Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第141号(2006.06.20発行)

第141号(2006.06.20 発行)

編集後記

ニューズレター編集委員会編集代表者(総合地球環境学研究所教授)◆秋道智彌

◆この6月初旬、知床を訪れた。本州は30度近かったようだが知床峠では積雪があり、道路が一時閉鎖された。異常とまではいわないものの、何かが大きく変化しているのだろう。そういえば、今年は流氷の接岸がほとんどなかった。

◆周知の通り、知床は昨年7月、世界自然遺産に登録された。北大の桜井泰憲氏によると、知床は海と陸の生物多様性が豊かで、両者の相互作用が顕著に見られる小規模な生態系であることになる。しかも、知床は自然遺産であるとはいえ、人間との関わりをまったく排除した自然だけがそこにあるのではない。国際自然保護連合から、沿岸の海域管理計画を策定するようにとの宿題が課せられているように、知床の海は水産資源の宝庫であり人間が深く関わってきた。知床は地の涯なのではなく、もっとも豊かな海なのだ。

◆人間との歴史的な交渉についてみれば、アイヌの人々も長くそして深く知床と関わってきた。明治期の土民法でアイヌの人々の土地を取りあげ、サケを獲る権利を剥奪したのは日本人であった。アイヌの人々も世界遺産の今後を考える輪に参加するのは当然なのだ。

◆世界遺産登録後、知床にやってくる観光客は確実に増えた。私が今回見たのは休憩所でトイレに並ぶ観光客の長い行列であったが、数が増えればいろいろな問題が生じ、エコツーリズムの枠を超えた逸脱行為が蔓延することは目に見えている。現に、観光船が海鳥の生息地へ異常接近することや、餌付け行為は自粛されている。しかし、それだけでは十分ではないことを知床財団の熊谷恵美氏が警鐘として投げかけている。真に知ることは守ることにつながるという主張は、エコツーリズムの原点となる問題提起だろう。知床では、地元の住民や漁業者の意識が非常に高い。このことを踏まえ、知床の今後のためにも、先述した桜井先生を座長とする委員会の奮闘や観光客への啓発活動など、多角的な取り組みに期待したい。(了)

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