Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第150号(2006.11.05発行)

第150号(2006.11.05 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻教授)◆山形俊男

◆海は物質資源とエネルギー資源の宝庫である。今号では物質資源を代表する鉱物資源と生物資源に関する最近の話題を取り上げている。東京大学工学系研究科の玉木氏にはわが国の排他的経済水域(EEZ)における海底鉱物資源とその開発技術の現状と問題点について、龍谷大学法科大学院の田中氏には生物資源に関連して、公海における生物多様性保護に向けた動きと現行国際法のジレンマについて紹介していただいた。海の資源を適切に活用し、物流を含む海洋産業を持続的に展開するには洋上プラットフォームが有効である。マリンフロート推進機構の岡村氏には、高機能を持つ浮体式洋上構造物に関して提言をいただいた。

◆随分前のことだが、遠洋航海から戻った友人に文様がとても綺麗な、芋の形をした貝殻をいただいたことがある。この貝は熱帯に生息するイモ貝と呼ばれるものだった。外見の美しさとは裏腹に、イモ貝の仲間には猛毒を持つものが多いらしい。その毒素からモルヒネなどよりも遙かに効果的な鎮痛剤が開発されているという。今、先進諸国では海洋生物に含まれる有機化合物の生理活性を解明し、それを新薬に結びつける競争が盛んである。中国も南インド洋の公海において熱水鉱床やその周辺の深海生物の調査を開始したと聞く。

◆どの国の管轄権も及ばない深海底とその下の資源の管理のために、国連海洋法条約の下で1994年に国際海底機構(ISBA)が設立された。しかし生物資源については、このような国際的な枠組みはまだ導入されていない。生物多様性を保護することの重要性はいうまでもないが、復元能力を超えて各国が放縦に生物資源を利用するならば、ギャレット・ハーデインの云う<共有地の悲劇>を招きかねない。しかし、周辺諸国が一方的に海洋保護区を導入するならば、公海の生物資源を人類全体で共有する道を閉ざすことになる。わが国は海洋国家として海の実証科学と技術を高度化し、海洋産業の発展に貢献するだけでなく、田中氏が提言するように、持続的な資源利用を可能にする国際秩序の形成に向けて、科学に裏付けられたリーダーシップを発揮すべきである。  (山形)

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