Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第405号(2017.06.20 発行)

木製サーフボード作りに込めた想い

[KEYWORDS]サーフィン/木製サーフボード/森・川・海のつながり
(公財)環日本海環境協力センター主任研究員◆寺内元基

海の環境を良くするために、海の中で人間ができることは限られており、背後にある陸地に目を向けないといけない。
地元の木でサーフボードを作り、その土地の山を流れる川の先にある海で波に乗ることによって、森・川・海のつながりを体で感じ、感謝する。
このようなスピリットを持つ仲間が増えることも、沿岸環境の保全・改善に向けた一歩であると信じる。

失われた金石サーフィンポイント

私が大学卒業とともに、地元の石川の会社に就職し、出会ったのがサーフィンであった。サーフィンといえば太平洋やハワイでやるものというようなイメージしかなく、日本海でサーフィンなんて本当にできるの? という半信半疑な気持ちのまま、ある日友人に誘われ海に行った時のことを覚えている。だが、私のそんな気持ちは、はじめて波の上に立った瞬間にどこかに行ってしまい、一瞬にしてサーフィンの虜になった。
しばらくして、最初のボーナスでサーフボードを手にした私は、波が良ければ、出勤前に金沢市近郊の海に年中通うほどになっていた。しかし、サーフィンを始めて数年が過ぎたある日、当時よく通っていた金石(かないわ)海岸が埋め立てられることとなった。何でも、金沢港に大型船が入れるように浚渫工事をする必要があり、すぐ近くの海岸が土砂の受け入れ場所に決まっているというのだ。サーファーによる埋め立て工事反対を求める署名運動も虚しく、埋め立て工事は着々と進み、ついには良い波が立つことで有名な金石サーフィンポイントが陸地になってしまった。

2冊の本との出会い

当然私もその署名運動に加わったものの、目の前で進められる工事に対して何もできない自らの無力さを知ると同時に、それまで陸に対して背を向け、沖合からやってくる波ばかりに興味を持っていた自分を反省することとなった。そして、この件を境に、「そもそも海って誰のもの? 他の自然海岸もこの先埋め立てられてしまうのか? 沿岸開発って本当に必要なの?」などと深く考えるようになった私は、ある日、本屋で2冊の本に出会うことになる。
1冊目は、さまざまな環境問題とその解決策について、一般の人が読んでも理解できるような内容に噛み砕いて解説している『BIOCITY』(ブックエンド、季刊)という雑誌である。ある号に海のビジュアル・エコロジーと題し、持続可能な海洋環境と海岸線のあり方についての特集が組まれていた(No.19)。とくに長崎大学の中田英昭教授による沿岸域の環境再生とその方法論と課題をまとめた内容が非常にわかりやすく、何故こんな素晴らしい考え方がもっと日本で普及しないのかと憤りを覚えた。
もう1冊は、『リモートセンシングデータ解析の基礎 THE ABCs OF RS』(長谷川 均著、古今書院、1998)という本である。この本には、地球を宇宙から捉えた美しい人工衛星画像が沢山載っていて、これらの画像を解析することで様々な環境の変化がわかるようになるとのことで、この技術は将来必ず身近なものに発展すると直感した。振り返れば15年も前のことになる。

環日本海環境協力センターでの研究

これらの本との出会いがきっかけとなり、私はその後転職を重ね、現在は富山市にある(公財)環日本海環境協力センターにて、人工衛星画像を活用した海洋環境モニタリングの仕事に携わっている。具体的には、日本海・黄海を取り囲む、中国、韓国、ロシア、そして日本の研究者と共に、人工衛星に搭載されるセンサが捉えた海の画像から、環日本海地域の水質や藻場の分布状況を調べ、海洋環境保全のための施策をレポートや論文にまとめたりしている。これらは、国連環境計画(UNEP)の北西太平洋地域海行動計画(NOWPAP)の枠組みにおいて共有され、環日本海地域の海洋環境の保全のために活用されている。しかしながら、世界有数の人口密集地域である環日本海地域では、研究者や行政主体の環境保全の努力をはるかに上回る勢いで海洋環境の悪化が進行している。
水質の汚染、赤潮や青潮の発生、藻場の消失等に代表される海洋環境問題は、家庭や工場からの排水、海岸線の埋め立て等、その原因の多くはわれわれ人間が活動する陸域にあるといってよい。そのため、健全な海洋環境を保全していくためには、河川や地下を通じて海に流入する水の流れを遡り、その上流にある山林の状態や海岸線の構造物に自然と意識が行くようなしくみが必要となる。近年、研究者や行政の中でも、森・川・海のつながりの重要性が認識されるようになってきたが、この考えに沿ったまちづくりや、サービス・製品の開発はまだまだ進んでいない。

Paul Jensen氏との木製サーブボード製作の模様
木製サーフボードで波乗りする筆者

木製サーフボード作りと森・川・海のつながり

そこで、私も、上流の山の木を使ってサーフボードを作り、その山を下った先の海でサーフィンをやってみようという考えに至った。とはいっても、そんな簡単に物事は進まない。最初は、どうしてもプロの指導を乞う必要があったため、木製サーフボードビルダーとして世界的に名高い米国のPaul Jensen氏を日本に招き、木製サーフボード自作教室を開催してもらうことにした。Jensen氏の木製サーフボードは、木製のフレームをまず作り、次にその土地で製材された薄い板を張り合わすことで、乗り手の嗜好に合わせてさまざまなサイズに形作られる。続いて、透明なエポキシ樹脂とグラスファイバーにより強度を出しながら、防水処理し完成となる。
これまで、2010年に第1回目の教室を千葉で、第2回目を2014年に私の地元石川にて開催している。当然、千葉では山武杉、石川では能登ヒバと能登杉を用い、地域の木を使って、その土地の波に乗ることを推奨している。そして、これらの教室の参加者は、現在それぞれの地元の木で木製サーフボードを作り、その土地の山を流れる川の先にある海で立つ波に足を運んでいる。
私はといえば、その後もPaul Jensen氏との交流を続けながら、日本が世界に誇る木組みの技術を生かし、化学製品を可能な限り排除した木製サーフボードの開発に向けて日々研究を重ねている。海の環境を良くするために、海の中で人間ができることは限られている。これは常日頃から、海で波に揉みくちゃにされながらも実感していることでもある。海の環境を良くするには、背後にある陸地に目を向けないといけない。
木製サーフボードによるサーフィンを通じて、森・川・海のつながりを体で感じ、感謝する。このようなスピリットを持つ仲間が増えることが、沿岸環境の保全・改善に向けた第一歩であると信じて私はやまない。「次世代のために素晴らしい海を!」なんて言っている時間はないのだ。(了)

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