Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第405号(2017.06.20 発行)

お台場海浜公園での環境教育の取り組み

[KEYWORDS]干潟/海苔/自然体験
特定非営利活動法人海辺つくり研究会理事◆森田健二

東京都港区環境課からの協力要請から始まったお台場海浜公園での自然回復・環境教育活動は、海苔の育成を機に、官民連携と地域に根差した持続的な枠組みへと発展した。
港区長の発する『泳げる海 お台場!』のスローガンの下、活動はさらに枠組みを広げて、都市臨海部の持つ機能と魅力を世界に発信していくだろう。

協力依頼から始まった取り組み

私がこの取り組みを始めたきっかけは、東京都島しょ農林水産総合センター(旧東京都水産試験場)職員からの紹介による港区環境課からの協力依頼だった。お台場海浜公園の干潟環境の回復を目的に、地域の教育・保育機関と一体となって、自然再生と環境教育活動を展開できないか、というのが依頼内容だった。
東京湾の本来の姿は、干潟とアマモ場が広がる遠浅の海、一面で海苔養殖も盛んに行われ、江戸前の豊かな漁場が形成されていた。しかし、昭和30年代から始まった高度経済成長期以降は、次第に周囲の自然環境は大きく損なわれていき、いつしか東京湾の自然を再生することが目標となっていた。アマモ場の再生は仕事上も中心課題であったため、当時の東京都水産試験場に繰り返し提案を行い、念願叶って1990〜95(平成2年〜7)年まで葛西臨海公園の東渚でアマモ場の再生試験に関わることができた。港区環境課に紹介してくれたのが、当時の担当職員の一人であり、人の縁というのは本当に不思議なものだと感じている。

活動の経過と枠組み

お台場海浜公園の干潟環境の回復のために先ず行ったのが、現況を把握するための生物調査と台場児童館エコレンジャーおよびお台場学園3年生を対象としたアマモの苗の育成・移植である。改めて干潟と海中を調べてみると、想像以上に多種多様な生物がいることが判明した。「かつて葛西で取り組んだアマモ場再生がここならできるかもしれない」との思いが活動にのめり込む原動力となった。
活動を始めて数カ月が経過した頃、当時の校長先生から「お台場で海苔は育ちますか?」と問いかけられた。環境面から「育ちますよ」と安易に答えてしまったが、いざ「育てる」となると、43年ぶりとなる東京都海面での海苔養殖の復活だけに相当な困難が待ち構えていた。会社を延べ10日間ほど休み、環境教育を錦の御旗に、関係各所にお願いして回った。東京都港湾局、都漁連、木更津の漁師グループ、東京港湾事務所、海上保安部、NPO仲間など、とにかく許認可や作業、予算で関係するところには全てお願いして回り、なんとか協定書を締結することができた。今振り返っても良くできたな・・・と思うほど薄氷を踏むような状況だったが、それぞれに良き理解者と支えてくれる仲間がいたことに救われた。
海苔は生長し過ぎても病気になったり枯れたりしてしまう。網を張る高さを調整することで生長や病害に対する管理をするのであるが、何十年やっても同じような年はなく、うまく生産できるかどうかはベテラン漁師でも分からない。このため、木更津の漁師は海苔を「博打草」と呼んでいる。海苔を上手く育てるためには、芽出しという初期の三日間の管理が特に重要であり、台場では毎年12月下旬から海苔を育て始めるため、クリスマスイブの晩にカップルで賑わう夜の浜辺でヘッドライトを頼りに点検調整を行い、正月は海苔網の前で新年の挨拶をすることが恒例となっている。
育った海苔はお台場学園のピロティに移して児童が手摘みする。収穫の喜びに手の冷たさも忘れて歓声が響く。摘んだ海苔は保護者が包丁で刻み、天日干しで板海苔に加工する。当初、海苔漉き道具は大田区郷土博物館から、かつて大森の漁家で使用されていた道具を借り出していたが、現在は港区民の森から伐採したヒノキを材料にして再現した道具を使用している。天日干した板海苔が乾くときに発するパチパチという音と豊かな香りが広がる中、保護者が作った出来立ての海苔の味噌汁を何杯もおかわりする子どもたちの笑顔に、苦労も吹き飛ぶ。午後には、日本橋の老舗佃煮店の支援による佃煮加工と料理教室も開催されている。干潟やアマモ・アサリを対象とした海辺の環境教育も、お台場学園を核に幼保育園、児童館へと広がり、地域に根差した環境教育の実践が、継続的に実施されるようになっている。総合学習は自ら課題を発掘して調べ、解決に向けた方策を考案・実践する能力を育成することに意義がある。学習計画策定には保護者や地域の協力者も加わり、毎年改善が重ねられている。

 お台場学園での海苔の摘み取りと天日干し。学校周辺に海苔の香りが漂い、今では冬の風物詩となっている

今後の展望

目の前の海で採れた海苔の美味しさを実感すると、地域住民の間に夏は泳げるのではないかという意識が自然発生的に沸いてきた。調べてみると、海水浴場開設の基準となっている水質(糞便性大腸菌群数、COD、透明度、油膜)を満たす日もあることが判明した。そこで、2013年に「東京湾の環境をよくするために行動する会」主催で、1日海水浴体験イベントを開催していただくことができた。その後、2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決まり、お台場海浜公園がトライアスロン・オープンウォータースイミングの会場となることも確定した。3年前からは、港区主催により毎年夏休み期間中に二日間の海水浴イベントが開催され、港区長は『泳げる海 お台場!』をスローガンとして掲げている。
お台場海浜公園は、都心からのアクセスが良い。外部からの流入負荷を削減し、生息生物による浄化能力が高まれば、常時海水浴を楽しむことも不可能とは思えない。そこで、市民でもできる活動として、2年前からプランクトンを濾しとって食べるアサリの資源を増やす活動が展開されている。昨年は港区の試験事業としてアサリ稚貝の着生を促すマットを海浜清掃に参加した市民と一緒に干潟に敷き、その経過をお台場学園7年生(中学1年生)の総合学習でも活用している。直近の調査では、周辺の干潟と比較してマットを敷いた所では20〜30倍のアサリの着生が確認されている。これらのアサリが順調に成長して、増え過ぎた植物プランクトンを濾し取ることで、水浴場の水質基準となっているCODと透明度が改善される可能性がある。その後にアサリ汁として食用に供されれば、海にとっても人にとっても好循環が生まれ、お台場がますます魅力的な海辺となっていくことは想像に難くない。

港区主催海水浴イベントの様子アサリ資源増殖の啓発ポスター

教育普及活動の重要性

お台場海浜公園を舞台に展開されてきた干潟、アマモ、海苔を指標とした海辺の環境教育・体験活動が、次第に地域住民と行政の理解および支援を広げ、日常的に触れ合う海辺の活動や世界規模の競技の場として活用される機運を醸成してきたと思われる。状況を正しく理解し行動する環境リテラシーの能力を高めるためには、一層の教育普及啓発活動が欠かせない。海辺で活動する各種団体や東京臨海副都心街づくり協議会の会員企業との交流も始まった。台場の海がさらに魅力的な場として、世界中に発信されることを願っている。(了)

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