Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第423号(2018.03.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆みなさんは亜熱帯ダイポール現象をご存知ですか。気候変動というと熱帯太平洋のエルニーニョ・ラニーニャ現象がすぐに思い浮かぶが、アフリカ南部の気候には、前編集代表の山形俊男博士らが発見した、この亜熱帯ダイポール現象が重要な役割を果たしているそうだ。(国研)海洋研究開発機構アプリケーションラボ研究員の森岡優志氏からは、同地域の気候変動に大きな影響を与える南インド洋と南大西洋のこの海面水温の変動を、日本のスーパーコンピュータ「地球シミュレータ」と最先端の気候モデルを使って気候変動の事前予測を成功させた取り組みと、こうした研究成果に基づく南アフリカの大学での人材育成をご紹介いただいた。気候変動リスクに脆弱な途上国に対する、科学分野における重要な国際貢献の例といえよう。
◆国連大学サステイナビリティ高等研究所研究員のイヴォーン・ユー氏からは、2011年6月、日本としてまた先進国として、初めて「世界農業遺産」(GIAHS)に認定された「能登の里山里海」に関して、国連大学が進めている「能登の里海ムーブメント」の取り組みにつきご紹介いただいた。環境保全のあり方については、手つかずの自然保護を目指す欧米の考え方と、人間の関与による環境保全としての「里山・里海」の概念を提唱する日本の考え方がある。多くの魚は沿岸海域、つまり里海で育つわけで、里海を豊かにすることが世界の海を豊かにするとの提言は、傾聴に値する。
◆そうした魚は、世界で最も取引されている「商品」であるとの「目から鱗」の指摘で、世界貿易機関(WTO)の漁業補助金交渉の行方を論じるのが、笹川平和財団海洋政策研究所海洋環境部長のウィルフ・スワーツ氏である。漁業の年間の水揚げ額は900億ドルとされるが、年間350億ドルの補助金が世界の水産業に充てられているという。こうした補助金のうち200億ドルが、漁業努力の過剰な促進と過剰漁獲を引き起こしているとされる。SDG14.6で「IUU漁業につながる補助金の撤廃」が挙げられたことも手伝い、ブエノスアイレスでのWTO第11回閣僚会議の交渉の焦点が、漁業資源への悪影響の軽減からIUU漁業対策へと移り、規制対象となる補助金政策の範囲縮小と目標の変化をもたらしているとの指摘は秀逸である。漁業補助金の乱用による漁業や環境における被害が国内で生じる以上、沿岸漁業に焦点を当てた水産政策としての漁業補助金規制を検討すべきとの提案は、一考に値する。 (坂元茂樹)

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