Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第369号(2015.12.20発行)

サンゴ礁・ダイバーの楽園は今

[KEYWORDS] サンゴ礁/ダイバー/サンゴの天敵
水中写真家◆大方洋二

多くのダイバーが訪れるサンゴ礁の海。生物相が豊かで、何度潜っても違った顔を見せてくれる。そのサンゴ礁が、オニヒトデによる食害や海水温上昇による白化現象、そして開発など人間の活動範囲の広がりによって減少しつつある。
健全なサンゴ礁を残し保っていくには、ダイバーはどのようにすべきなのか、探ってみたい。


サンゴとサンゴ礁

■サンゴ(ミドリイシ類)の産卵

ダイバーに人気の場所は、なんといってもサンゴ礁の海。海水が暖かいうえ、カラフルな魚や生物がたくさん見られ、何度潜っても飽きることはない。
私は水中撮影を通して、国内外のサンゴ礁の海を見てきた。サンゴはガラスのようにもろい部分と、雑草のように強い部分の両方を持ち合わせていることを知った。サンゴは種数が多く、その形状や生態もさまざま。ここでは、ダイビングでよく目にするテーブル状サンゴ、枝状サンゴなどが属するミドリイシ類について取り上げる。
今でこそテレビでサンゴの産卵シーンが放映されているので、サンゴは動物ということが知られるようになったが、以前はダイバーでさえサンゴは鉱物と思う人が多かった。サンゴはポリプと石灰質の骨格からなり、先端の触手でプランクトンを捕えたり、触手内に共生する褐虫藻の光合成生産物を栄養にして成長する。サンゴも長い年月には寿命、病気、外敵などによって死滅し、崩れて海底の一部になって堆積する。その上に新たなサンゴが付着してできた構造物をサンゴ礁と言う。つまり、サンゴは生物(動物)で、サンゴ礁は生物が作った地形のことを指す。
日本沿岸には黒潮(暖流)が流れているお陰で、和歌山県南端や三宅島周辺にはサンゴの群生が見られる。しかし基盤となるのは岩や石なので、サンゴ礁ではなくサンゴ域と言う。日本のサンゴ礁の北限は、トカラ列島付近になる。

脅かされているサンゴ礁

■根こそぎ倒れたものの、新たなサンゴが水平に育つ

世界的にサンゴ礁は減少しつつある。主因は乱開発で、サンゴ礁やマングローブ域などの埋め立てによるものである。マングローブは水質の浄化や小魚の隠れ家となる大切な場所で、サンゴ礁とはかかわりが深い。
沖縄では赤土が問題になった。パイナップル畑などの赤土が雨によって海に流れ、青い海を変色させる。この状態が長く続くとサンゴは呼吸、光合成ができずに死滅してしまう。さらに赤土の中に農薬や肥料が混じっている場合はより深刻になる。農業者は泥水を溜める設備を造ってはいるものの、豪雨のときは役に立たなくなる。
サンゴの天敵もいる。最も有名なのはオニヒトデで、サンゴをエサにしているため大発生するとサンゴ礁は壊滅状態になる。1977年に初めて沖縄・慶良間諸島を訪れたときがまさにそうだった。ミドリイシ類はオニヒトデが最も好むサンゴのため、ほとんど食べ尽くされ、残っているのはハマサンゴの仲間とアナサンゴモドキだけだった覚えがある。しかしミドリイシ類は成長が速いのも特長で、数年後には小規模ながら回復していた。
オニヒトデが大発生する原因は①自然増減説、②捕食者減少説、③栄養塩増加説などあるが、あまりはっきりしない。だが現在、最も有力とされているのが③の説と言われている。すなわち、開拓などで赤土や生活排水が海に注いで栄養分が増え、オニヒトデの幼生期のエサとなる植物プランクトンが激増するため生存率が上がり、大発生につながる、というもの。ちなみにオニヒトデも卵の時期はサンゴのエサにもなるため、赤土などの流入でサンゴが弱まるのも一因だろう。
その他にも海水温の上昇によるサンゴの白化現象がある。1998年夏に世界的規模で発生したのはあまりにも有名で、南西諸島でも多くのサンゴがダメージを受けた。この年沖縄地方には台風が一つも上陸せず、そのため海水が攪拌されることなく水温が上昇し、サンゴ内の褐虫藻が抜け出し白化してしまった。1〜2週間で海水温が下がれば褐虫藻が戻って回復するらしい。台風は人間からするとやっかいなものだが、自然の営みには欠かせない。
また、台風そのものでサンゴが破壊されることも少なくない。波浪自体による被害はそう多くないが、海底の大きな岩が移動してサンゴを壊すことはよくある。まるでブルドーザーが通ったようになる。以前、沖縄・慶良間諸島で、台風で根こそぎ倒されたと思われるテーブル状サンゴがあった。だが、先端のほうにはいくつも水平に成長しているサンゴが・・・。光合成が必要なため、効率よく太陽光を受けるよう水平になっているのを見て、サンゴの生命力を感じたのだった。

サンゴ礁のためにダイバーができること

最近はほとんどのダイバーがコンパクトデジタルカメラを持っている。誰でも撮影できる時代になったのは喜ぶべきことなのだが、ダイビング技術がそれほどでもない人が持つことで、海の生物にダメージを与えてしまうことが多々ある。魚など逃げることができる生きものはさほど問題ないが、サンゴは逃げられない。フィン(足ヒレ)でサンゴを蹴とばす場面もよく目にする。
もろいサンゴは蹴とばすと折れてしまう。本人がそのことに気づくか気づかないかが重要で、気づけば悪かったと思うし、今度は注意しようとなるが、気づかなければまた繰り返すのは必至。気づかない要因は、他のことに夢中になっていることももちろんあるが、大きすぎて硬いフィンだからだ。小さくて柔らかいフィンなら何かに当たってもすぐ気づく。しかし安価なのでショップおススメではないのだ。器材選びもショップ任せではなく、自然に優しいものを選ぶべきだろう。
約10年前、オーストラリアのケアンズからダイビングボートでポイントに向かう途中、乗り合わせていた地元のダイビングツアーのインストラクターが、ツアー客相手にサンゴ礁に関するレクチャーを始めた。サンゴの生態や自然の大切さを教え、守るための注意をたっぷり時間かけて話していた。日本でもガイドがお客に注意をすることはあるものの、ここまで丁寧にはしていない。見習うべきだろう。ダイビング指導団体の講習でも、自然保護やサンゴなど生物にダメージを与えないよう教育することが重要だ。しかしながら、団体によっても異なるが、多くは講習生獲得のため講習料を格安にして、自然保護に関する説明を省く傾向にあるという。
サンゴ礁は地球の宝なので、大切に守らなければならない。そのためにはまずサンゴ礁や環境について知ることが大事なのではないだろうか。(了)

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