Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第404号(2017.06.05発行)

砂層型メタンハイドレートの商業化に向けた取り組み

[KEYWORDS]砂層型メタンハイドレート/商業化/海洋産出試験
日本メタンハイドレート調査(株)取締役企画部長◆阿部正憲

砂層型メタンハイドレートについては、将来の商業化に向けて、着実な研究開発が実施されて来ている。
2017年4月から第2回海洋産出試験が実施されているが、まださまざまな課題が残されていることから、今後、段階的に規模を拡大した産出試験の実施が不可欠である。

砂層型メタンハイドレートとは

メタンハイドレートとは、メタンと水からなる固体で「燃える氷」とも呼ばれています。メタンと水が豊富にあれば、低温で高圧の条件下で安定して存在します。南海トラフや日本海などの日本周辺の水深500mよりも深い海の海底下に存在することが知られており、国産の新たなエネルギー資源になる可能性があるとして注目されています。その存在様式から大きく分けて砂層型と表層型の二つのタイプに分類されています。
砂層型メタンハイドレートとは、海底面下数百mに存在する砂層の中の、砂粒の隙間を充填して形成されているものです。独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)により重点的に調査が行われてきた東部南海トラフ海域において、およそ1兆1,000億m3のメタンが賦存すると評価されています。
一方、表層型メタンハイドレートは、ガスチムニー構造と呼ばれる海底下の特異的な構造に伴って、海底面から海底面下100mほどの範囲に、塊状に形成されているものです。2013~15年度の経済産業省による調査により、日本周辺の海底下に1,742個のガスチムニー構造があることがわかり、この内の1つのガスチムニー構造(直径200m程度)が詳細に調査され、およそ6億m3のメタンが賦存するとの評価結果が2016年9月に公表されました。引き続き、回収技術の調査研究と賦存状況を解明するための調査が行なわれています。
ここでは、通常の天然ガス田を開発するための既存技術を応用することで、効率的にメタンを取り出せる可能性があることから、本格的に商業化に向けた取り組みが行われている砂層型メタンハイドレートに焦点を当てて、最新情勢や当社で考えております今後の課題などをご紹介いたします。

第2回海洋産出試験に向けて

■第1回海洋産出試験の位置

わが国では、およそ20年前からメタンハイドレートの調査が開始されました。2001年に経済産業省により「我が国におけるメタンハイドレート開発計画」が公表され、「メタンハイドレート資源開発研究コンソーシアム」(通称MH21)が結成され、砂層型を中心に着実に研究開発が進められて来ました。
2013年3月には、渥美半島から80km、志摩半島から50kmの沖合、水深1,000mの海域において、JOGMECにより第1回メタンハイドレート海洋産出試験が実施されました。その結果、6日間で12万m3のメタンの産出が確認されました。世界で初めて海底下の砂層型メタンハイドレートから、減圧法と呼ばれる手法により、まとまった量のメタンの産出を確認したことから、日本国内はもとより世界的にも大きな注目を集めました。
この第1回試験の直後の2013年4月に改定された海洋基本計画では、砂層型メタンハイドレートに関しては「平成30年代後半に、民間企業が主導する商業化のためのプロジェクトが開始されるよう、国際情勢をにらみつつ、技術開発を進める」と明記されました。これを受けて、2013年12月には海洋エネルギー・鉱物資源開発計画が改定され、「平成28年度から平成30年度までの3年間に、わが国周辺海域で、より長期の海洋産出試験を実施する」こととされています。
そこで、2017年4月から6月までの間に、第1回試験とほぼ同じ海域で第2回海洋産出試験が実施されています。2本の生産井を用いておよそ1カ月間のメタン生産を行うことにより、第1回試験で明らかとなった技術課題を解決することが期待されています。
第2回海洋産出試験のための現地作業は、JOGMECの委託を受けた日本メタンハイドレート調査株式会社(JMH)が実施しています。JMHは、2014年10月に日本の石油開発関連会社7社とエンジニアリング会社4社により設立された会社で、砂層型メタンハイドレート開発に関する中長期の海洋産出試験等に参画して、オールジャパンの組織体制にて効率的、効果的および円滑に業務を遂行するとともに、わが国の民間企業間での知見の共有を図っていくことを目的としています。

商業化に向けて

ところで、将来、商業規模でメタンを産出する時の開発システムがどのようなイメージになるのかは、まだ関係者の間で共通の認識を得るまでには至っておりません。メタンハイドレート開発と従来型の大水深の天然ガス田開発との間には、表のような違いがあると考えております。この中で特に大きな違いが、1本の生産井あたりのガス生産量が少ないため多数の生産井が必要になるであろうという点にあります。これに伴い、少しでも経済性を向上させるために安価な坑井掘削技術や、生産する場所を適宜移していくことに対応できる生産設備が必要になったりすると考えております。
また、地下の砂層の中からメタンガスを取り出すためには、圧力を下げるなどしてメタンハイドレートを分解させる必要があります。その分解のための熱が地層中から十分に供給され続けるのか、分解に伴い、いつ、どこで、どのような現象が生ずるのかなどのプロセスが、まだ十分にわかっていない点も大きな課題として挙げられます。他にも、経済性の向上に向けた様々な技術課題が残されております。これらの課題を解決するためには、第2回海洋産出試験が成功裏に終わった後も、ガス生産期間を数カ月間や1年間程度に段階的に拡大して、商業化に必要となる様々設備を用いた複数の海洋産出試験の実施が必要になると考えております。
メタンハイドレートは、海外においても注目されています。とくにインドでは2015年に賦存状況の調査を目的に、日本の技術協力の下で合計42本の調査井が掘削されました。近い将来、日本と同様の技術を用いて、日本よりも長期間の海洋産出試験の実施を目指しているとも伝えられています。また、中国も南シナ海において積極的な調査を行っている模様です。
現時点では、日本が世界の最先端を走っていますが、うかうかしているとこれらの国に追いつかれ、追い越される可能性があるのではないかと懸念しております。日本が世界のトップランナーの地位を維持し、国内において一刻も早い商業化を達成するためには、まずは第2回海洋産出試験を確実に実施し、その後の商業化に向けた計画的な取り組みを着実に進めて行くことが重要であると考えております。(了)

■天然ガス田開発と砂層型メタンハイドレート開発の違い

第404号(2017.06.05発行)のその他の記事

ページトップ