Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第376号(2016.04.05発行)

編集後記

◆2016年度のニューズレターがスタートした。戦後71年を迎え、海を取り巻く世界の情況は大きく揺れ動いている。本号で、同志社大学の坂元茂樹氏が取り上げた南シナ海はまさに「紛争の海」の舞台となっている。南シナ海での米海軍による中国領海内の航行作戦は単なる政治ゲームではない。米国は今回だけでなくこれまで同様な作戦を世界各地で行ってきたことを坂元氏から教わった。外国船の航行には事前の許可を必要と規定した中国の制度が国際海洋法上問題であり、中国が排他主義のなかで南シナ海の軍事要塞化を進めることへの国際批判が高まっている。「出る杭は打たれる」ということわざが米海軍にではなく、中国自らの行為にたいする自省となればと思わずにはおれない。
◆1947年、中華民国政府は自国の領有権をトンキン湾から南シナ海、ルソン海峡に至る海域に線引きして主張した。これが11段線であり、破線で示された境界線は別名で牛舌線ともよばれる。長くダラリと伸びた海の境界線は威圧そのものだ。1949年に中華人民共和国が成立し、1953年にはトンキン湾中央部にある白龍尾島(パイ・ロン・ウェイ)が中国からベトナムに移転されてのち、11段線は修正されて9段線となった。1952年にサンフランシスコ平和条約が発効し、日米間の安全保障条約が決まった。当時の政治構造は冷戦下にあったが、覇権主義と華夷思想は現代の海洋世界では負の意味しかもたない。南シナ海には多くのサンゴ礁島があり、無害通航権の確認とともに環境保全の立場からの批判も忘れてはなるまい。
◆南の海とは異なった政治紛争の火種が北極海域で浮上している。日本大学国際関係学部の大西富士夫氏は、温暖化とともに先鋭化しつつある北極圏における資源開発と航路利用を軸とした問題にふれ、ロシアと西洋諸国がますます緊張の度合いを増しつつある事態を憂慮されておられる。北極圏を取り巻く8カ国はこれまで協調路線を踏襲してきたが、ロシアの北極圏における軍事的増強作戦や非北極圏にある中国の動向が注目されている。軍拡による経済優先主義が国力を増すとする「ドーピング」史観はもはや21世紀の海洋時代にはそぐわない。
◆地球全体をにらんだ取り組みが最近、フューチャー・アースとして出発した。地球の未来を考えるこの取り組みは、多くの課題を統合的に進めようとするもので、とくに海洋に関する3つのプログラムの強力な推進が期待される。国際環境経済研究所の長谷川雅世氏の指摘どおり、多様なステークホールダーの参画による事業の推進は協調主義と全体構想の統合性が組み合わさって初めて可能となる。とくに、海洋の問題の重要性が指摘されており、この事業はフューチャー・オーシャン(Future Ocean)といいかえてもよい意義をもつ。「地球の未来」事業が南シナ海と北極海に展開する覇権主義を打破する思想と実践の起爆剤となるよう、願わずにはおれない。 (秋道)

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