Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第237号(2010.06.20発行)

第237号(2010.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(総合地球環境学研究所副所長・教授)◆秋道智彌

◆新幹線で京都から東京にむかう日が月に何度もある。京都からそろそろ名古屋というときに、川をいくつも通過する。揖斐川、長良川、木曽川、そして庄内川である。名古屋を過ぎると今度は矢作川をわたる。本誌で、名古屋大学の辻本哲郎さんは伊勢湾流域圏における自然共生型の環境管理技術についてのビジョンを語っておられる。流域圏という以上、分水嶺から汽水、沿岸域にいたる空間すべてがふくまれるのは当然として、水や物質は河川の上流から下流へと運ばれるだけではない。海から河川をさかのぼるものもある。満潮時には海水が逆流するし、アユやサツキマス、ウナギなどは河川を溯上する。河川にダムや堰堤を造れば、これらの生物の生存条件はたちどころに悪化する。アメリカのメキシコ湾で発生した原油流出事故のように、沿岸から流域の生態系に重大な被害をもたらすこともある。おなじメキシコ湾を数年前に襲ったハリケーン・カトリーナによる災害は伊勢湾台風を思い起こさせる。流域圏のいわば外部からもたらされるさまざまな影響やリスクをどう緩和し、あるいは流域圏の維持につなげるのかはさらなる命題になるとおもうが、いかがだろうか。
◆沿岸における水産養殖が赤潮や津波の影響で大損失を蒙ることがある。最近の例では、今年の2月、チリ地震による津波で三陸沿岸の養殖業は大きな痛手をうけた。コストを別とすれば、陸での養殖は一つのありかただ。全国各地の湾や入り江で、夕日を浴びて美しく輝く養殖いかだは旅情をそそるが、海洋環境の悪化や魚価の低迷で採算が困難なこともある。海洋政策研究財団の菅原一美さんが取り上げた船用冷凍コンテナを利用したアワビの陸上養殖システムは、およそ海の景色とは無縁のものだ。天然のアワビが棲める海がなくならないことを祈る気持ちは多くの人が共通して抱く思いだろう。しかし、他方でアワビでさえ陸で養殖できる可能性が切り開かれたのだ。きくと、そのアワビのお味は天然物とかわらないという。いまから二十年ほど前に長崎県五島列島にある小値賀島で、ちょうどアワビの蓄養実験が進められていたことを思い出す。切り刻んだワカメをアワビにあたえる実験であった。陸上養殖でも、アワビのえさとなる海藻は欠かせない。コンブやワカメなどの有効利用が進むことを期待したい。だが、肝心の海藻がはえる全国の藻場はだいじょうぶか。アワビ養殖の問題から日本の海を考えることはなおさら重要なことがらにちがいない。
◆花毛布はききなれないことばであった。日本海洋事業の青木美澄さんは、船でのもてなしの心と技をホテルに応用できないかとの試みがされていることについて紹介されている。海の文化を陸のホテル文化へと応用する例といえるだろう。海から陸へ。今回のかくされたキーワードだ。 (秋道)

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