Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第369号(2015.12.20発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(国立研究開発法人海洋研究開発機構上席研究員/東京大学名誉教授)◆山形俊男

◆早いものでもう師走である。スーパーエルニーニョが予測通りに発達し、熱帯太平洋から放出される熱の効果も重なって、2015年の平均気温が観測史上で最も高くなるのは確実である。1998年頃から熱帯太平洋が大気の熱を効果的に吸収し地球温暖化の進行を抑制してきたが、そうした傾向はついに終わり、これからは温暖化の影響が強く顕れる時代に突入しそうである。
◆直前に起きた悲惨な同時多発テロにも屈せず、温暖化対策を議論するCOP21がパリで開催された。対策の具体案についての相違はあっても、参加国は195カ国を数えた。地球社会全体の持続可能な展開に向けて危機感を共有したところに大きな意義があったといえるであろう。来年度には国連を中心に持続可能な開発のための17の目標に向けて15カ年計画が始動する。歴史、文化、人種、言語の境界を超えて、人と社会の繁栄と安寧に向けて着実な歩みを進めていきたい。
◆ところで2015年度の自然科学部門京都賞はミシェル・マイヨール氏に授与された。20年前に太陽系の外にある恒星の周りを回る惑星を初めて発見した業績に対するものである。今では2,000個近い太陽系外惑星が発見されているが、華やかな式典に参加して思ったのは、命あるものが誕生し、高度な文明を育んできた地球の貴重さであった。
◆本号ではまず田中智志氏に小・中学生における海洋リテラシーの調査結果について解説していただいている。海洋教育には自然科学と人文社会科学が融合した学際的かつ統合的なアプローチが不可欠である。海洋は産業経済活動の場であり、その持続可能な利活用には安全・安心、防災の視点に加えて、環境と生態系を保全する視点も欠かせない。また海域の物質循環はそこに留まるものではなく大気や陸域とも密接に繋がっていることを知ることも大切なことである。実践活動と連携して、海洋教育が魅力的に深化していくことを期待したい。
◆次いで山本民次氏は古来海上航路や沿岸漁場として活用されてきた瀬戸内海に積極的に人手を加え、長所を引き出す方策を提案されている。貧栄養化した海に施肥して、積極的に耕す漁業に変え、カキ殻を海に戻して透明度を上げることで景観も良くしようというのである。これは新しい海洋エンジニアリング分野を開拓することにもなるのではないだろうか。
◆最後のオピニオンは水中写真家の大方洋二氏によるものである。本誌363号で松浦啓一氏に解説していただいた海底のミステリーサークルをご記憶の読者も多いことと思う。そのアマミホシゾラフグによる産卵巣の美しい写真を初めて撮影されたのが大方洋二氏である。本号ではダイバーを魅惑するサンゴ礁の海が減少しつつあるなかでダイバーがなすべきことについて、足ヒレの素材にも至る具体的な提案をしていただいた。人間活動や厳しい自然変動の中にあっても、精妙な生態系のバランスを保ちつつ地球の海に美しい彩を与えているサンゴ礁。この魅力を遠い未来の世代にも引き継ぎたいものだ。(山形)

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