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【開催報告】「五島市産業連関表とカーボンニュートラル」ミニワークショップ

2023.12.11

 笹川平和財団海洋政策研究所(以下OPRI)は11月20日(月)に長崎県五島振興局(長崎県五島市)において、「五島市産業連関表とカーボンニュートラル」と題したワークショップを開催しました。
 OPRIはこれまでに五島市において海洋産業を細分化し、浮体式洋上風力産業を含めた産業連関表の作成を進めて来ました*。また五島市では、ブルーカーボン生態系(海藻藻場)の再生を通じたJブルークレジットの取得やカーボンニュートラルの促進を進めて来ています。今回はその二つのテーマを融合させたワークショップを20日の13:15~16:30に開催し、経済分析の学識関係者や行政関係者が集まり、産業連関表を用いた経済分析について報告しました。
 
 まずOPRI海洋政策研究部の田中元研究員から、本ワークショップ開催の目的や経緯が述べられました。田中研究員は、OPRIの役割の一つである「将来の世代に健全な状態で海洋を引き継ぐ」というコンセプトを政策立案につなげ、政策立案者が限られた資源を効率的に使うためには、資源の投入と生産物の産出の関係を明らかにするエビデンスに基づく政策立案、所謂EBPM(Evidence-Based-Policy-Making: 根拠に基づく政策立案)が重要であると述べました。そしてエビデンスを作るための政策評価の手法として産業連関表を提案し、海洋産業を小分類化した産業連関表は小規模な地域では費用面、人材面の制限から作成されていないため、OPRIが2021年度に五島市で作成したことを述べました。そして最後に会議の目的として、EBPMにはエビデンスを①「作る」②「伝える」③「使われる」の三段階がある中で、今回の会議は五島市関係者の方に②「伝える」ことを主目的とすると説明しました。

 
ワークショップの開催趣旨を説明する田中 元研究員

 その後モデレーターを務めるはこだて未来大学名誉教授の長野章氏から、ワークショップ参加への謝意および成果への期待が説明され、その後パネリストによる発表がおこなわれました。
 
 まず産業連関表について、五島市産業連関表作成に携わった研究者たちから説明されました。中央大学研究開発機構客員教授の片石温美氏からは、「産業連関表を使う」と題した発表がされました。片石氏は産業連関表の、構造、作成手順などの基礎知識について説明をし、その後利用法としての経済波及効果分析、税収の増加額の推計、経済構造の強さ、弱さ分析などを紹介しました。

「産業連関表を使う」と題した講演を行う片石 温美氏

 次に株式会社オイノコミクス計量計画事務所の横山真吾氏からは、「五島市産業連関表を使う」と題した発表がされました。横山氏は五島市産業連関表の活用事例として、「第二期 五島市 まち・ひと・しごと 創生人口ビジョン・総合戦略」の各種経済政策による経済波及効果の試算を行いました。横山氏は、総合戦略の中の基本目標である水産業振興プロジェクト、観光による交流拡大プロジェクト、UIターン促進プロジェクトの経済波及効果を分析しました。

「五島市産業連関表を使う」と題した講演を行う横山真吾氏

 そして最後に長野氏から、話題提供として「洋上風力とブルーカーボン」と題した発表がされました。長野氏は作成した産業連関表の中で、新たな産業として組み込んだ洋上風力管理運営産業の生産額や、洋上風力関連産業から発生する経済波及効果について説明しました。さらに、ブルーカーボンの産業部門としての藻場造成業の産業連関表への組み込みを提案しました。

「洋上風力とブルーカーボン」と題した講演を行う長野章氏

 総合討論では、学識経験者や行政関係者から産業連関表の意義や活用法に対して意見が述べられました。
 
 地域起業家の陣内八郎氏は、産業連関表の計算方法について、長崎県産業連関表からの按分法の説明などについて質問しました。またご自分が産業連関表を使って県議会で発表したことについて触れ、産業連関表作成には多大な労力と費用が掛かることを述べ、五島市へその活用を求めました。
 
 九州大学准教授の清野聡子氏は、漁業部門にその産業の大きさから新たに遊漁産業を作るべきこと、変化の速い時代において産業連関表は5年に一度しか更新されていない中で機動力のある調査が重要なこと、水産加工業に外国人労働者が多い点から外国人労働者のもたらす経済波及効果の分析が必要であることを提案しました。またこのようなエビデンスに基づく地域政策立案は画期的であり、噂が先行し実態がわからないまま地域の取り組みが進むことが多い政策立案において、実態を示す産業連関表の重要性を説明しました。
 
 長崎大学教授の征矢野清氏は、外国人が増えたことによる観光経済効果や、水産業を柱とした事業の活性化の効果を示すことで、事業に携わる人たちへの示唆になると指摘しました。また産業連関表は未来を示すツールであるとして、どこを変えたらどのようになるか、取り組みの効果を示すことが可能であると述べました。
 
 長崎大学准教授の山口純哉氏は、水産加工業のサンプルの選択において触れ、五島市には規模の違う加工業者があり、小規模な加工業者は受注した分を生産できないという供給能力の限界について検討すべきと指摘をしました。また産業連関表は一度仕組みがわかれば自由に使えるツールであると述べ、五島市にトップランナーとしてその活用を求めました。
 
 公益財団法人ながさき地域政策研究所の鶴田貴明氏は、産業連関表には意義があるが使い方が大事であり、最終需要の計算において、テレビドラマ放映による経済効果は実際より高めになっている点をあげました。また自身が改定に携わった五島市の人口ビジョンについて言及し、産業連関表によってこれまでわからなかった人口減少を食い止めたことによる経済効果が図れるようになるなど、産業連関表は幅広い議論をするための重要なツールであると述べました。
 
 水産庁の安田大樹氏は、海業(うみぎょう)との関連で産業連関表の有効性について述べました。安田氏は海業推進に当たっては地域経済分析の評価をすることが重要であることについて触れ、産業連関表を使って特定の政策の波及効果を明らかにすることで政策の重要性を示せる点や、他の産業にどのように影響を与えているかわかる点が、産業連関表の魅力だと述べました。また、今後の期待される方向性として、漁港整備法改正の経済効果分析について言及しました。
 
 五島市政策企画課と未来創造課からは、産業連関表は政策を考えるうえでの一つの資料にはなりえること、洋上風力の経済効果分析の有用性について述べられました。

発表している陣内氏(奥の机左から安田氏、鶴田氏、陣内氏、清野氏、征矢野氏、山口氏)

 最後に、福江商工会議所の清瀧誠司氏から、「地域版RE100への繁栄」と題した発表がされました。清瀧氏は事業活動で使う電力のすべてを再生可能エネルギーで賄うことを目指す国際的な枠組みRE100の、五島市での取り組みである五島版RE100の創設の経緯や今後の展望について説明しました。

「地域版RE100への繁栄」と題した発表を行う清瀧氏

 今回のワークショップを通じて、五島市産業連関表を使ったEBPMの実施について、②「伝える」が完了しました。今後は③「使われる」を目指し、五島市でのシンポジウムを、来年2月に開催する予定です。(了)

*田中元,長野章,渡邉敦,片石温美,横山真吾,田添伸.(2023).浮体式洋上風力発電事業を含む海洋産業連関表の作成と分析 ―長崎県五島市を対象として―. 2023年度日本水産工学会学術講演会 学術講演論文集.pp131-134.

(文責:海洋政策研究所 研究員 田中 元)

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