Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第381号(2016.06.20発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構アプリケーションラボ所長)◆山形俊男

◆いよいよ梅雨の季節である。熱帯太平洋ではラニーニャ現象が発達しているが、エルニーニョ現象の影響が残り、西太平洋にはまだ暖水が蓄積していない。一方、インド洋東部には暖水が蓄積し、積雲活動が活発である。負のダイポールモード現象の兆候さえ見せている。そのためフィリピン海は下降気流に覆われ、未だに台風が一つも発生していない。今年も不順な夏になる可能性があり、熱帯の海から目が離せない。
◆先月は海洋関係者にとって重要な月となった。G7伊勢志摩サミット、先行して行われた科学技術大臣会合、環境大臣会合において安全保障、気候変動、環境保全などで海洋がクローズアップされたからである。特に科学技術大臣会合アジェンダ「海洋の未来」において、アルゴフロート等による海洋観測の強化、アセスメントの強化、海洋データの共有など、具体的な行動計画が世界に発信されたのは大きい。今後の展開が楽しみである。
◆首脳宣言では自由、民主主義、法の支配および人権の尊重を含む共通の価値および原則が再確認された。折しも、フィリピンが常設仲裁裁判所(PCA)に提訴した南シナ海問題について、近々、裁判所の判断が示されるようであり、一般の人々の法の支配への関心が高まっている。そこで兼原敦子氏に国際海洋法裁判所(ITLOS)が勧告的意見を出す管轄権の根拠について、解説していただいた。理学の世界では理論、観測の進展に伴って、既存の枠組みがほころびを見せるときがある。そこから新しい枠組みが生まれてくる。法の世界においても論理的整合性を追求する中から、新しい枠組みが生まれてくるのかもしれない。
◆続いて石井幸造氏には水産物の消費を持続的に可能にする海洋管理協議会(MSC)の活動とエコラベル制度について解説していただいた。適切に水産資源を管理していくには、持続可能な漁業を管理する漁業認証(MSC認証)と加工・流通過程を管理する認証(CoC認証)の2つが重要である。両方を叶えた製品にはMSCのエコラベルがつくので消費者は持続可能な漁業への認識を日常的に深めことができる。これは違法、無報告、無規則な漁業(IUU漁業)を国際的に規制することにもなる。エコラベル付き製品を増やしていくには消費者の理解を広げていく必要があるが、わが国には近江商人の三方よし(買い手よし、売り手よし、世間よし)の伝統がある。持続可能な社会に向けて、エコラベルの大きなうねりを引き起こしたいものである。
◆最後のオピニオンは和食に不可欠な鰹節に関するものである。船木良浩氏にはその歴史を古事記の世界から紐解き、奈良、平安時代、さらに下って江戸時代における製法技術の進化と生産地の拡大、更には(一社)日本鰹節協会の食育活動まで紹介していただいた。鰹節の製法は琉球列島、さらにはインド洋のモルジブ諸島にまで遡れるという説もある。海のシルクロードの存在は古くからさまざまな文物の伝来を促してきたことから、案外、的を射ているかもしれない。時空を超えて日本文化の源を想像してみるのも楽しい。 (山形)

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