Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第210号(2009.05.05発行)

第210号(2009.05.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集代表(東京大学大学院理学系研究科教授・研究科長)◆山形俊男

◆新緑の香を運ぶ清々しい風の季節となった。首都圏ではツツジの赤と緑のコントラストが目にしみる。緑の中にぽつんと咲くザクロの花を北宋の王安石は紅一点と詠んだが、ツツジの花は一面に咲き競う。これを眺めて古人はどのような表現をしたのだろう。約七千の島々が南北に細長く配置された日本列島を緑の前線が今ゆっくりと北上し、それぞれの地に春爛漫の世界を展開している。この前線が北海道に至るのは六月頃である。経済社会の鬱陶しさをしばし忘れ、薫風を胸いっぱい吸い込みたいものだ。
◆今号ではまず山内道雄氏が隠岐諸島の海士町における地域再生のための試みを紹介する。職員給与の大胆なカットによる財政再建に加えて、海産物のブランド化を進めるプロセスで得た持続可能な「環境漁業」の視点は、ビジネスモデルと環境保全をうまく調和させた優れた試みといえるであろう。離島活性化の一つの成功例として大いに参考にしたい。
◆ソマリア沖への海上自衛隊の護衛艦派遣に関してマスメディアなどでさまざまな議論がなされている。わが国の生命線は海上輸送にあり、ソマリア沖に限らず、その安全確保は不可欠である。これは絶えざる努力によってはじめて成り立つものであるが、多くの国民にとって、安全はまるで水や空気のように自然に存在するものなのである。桜林美佐氏はこうした安易な考えに警鐘を鳴らし、意識の改革を迫る。
◆柚木浩一氏は海難事故の原因究明と懲罰を分離する組織改革について解説する。これは国際海事機関のリードする世界の潮流に整合的な改革であり、海の事故についてもようやく陸や空の事故への対応と同じになったといえよう。海難事故の再発防止のためには、原因の究明が確かな科学的見地に基づいてなされなければならない。最近、(独)海洋研究開発機構の田村 仁氏らは、うねりと風波の共鳴相互作用により、波のエネルギーが予想外の狭い範囲に集中し船体を破壊する可能性を指摘した。この新理論に基づいて第五十八寿和丸の事例を解析した研究はネイチャー誌などでハイライト研究として紹介されている。大型船舶でさえ破壊してしまうフリーク波、この危険水域の予測が可能になる日が待ち遠しい。(山形)

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