Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】バックナンバー

第385号(2016.08.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長)◆山形俊男

◆中国の長江流域では歴史的な洪水被害に続いて、40度を超える猛暑が続いている。地理的に近い西日本でも高温の日が続く。一方で、東日本にはヤマセが吹き込み、日本列島は「北冷西暑」である。しかし、フィリピン海の水温はどんどん上昇しているので、いずれ積雲活動が活発化して、全国的に残暑が厳しくなると予想している。
◆南シナ海も熱い。ハーグの仲裁裁判所は、中国の「九段線内の歴史的権利」の主張や人工島造成などの行動は国連海洋法条約に反しているとするフィリピンの申し立てをほぼ全面的に認めた。国際政治面で大きな話題になっているが、裁定が海洋環境保護違反について科学的根拠に基づいて詳述していることも見逃してはならない。歴史の問題でも将来の問題でもなく、現実の問題だからである。南シナ海沿岸域には3億人近い人々が海の恩恵に浴して生活を営んでいるが、違法漁業、生態系の破壊、海洋汚染がこれを危機に晒している。環境生態系を保全し、資源を持続的に利用していくことではすべての国が利害を共有する。今回の裁定が海洋保護区の導入などで国境を超えた協働を促すことになることを期待したい。
◆今号の最初のオピニオンはCristophe Pipolo氏による日仏間の総合的海洋協力の提案である。両国は海洋国家として、共に人類の共同財産である海洋の安全、保全に大きな責務を負っている。国際法や海洋科学・技術の先進国としても、海洋の管理と利用の両面で知恵と経験を共有できる。東京、ヌメア、タヒチを結ぶ三角形海域は支援を必要とする小島嶼国家だけでなく、エルニーニョの発生海域もすっぽりと包み込むものであり、日仏太平洋イニシアチブは極めて魅力的である。
◆次いで、鈴木光俊氏は都立大島海洋国際高等学校が進めている海を通した国際教育について紹介する。多感な生徒たちに感動の機会をもたらす実習船教育を基盤にして、実習研究活動、鯨類やサンゴ保全に向けた大学との合同調査などが活発に展開されている。海事や漁業に関する知識や技術の習得にとどまらず、しっかりした動機に加え、他者と共感できる広い視野を持った若者に海のフロンティアをどんどん開拓して欲しい。
◆西山マルセーロ氏は陸の木工ミュージアムである竹中大工道具館における海の木工との魅力的な出会いを紹介する。木匠の歴史は古い。大阪の建築会社「金剛組」の創設者は聖徳太子に招かれ百済からやってきた寺造工(てらつくるのたくみ)にまで辿れるそうである。大陸との交流は船なしでは不可能であるから、船大工の歴史も相当に古いはずである。今回の催しで船大工ダグラス・ブルックス氏の三陸の和船を復元するイベントが企画されたのは、様々な垣根を超えることの大切さを示す意味でも象徴的である。
◆海は交流を閉ざすものであるが、一方で交流をもたらすものでもある。私達の心も文化もまたしかりである。今号のオピニオン三題を読み、内なるものと外なるものを繋ぐことの大切さに改めて思いを馳せた。(山形)

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