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【開催報告】 「『五島市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略』を産業連関表で分析-総合戦略で産業、人口、カーボンニュートラルの経済波及効果は?-」シンポジウム

2024.04.17

 笹川平和財団海洋政策研究所(以下OPRI)は2月16日(金)に五島市立図書館多目的室(長崎県五島市)において、「『五島市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略』を産業連関表で分析-総合戦略で産業、人口、カーボンニュートラルの経済波及効果は?-」と題したシンポジウムを開催しました。
 
 OPRIの役割の一つである「将来の世代に健全な状態で海洋を引き継ぐ」ためには、限られた資源を効率的に使うことが重要です。政策立案においてそれを実現するには、資源の投入と生産物の産出の関係を明らかにするエビデンスに基づく政策立案、所謂EBPM(Evidence-Based-Policy-Making: 根拠に基づく政策立案)が重要です。
 
 EBPMにはエビデンスを①「作る」②「伝える」③「使われる」の三段階があります[i]。OPRIはこれまでに五島市において海洋産業を細分化し、浮体式洋上風力産業を含めた産業連関表の①「作る」を進めて来ました[ii]。そして前回のワークショップでは五島市関係者の方に②「伝える」を行いました[iii]。そして今回、OPRIは五島市関係者の方に産業連関表が③「使われる」ことを目的として開催しました。
 
 冒頭では田中 元 研究員((公財)笹川平和財団海洋政策研究所)より、今回のシンポジウムの目的について説明しました。また、前回のワークショップのアンケート結果から、「五島市産業連関表は五島市の政策分析に使用できる」という回答が多く得られ、その有効性が確認されたことを報告しました。

田中研究員

 次に横山真吾氏(㈱オイコノミクス計量計画事務所)は、「五島市産業連関表と総合戦略」というテーマで発表をしました。横山氏は産業連関表を用いて、五島市の基盤となる産業、産業連関表の波及効果の倍率と粗付加価値に着目し、事業効率性の高い産業や、五島市の水産関連産業に着目したネットワーク分析を行いました。
 片石温美氏(中央大学教授)は「IUターンと島振興」というテーマで、離島の概要、転入超過となった離島の取り組み事例(社会的要因と人口増加、全部離島市町村の取り組み事例の説明をしました。片石氏は、五島市の近年の超過はめざましく、その要因として転入増加は住宅確保支援,雇用機会の創出支援,離島留学の受け入れなど、転出抑制は出産や教育など島民負担の軽減などの施策の効果であると報告しました。

片石 温美 氏

 九州大学の宮崎幸汰氏は、「若者から見た五島の『強さ』を分析する」というタイトルで発表し、五島市の自身で行っている自らの取り組みや、五島市における観光の課題について述べました。

宮崎幸汰氏

 その後、実際に五島市の方々が携わっている取り組みの紹介や、産業連関表を使った経済効果の分析が紹介されました。
 
 地域起業家の陣内八郎氏は、「五島市に於ける飲食業展開の可能性」という題で発表をしました。陣内氏は、自ら経営する飲食店「花笑みきくや」の経済波及効果を計算しました。その結果、地元食材を多く使っている「花笑みきくや」の経済波及倍率はおよそ2.1倍になることがわかりました。

陣内八郎氏

 次に五島市政策企画課長の庄司透氏からは、「島へのIUターンの経済波及効果」という題で発表がされました。産業連関表を使用した結果、島へのIUターンの経済波及倍率は1.51倍であると計算されました。

庄司透氏

 最後に、五島振興局の遠山祐一氏、後藤将太郎氏からは、「五島市での海業振興の可能性-産業連関分析による経済波及効果-」と題した発表がされました。分析の結果、定置網漁業者による定置網観光や漁師食堂には、高い経済波及効果があり、定置網漁業だけでなくサービス業にも多くの経済波及効果があることがわかりました。

遠山祐一氏

 シンポジウム後半には、パネルディスカッション(産業連関表で五島市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略を語る)が行われました。
 有識者として山口純哉氏(長崎大学准教授)が「地域政策と産業連関表」と言うテーマで、産業連関表の政策立案にかかる活用の重要性を述べました。征矢野清氏(長崎大学教授)は「地域を変える総合海洋産業」と言うテーマで、長崎大学の進める「ながさき BLUE エコノミー - 海の⾷料⽣産を持続させる養殖業産業化共創拠点-」について説明をしました。尹清洙氏(長崎県立大准教授)は「五島市産業連関表の特徴」と言うテーマで、今回作成した五島市産業連関表の政策への有効性について述べました。鶴田貴明氏(ながさき地域政策研究所理事長)は「五島市の人口動態と地域課題」と言うテーマで、五島市の人口動態と地域課題について述べました。庄司透氏(五島市政策企画課長)は、「五島市の総合戦略」というタイトルで、第二期五島市まち・ひと・しごと創生人口ビジョン・総合戦略について説明をしました。

左から庄司氏、征矢野氏、鶴田氏、陣内氏、尹氏、山口氏

 粕谷泉氏 (水産庁計画課長補佐 (web参加)) は「海業に関わる取り組みについて」というタイトルで、水産庁の進める海業について、目的、事例、法律の改正、漁港施設等活用事業制度について説明を行いました。清野聡子 (九州大学准教授 (web参加)) は「地域と環境」というタイトルで、経済活動を産業連関表で分析し、事業としていろいろな産業振興を行う場合、環境の保全を行うべきであり、それが地域を守ることにつながると述べました。

 最後に、シンポジウムに関して参加者からWEBアンケートを実施しました。回答結果は、会場及びオンラインの参加者20人から得られました。まず、多くの方が発表された政策分析において産業連関表を活用できると回答しました (図1)。

図1 産業連関表の適用についての回答

またパネル討論においても、多くの方が議論されたテーマが「参考になる」と答えました (図2)。

図2 産業連関表の活用についての回答

 自由記述においては、以下のような意見をいただきました。多くの方々に、産業連関表の活用に好意的なご意見をいただきました。(以下抜粋)

・ 産業連関表への適応を目的とするのではなく、どういったことをすれば、地域のためになるかについて議論できればなお面白かったように思います。
・ 今後五島市をはじめ各市町に波及していくことを願っています。
・ 海業ではなく「島業」でやっていこうとの発言が印象的でした
・ 海業はまだまだ課題の多い取り組みですが、今回の発表が今後の新たな展開のきっかけになればと思います。
・ 五島市の水産業の振興がメインテーマだったと理解しておりますが、産業連関表で移住者の経済効果についても示していただきありがとうございました。
・ 五島の産業構造について驚きをもって聴講させていただきました。飲食の話は興味があったのですが、今回の内容は少し特殊すぎるかなと感じましたので、できれば一般的な飲食店(居酒屋)を分析したデータがほしいなと感じました。

 今回のシンポジウムでは、OPRIの目指す「将来の世代に健全な状態で海洋を引き継ぐ」というコンセプトを、政策立案において実現するために、EBPMの③「使われる」を目的として開催しました。そして実際に、五島市の行政、産業界の方々に、作成した産業連関表を使っての分析報告をしていただきました。報告された三つのテーマでの産業連関表での経済波及効果分析は、これまでわからなかった五島市の飲食業振興、IUターン振興、海業などの政策の経済波及効果を明らかにする、学術的にも斬新かつ話題性を持つものとなりました。

(文責:海洋政策研究所 研究員 田中 元)

 
[i] 中山健夫 (2010). エビデンス:つくる・伝える・使う. 体力科学, 59(3), 259-268.
[ii] 田中元, 長野章, 渡邉敦, 片石温美, 横山真吾, 田添伸 (2023). 浮体式洋上風力発電事業を含む海洋産業連関表の作成と分析 ―長崎県五島市を対象として―. 2023年度日本水産工学会学術講演会 学術講演論文集. pp131-134.

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