期待したい。IUU漁業とは違法・無報告・無規制漁業をまとめて指す言葉であり、長期的な減少傾向にある世界の海洋水産資源を持続可能な管理にするための障害となっている。(国研)水産研究・教育機構の宮原正典理事長よりIUU漁業の撲滅への取り組みを解説していただいた。機構は、夜間の衛星画像の情報を利用した取締りで東シナ海・北西太平洋・日本海での実績を上げている。2019年4月には漁業情報解析室を発足させて、さらなる人工衛星画像等を利用した調査研究を進めている。国際協力も順調という。資源管理は最新の水産政策の改革の要である。
♦1948年の世界人権宣言には、法的拘束力がないが、人権保護の重要性を世界が知るところとなった。しかし、今も4,000万人以上が強制労働や強制結婚などの現代奴隷制の被害者であり、このうち25%が18歳以下の子どもであり、また71%が女性または女子児童であるという。武蔵野大学法学部の小島千枝教授に現代奴隷制についてご寄稿いただいた。海上での人身売買や人の密輸、船上での強制労働や児童労働等に対して法的執行は容易ではないという。国連海洋法条約には奴隷の運送禁止の旗国への義務付けや奴隷取引の疑いに対する臨検などの規定はあるが、奴隷船の拿捕に至るには距離がある。海が人権問題の現場になっていることを忘れてはならない。
♦海洋環境整備船は、海面に漂流する油やゴミを回収し、海洋環境と船舶の航行を守る国土交通省地方整備局所有の船である。4閉鎖海域に12隻が配備されている。海上の回収作業に特化した双胴船構造で、油回収も得意である。前国土交通省中国地方整備局港湾空港部の矢野博文氏から、航行の安全を守る清掃船の活躍を教えていただいた。2018年7月に西日本を襲った豪雨では、他整備局の船も協力して流木などの漂流ごみを1カ月で7,299m3も回収したという。海洋ゴミ問題、船舶事故、海洋災害の甚大化が懸念される昨今、海洋環境整備船の活動に感謝したい。 (窪川かおる)

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