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オーシャンニュースレター

第407号(2017.07.20発行)

海洋基本法制定から10年の総括

[KEYWORDS]海洋ガバナンス/海洋基本法研究会/参与会議
自民党参議院議員、海洋基本法戦略研究会代表世話人代行◆武見敬三

海洋基本法の制定から10年。同法に基づく海洋基本計画は、第1期、第2期を経て、いま第3期の策定を迎えている。
ガバナンスを重視してトップダウンとボトムアップの両政策を組み合わせて実施してきたが、制度を整えても実態が伴わなかった面もあり、残る課題はいまだ多い。
第2期は、具体的な良い計画であったが、実行されずにいるものも多いという課題を残した。
第3期は、各省庁が確実に実行していく計画にしなければならない。

わが国の海洋政策を組み立てるとき、「ガバナンス」が重要になる。2007年4月に海洋基本法が成立し、同年7月20日(海の日)に施行され、総合海洋政策本部ができた。しかし、形は整ったけれども、なかなか思ったようには機能してこなかったというのがこの10年間の正直な総括である。富士山で言えば、まだ3合目くらいだろうか。
そもそも、海洋基本法制定に至る経緯を振り返ると、3つのメインストリームがあった。1つめは、1996年に日本が国連海洋法条約を批准したこと。同条約に基づいて、排他的経済水域・大陸棚の管理など、わが国の海域をめぐる政策課題が浮上した。2つめは、海洋安全保障の観点から関心が広がり始めたこと。2000年前後から東シナ海における中国の海洋調査船の問題などが顕在化してきた。3つめは、日本財団や海洋政策研究財団(当時)の取り組みである。海洋に大きな関心を持ち、総合的な日本の海洋政策の必要性を提言してきた。これら3つが結びついて、1つの大きな流れができ、2006年4月の超党派の海洋基本法研究会の設立につながった。

党派を超えた海洋基本法の策定

海洋基本法研究会の特徴は、国会議員だけでなく民間の海洋に関わる有識者が加わり、重要な役割を果たしたことである。さらに、海洋に関わる各省庁がオブザーバ参加し、海洋基本法研究会が極めて強い求心力を持って法制定に向けてイニシアティブを取ることができた。たまたま私が代表世話人になり、座長に石破茂さん、ほか民主党(当時)の前原誠司さん、長島昭久さん、細野豪志さん、公明党の高野博師さん、大口善徳さんなど、党派を超えた国会議員が加わった。
海洋基本法には、共産党からも支持があり、結果、あらゆる意味で超党派の支持を得た珍しい法案になった。超党派でやろうと言ったのは私だが、その理由は、海洋の問題は特定の利害を超えた、国民全体の大きな関心事であり、偏った形で取り組むのは間違っていると考えたからだ。
海洋の問題は各省庁に細かく分かれており、それぞれの役所が自分の立場から取り組んでいた。互いに連携して戦略的に目的を設定し、協力して政策を進めるという仕組みはなかったため、海洋基本法を作るときには、海洋に関わる省庁が連携できる仕組みを重視した。
各省庁にまたがる政策の立案、策定、実行のためには、強いリーダーシップが必要不可欠である。したがって内閣に総合海洋政策本部を設けて総理の力を最大限生かす形にし、リーダーシップを発揮できる体制を整えた。また、内閣官房に置かれた事務局に、各省庁から職員を出してもらい、意見を調整できるようにした。
しかし、各省庁が持ち上げる政策(ボトムアップ)を調整しても、新しい政策は生まれない。そこで、トップダウンで新しい政策を組み立てる仕組みを作ろうと考えた。本部のもとに有識者からなる参与会議を設けて、海洋に関わる英知を集め、総理に直接意見具申できる仕組みを作った。このように、本部のリーダーシップのもとでトップダウンとボトムアップの2つの政策を組み合わせて総合的に実施することが、海洋基本法の「ガバナンス」の考え方であった。海洋基本法のもと、第1期(2008年3月閣議決定)と第2期(2013年4月閣議決定)の海洋基本計画が策定され、今年でちょうど10年になる。

「海洋政策大綱」と「海洋基本法案の概要」を取りまとめた第10回海洋基本法研究会(2006年12月7日)後の記者発表の様子海洋基本法戦略研究会(海洋基本法研究会の後身)の模様

参与会議の復活

重要な役割を担う参与会議であるが、第1期海洋基本計画では、まだ十分に機能していなかった。
私自身は、海洋基本法が制定された2007年の参議院選挙で落選したため、しばらく海洋の問題から離れていた。その後、再び関わることになって、その実態を見て驚いた。参与会議が機能しておらず、参与が任命もされていなかったのだ。当時は民主党政権だったので、海洋基本法制定時の仲間だった海洋政策担当大臣の前原さんに、一緒に作った海洋基本法の仕組みが機能していないことを申し上げた。そして、参与を再度任命してもらった。海洋基本法を超党派で作ったことのメリットを、このとき改めて強く実感した。おかげで、死にかかっていた参与会議を復活させることができた。
参与会議に具体的な政策を議論するPTを設置できるようにし、第2期海洋基本計画では小宮山宏座長や湯原哲夫参与が中心となり、参与会議の意見具申を計画的に組み込むことに成功した。ところが、トップダウンで具体的な政策を作成したとしても、各省庁が必ずしもそれを実行するとは限らない。現に、第2期海洋基本計画は非常に具体的な中身を持った良いものであっても、実行されずにいるものも多いという問題が残った。

何を政治的求心力とするか

これから策定する第3期海洋基本計画は、各省庁が確実に実行していく、実行可能な計画にしなければならない。それが、過去2回からの経験則である。
各省庁を束ねるのに必要なものは政治的な求心力である。海洋基本法を制定したときには3つのメインストリームが求心力となった。しかし、基本法制定後、一時的に求心力が衰えて参与会議が事実上無くなる状態に陥った。それを再構築して、新しい求心力を作ろうとしたとき、排他的経済水域に関わる法整備を中心に据えて、各省庁を束ねることができないかと考えた。排他的経済水域には、外交の問題、既存産業と新たな産業の調整、環境保全と持続可能な開発など、さまざまな問題があり、それらをどのように克服して法整備を進めるかが、重要な課題であった。参与会議のPTに加えて、自民党内にも法整備のためのWGを作り議論を進めているが、いまだ超党派で法案を出す合意の形成には至っていない。

第3期海洋基本計画の課題

海洋産業の育成は、海洋基本法制定時からの喫緊の課題であるにもかかわらず、なかなか成果が出ず、各省庁の連携も進んでいない。海底資源開発と国内産業の育成をきちんと結びつける必要がある。
第2期海洋基本計画では、海底鉱物資源に関わる海洋調査産業を育成するための戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)を開始させたが、ここでも、産業育成に関わる強い指導力が求められた。海洋は、誰かが常にグリップを締めて各省庁を連携させるようにしなければならない、実に難しい分野であることを実感した。
第3期海洋基本計画では、海底鉱物資源開発、海洋の安全保障、排他的経済水域の開発・利用・保全、海洋産業の育成などが重要な課題である。(了)

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