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オーシャンニュースレター

第444号(2019.02.05発行)

世界に誇れる松島“湾”ダーランドの創造

[KEYWORDS]松島湾/世界で最も美しい湾クラブ/観光振興
宮城県松島町産業観光課課長◆安土 哲

松島湾は、2013年に日本で初めて「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟、それを契機として宮城県と松島湾エリアの3市3町が一体となって観光振興を目指している。
東日本大震災より8年近くが経過し、松島湾ダーランド構想のもとで観光振興や環境保全に取り組める土壌ができ上がりつつある。
今後もこれまでの取り組みをブラッシュアップしながら継続し、湾を取り巻く環境の保全と観光振興に取り組みたい。

再発見! 松島“湾”ダーランド構想

松島湾は大小260余りの島々が特徴で日本三景の一つに数えられています。2011(平成23)年の東日本大震災は未曾有の災害となり、松島町も地震や津波の被害を受けました。しかし、湾内の260余りの島々が自然の防波堤となり津波の緩衝材となったことから他の沿岸地域と比べると破壊的な状態に至りませんでした。まさしく、松島湾に守られた松島です。
震災後の2013(平成25)年12月、松島湾は日本で初めて「世界で最も美しい湾クラブ」※1に加盟しました。その加盟を契機として、2014(平成26)年2月に宮城県と松島湾エリアの3市3町(塩竈市、多賀城市、東松島市、松島町、七ヶ浜町、利府町)による「再発見!松島“湾”ダーランド構想」共同宣言が行われ、松島湾エリアが一体となった観光振興を目指すこととなったのです。

西行桜と松島湾

松島湾ダーランド推進計画

かねてから松島湾エリアは、湾の自然や景観、古くからの信仰や国府、伊達家にまつわる歴史・文化、海の恵みを素材とする食の魅力など多様な観光資源を有しており、東北を代表する観光地として名高い場所です。しかしながら松島湾エリアを訪れる観光客数は、未だ東日本大震災以前の水準にまで戻っておらず、加えて宿泊者は利便性の高い仙台圏に流れてしまっている現状でした。
平成28年度に宮城県と3市3町は、松島湾ダーランドの実現に向けた施策体系を定めた「松島湾ダーランド推進計画」の策定を検討しました。これは、「世界に誇れる松島湾ダーランドの創造」を基本理念とし、①エリアの魅力強化、②市町間の連携強化、③誘客力の強化を3本の柱として基本方針を定めました。その柱のもと9つの施策を定め、具体的な事業を考案したのです。計画は平成28年度を初年度とし、平成32年度を目標年次とし、連携して取り組む事業や、松島湾の観光振興を担う人材の育成等の施策を定めたものです。

仙台松島都市圏DMOとの関わり

2018(平成30)年3月、宮城県と6市3町、観光事業者で、官民連携組織「仙台・松島復興観光拠点都市圏DMO※2」を設立しました。松島湾ダーランド構成市町に加え、宮城県の観光のかなめとなる仙台市や東北観光のゲートウェイとなる仙台国際空港の所在地名取市と岩沼市が含まれました。また県内の観光関連事業者らで設立された (株)インアウトバウンド仙台・松島が加わり、地域の稼ぐ力を高めるとともに、その仕組みづくり等のかじ取り役となることが期待されています。
実際の取り組みでは、各市町のイベントや県外PRの際に、松島湾を囲む各市町の行政の担当者や民間の事業所がそれぞれの観光PRを行うのはもちろん、隣の市町のPRも行い、広域の観光振興を図ろうという機運が高まりました。相互の市町を回遊して頂くことで滞在時間が伸び、訪れて頂く機会が増え地域にも還元できる取り組みとなってきました。広域観光の取り組みは人材育成にも波及し、市町間の連携を強化できたことで相互の観光資源を学び、ワークショップおよびセミナーの開催に係る協力や支援、また、松島湾ダーランド推進計画の進捗管理や達成状況の確認を行い、ターゲット、事業の見直しを行っています。
松島町では、東日本大震災以降の松島湾が安全かつ安心で魅力的な湾であることを世界に発信するため、外国人の国際交流員を採用し、外国人目線での松島の魅力発信に取り組んでいます。外国人観光客の受入体制整備として広域(3市3町)で、日本語の他に英語、中国語、韓国語、タイ語の4カ国語に対応したパンフレットを作成し、外国語併記看板を設置しました。加えて仙台国際空港からの二次交通についても仙台空港松島平泉線が開通し、松島までの直通バスの開通に伴い、スムーズな外国人等の受入環境整備の一つ一つが実現してきました。
また、これからの松島を支える子どもたちが松島湾の美しい景観や歴史的背景を国内外で発信できるよう、地元に住む11歳から15歳を対象に約20名の参加者を募り、夏休み期間を利用し英語案内ガイドに挑戦する機会を設けています。子どもたち自身のシビックプライドの醸成を図ることと合わせて、町内の関係団体との連携を図り、今後の松島湾を支える人づくり、組織づくりを牽引できるような人材の育成を実施しています。「世界で最も美しい湾クラブ」に加入したことを契機に日本三景松島から、世界の松島へシフトし始めることができ、奇しくも国のインバウンド施策と同じベクトルに向かっていました。

世界で最も美しい湾クラブメンバーとして

「世界で最も美しい湾クラブ」に加入した意義として、観光振興と合わせて環境保全の取り組みが上げられます。
2017年より松島湾の魅力発信と湾岸環境の保全を目的に、地域住民や観光客を対象とした参加型の松島湾清掃作業を実施しています。清掃作業を通し松島湾、松島町の自然や歴史文化を認識して頂いています。また、湾の水を浄化する取り組みとしてアマモという海草の再生プロジェクトを行なっています。東日本大震災の津波によって藻場の99%が流失してしまいました。震災から7年が経ちやっと35%の藻場が戻りましたが、アマモが育ちやすい環境づくりとして8月4日の「橋の日」に松島湾に架かる福浦橋より、アマモは泥では生息できないことから砂地づくりとして砂団子を投じてもらうイベントを行いました。継続しなければアマモの復活とならないことからも継続的に行い、11月には種まき植栽を実施しアマモを少しずつ増やし、世界で最も美しい湾の一つであることが将来につながるよう住民と観光客とともに協働していきたい取り組みの一つとなっています。加えて松島湾の自然や景観の課題として、松くい虫による松枯れの被害やウミネコのフンによる松の被害、東日本大震災の津波による植生の塩害などの対策が必要となっています。松島湾の景観要素である松林を守り、被害が広がらないようにするために、被害木の伐倒や樹幹注入による薬剤防除や散布についても3市3町の取り組みとして、被害木伐採処理後に抵抗性松を植樹し、将来的にも美しい景観の保持に努めています。
東日本大震災より8年近くが経過し、世界中の多くの方々からの支援を頂き、災害復旧復興がおおむね完了の運びとなっています。震災は多くの被害をもたらし多くのものを奪っていきましたが、「世界で最も美しい湾クラブ」に加入し松島湾ダーランド構想のもとで観光振興や環境保全に取り組める土壌ができ上がりました。今後もこれまでの取り組みをブラッシュアップしながら継続し、松島湾ダーランド構想の構成市町である3市3町と、「世界で最も美しい湾クラブ」に加入している25カ国1地域の計43湾の皆様と一緒に、湾を取り巻く環境の保全と観光振興に取り組んで参ります。(了)

  1. ※1松島町HP>日本初!松島湾が『世界で最も美しい湾クラブ』に加盟 http://www.town.miyagi-matsushima.lg.jp/index.cfm/7,13333,20,html
  2. ※2DMO (Destination Management Organization)=地域にある観光資源に精通し、地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと

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