Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第432号(2018.08.05発行)

編集後記

東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる

◆海の生き物には透明のものがいる。砂浜に転がった透明なゼリーが、打ち上げられたミズクラゲであったりする。クラゲは浮遊する生物すなわちプランクトンであるが、プランクトンの仲間には顕微鏡でないと見られないものも多い。そのようなプランクトンには無脊椎動物の幼生も多い。小さな体には生物の不思議が詰まっている。透明な生物達は、海中で向けられたライトに浮かび上がり、顕微鏡の照明下で煌めき、幻想的で美しい。しかし、それがプラスチックの破片だったらがっかりである。それは回収できないゴミであり、分解されずに深刻な海洋プラスチック汚染となる。
◆(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)国際海洋環境情報センター(GODAC)の齋藤秀亮氏よりインターネットで公開されている深海デブリ(ゴミ)のデータベースについて教えていただいた。国連環境計画のWEBサイトでも紹介されている。30年以上の5,010潜航の映像から偶然に撮影された人工物のうち2,314件が公開され、最深はマリアナ海溝にも及ぶという。一方、5mm以下のマイクロプラスチックごみの海洋生態系への影響は深刻であり、陸上および海洋におけるプラスチック管理が世界で注目されているが、広い海の汚染の情報不足は否めない。特に外洋や深海のゴミ情報は希薄であるという。日本が海洋科学と技術で国際貢献の先頭に立つ時である。
◆出前授業に赴き日本の全貿易量のうちに海運が占める割合を話すと、児童・生徒の驚く顔が見られる。この海運を支える水路業務は自ずから国際的である。海上保安庁海洋情報部の冨山新一氏より国際的な人材育成について詳説していただいた。JICAと協力して発展途上国の水路技術者を日本に受け入れ、国際資格の取得も可能な研修を1960年代末頃から実施しているという。最近は、日本財団支援による2つの人材育成プログラムもあり、日本の国際貢献に対する評価は高い。航海の安全を支える水路業務に携わる人材育成の国際的な進展を心から期待したい。
◆海底の不発弾も海洋ゴミに数えるのだろうか。第二次世界大戦の戦争残存物である不発弾を処理しているNPO日本地雷処理を支援する会の寺田康雄氏よりパラオでの最近の事例を教えていただいた。ひとつは、沈んだ船内に残る爆雷の腐食によるピクリン酸の漏洩である。処置後に船内の海水がpH6.8の酸性からpH8.07の弱アルカリ性に変化したという。少量でも有害物質の脅威は大きい。パラオ政府は安全確保の指標のために不発弾データベースを構築しているという。パラオに安全で豊かな海が戻ることを祈る。 (窪川かおる)

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