Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第404号(2017.06.05発行)

編集後記

東京大学海洋アライアンス海洋教育促進研究センター特任教授◆窪川かおる

◆桜前線が日本の北端を抜けると、次に来るのは梅雨前線である。今年の黒潮の流れと旬のカツオの水揚げが気になる頃でもある。縄文時代の三内丸山遺跡で見いだされた多数の魚骨は、魚食の歴史を物語っている。それ以前の旧石器時代にも魚を採る暮らしがあった。海と人との共生は数万年も続いてきたのである。一方、海は、海底資源という恵みがあることを教えてくれた。
◆天然のエネルギー資源は、地球からの人類への贈り物である。受け取ることができる現代人は幸運であろう。そのひとつが、日本産の海底資源の有力候補であるメタンハイドレートである。その砂層型の最新情勢について、日本メタンハイドレート調査株式会社の阿部正憲氏より解説をいただいた。砂層型メタンハイドレートからは、減圧法によりメタンを産出することができる。日本は、海底下に埋まっているメタンハイドレートの海洋産出の技術開発を着々と進めているトップランナーである。しかし、産出試験から商業化までに解決すべき科学・技術の課題は多く、それらの解決のために第2回海洋産出試験が実施されている。商業化に向けてさらなる試験も必要であり、他国との開発競争も起きそうだ。日本が地球からの贈り物を開けるまで、あと少しの辛抱である。
◆日本人のルーツは大陸にあるが、3万8,000年前頃に海を越えてきたという。対馬海峡も津軽海峡もその当時は開いていたためだが、渡海は至難の業であっただろう。現在はこれらの海峡の航海は難しくないが、それでも自然を相手に気を緩めることはできない。国立科学博物館の海部陽介氏らは、現在の知識と技術を持って古代の渡海を再現する実験航海のプロジェクトに挑戦している。その航海術とは何か。海況はどうだったか。古代人と一心同体となって夢はさまざまに広がる。そして2016年、草の船は与那国島を出航した。この予備実験を経て、渡海術の謎解きは始まったが、祖先の試行錯誤も想像してみたい。
◆子どもたちの魚離れと言われて久しい。家庭でも魚の調理は敬遠しがちである。そこに一石を投じるべく(一社)大日本水産会の魚食普及推進センターの甲斐将大氏は小学校に出かけている。「おさかな学習会」に参加した子どもたちは、カジキマグロの大きさを聞いて驚き、学校に運ばれてきたタッチプールで水産魚介類におそるおそる触ってみる。保護者は別室の料理教室でプロの指導を受けて魚料理に少し自信ができる。その晩の家庭での会話も楽しそうだ。小学校での1日は、日本が魚介類を食生活に取り入れ、水産業に誇りをもっていることを物語っている。多くの小学校にこの活動が届けられるよう願わずにいられない。 (窪川)

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