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Solutions Journalism in Practice 003:

地域の空き家・空き店舗をどう生かす?糸島・前原の「つながる」まちづくり

一年生能飛(福岡社会人チーム)


2026.11.06
13分

 

 福岡県糸島市は、福岡市の西に位置し、美しい海や山に囲まれた自然豊かな地域である。空港のある福岡市からのアクセスも良く、県内外から多くの観光客が訪れる。また、2024年度後期のNHK連続テレビ小説『おむすび』の舞台の一つとなり、全国的な注目を集めた。

 一方で、観光客の多くは海沿いの観光スポットや飲食店に向かい、そこから離れた筑前前原(ちくぜんまえばる)駅周辺まで足を運ぶ人はそう多くない。

 駅周辺の一帯は、江戸時代に唐津街道の宿場町「前原宿」として栄え、かつては多くの人が行き交う交通の要所だった。その後も糸島地域の政治・経済・文化の中心として発展し、前原商店街には肉屋や八百屋、魚屋など、地域住民の暮らしを支える店が並んでいた。

 しかし、大型ショッピングモールやスーパーマーケットの普及、車社会の進展によって商店街の役割が薄れ、1980年代頃から客足が減少。店舗の閉店が相次ぎ、空き家や空き店舗が目立つようになり、地域住民が日常的に集まる場所も減っていった。

 増え続ける空き店舗や空き家を活用し、再び人が集まる場所へと変えていくにはどうすればよいのか。今回は、地域で行われている二つの取り組みにスポットライトを当てる。

 一つ目は、空き店舗の所有者と出店希望者をつなぎ、商店街に新たな店舗と人の流れを生み出す取り組み。二つ目は、空き家となった古民家を九州大学の学生向けの寮として活用し、地域に新たな住民を呼び込む取り組みである。

 いずれも、単に空いた場所を埋めるのではなく、空き店舗や空き家に新たな役割を持たせることで、地域に人の流れやつながりを生み出そうとする取り組みである。

 まずは、空き店舗を活用して新たな人の流れを生み出している「いとしまちカンパニー」の取り組みから見ていく。

いとしまちカンパニー:商店街の「役割」をつくり直す

 いとしまちカンパニーは、福岡県糸島市の筑前前原駅周辺を拠点に、中心市街地の活性化に取り組むまちづくり会社である。移住者を中心に設立された同社は、「おもしろいファースト×人」を掲げ、空き家・空き店舗の活用やイベント、コミュニティづくりを通じて、人と人が出会い新しい活動が生まれる場をつくっている。

 活動のきっかけの一つが、子どもたちを対象にした無料映画イベント「いとシネマ」だった。商店街の空き店舗を上映会場として活用し、普段使われていない場所を地域の人が集まる場へと変えたのだ。この経験から空き店舗活用の可能性が広がり、いとしまちカンパニーの設立につながった。

 同社の特徴は、空き店舗を単に埋めるのではなく、所有者と新たな事業者の間に入り、地域に必要な用途へと変えていく点にある。店舗を一度借り上げて大家としての役割を担うことで、所有者の「知らない人には貸しにくい」「管理が大変」などの不安を減らしている。また、店舗を複数の区画に分けたり、ポップアップ店に活用したりすることで、小さなビジネスが参加しやすい仕組みも生んでいる。

 また、市内には「みんなの」というコミュニティスペースを設け、地域住民や移住者が交流しながら、一緒にまちづくりに取り組める場を提供している。こうした活動を通じて、約60の事業者との関わりが生まれ、商店街全体でまちづくりに取り組むきっかけとなっている。

 空き店舗活用の事例の一つが、「MAEBARU BOOKSTACKS」だ。同施設には、「糸島の顔が見える本屋さん」がテナントの一つとして入居している。30センチ四方に区切られた本棚は有料で貸し出され、借り手が「棚オーナー」として好きな本を販売できる仕組みだ。約80人の棚オーナーが参加し、本の販売に加え、読書会や読み聞かせなども行われており、多くの人が本を通じて交流できる場が生まれている。

 このように、いとしまちカンパニーは、空き家・空き店舗の活用と人々のつながりづくりを通じて、新たな活動が生まれる環境を整えている。事業者や地域住民が関わり合いながら商店街の新たな魅力をつくることが、地域全体の活性化につながることが期待される。
 一方で、これらの取り組みが商店街全体の活性化に直結するとは限らない。昔からの住民が必要とする食料品や日用品などの日常的な買い物機能は十分ではなく、移住者と地域住民の関係づくりも途上にある。

 いとしまちカンパニーの共同代表社員である後原宏行(せどはら ひろゆき)氏は「街全体としてはまだ人を呼べていない」と話しており、個々の店舗だけでなく、商店街を歩いて回る人の流れをつくることが課題となっている。

 そのためには「どのような商店街にしたいのか」という共通のビジョンを地域全体で考える必要がある。また、来街者数や空き店舗数など、成果を示す定量的なデータも十分ではない。

 糸島は観光や移住先として知名度が高く、人を呼び込みやすい地域でもあるため、他地域で同じ仕組みが再現できるかについても、今後の検証が必要である。

熱風寮:「空き家×学生」で地域の担い手を生み出す

 熱風寮とは、九州大学の学生を対象(一部の物件では社会人も入居可)に、福岡県糸島市や福岡市西区エリアで展開されている学生寮である。合同会社よかごつ代表の大堂良太(おおどう りょうた)氏が、歴史ある古民家や空き家を改修し、学生寮として活用を始めた。現在は糸島市内外で7棟を運営し、計42人が生活している。
 自らも九州大学で学んだ大堂氏は、在学中の約5年半を学生寮で過ごし、学生同士のつながりが強い環境で心理的な安心感を実感した。その経験と、もともと持っていた教育への関心から、後輩にあたる九大生のための寮をつくり、若者の生活やキャリアを支援したいと考えるようになった。

 そこで、自身の経験を生かして「教育×学生寮」という形で学生を支援するため、熱風寮を始めた。その実現に向け、糸島市や福岡市西区の空き家を探し、地域に根付いた不動産会社を通じて約30件の物件を見て回った。最初の候補となった物件は市街化調整区域にあり、用途変更のため規制緩和の制度を活用し、福岡県知事の許可を得るまで約半年を要した。

 大堂氏は、物件を購入せず賃貸を基本とし、5年、場合によっては10年の長期契約を結び、物件によっては200万~300万円ほどの改修費を負担する。改修費を回収できる期間も考えながら契約を決め、空き家を継続的に学生寮として活用してきた。熱風寮からは、学生と地域がつながるきっかけも生まれている。

 寺子屋「もろきち」は、寮生たちが地域の小中学生に勉強を教え、学校の宿題や苦手科目の学習をサポートする活動だ。約5年間続いており、現在は約17人の子どもが参加している。学生が身近なお兄さん・お姉さんとして子どもたちと交流することで、子どもたちが大学生活やさまざまな価値観に触れ、新たな興味や関心を見つけるきっかけを提供している。

 また、「熱風祭」という地域交流イベントも開催している。2026年は約1,500人が来場し、寮生はおにぎりやカレー、チョコバナナ、クラフトコーラなどの飲食ブースを出店。自分たちの活動や個性を地域に発信した。ほかにも、九州大学の学生によるライブ演奏や、近隣の糸島高校書道部による書道パフォーマンス、糸島農業高校太鼓部による和太鼓演奏も行われた。さらには子ども向けの駄菓子まきなど、幅広い世代が楽しめる企画が用意された。こうした取り組みにより、熱風寮は学生の住まいとしてだけでなく、学生と地域の人々をつなぐ役割も担っている。
 一方で、取り組みには課題も残る。九州大学伊都キャンパスに近い地域にありながら、学生がその周辺の前原エリアを訪れる機会はまだ限られており、学生と地域をつなぐ仕組みをさらに広げる必要がある。また、学生は卒業によって入れ替わるため、これまで築いてきた地域との関係や活動を、次の世代へどのように引き継いでいくかも課題となっている。

空き家を「人と地域をつなぐ場」として捉える

 糸島市を拠点とする二つの取り組みを取材して得た学びを、最後に共有したい。いとしまちカンパニーの取り組みから、前原商店街の再生とは、過去の店舗構成をそのまま取り戻すことではなく、時代や地域のニーズに合わせて「商店街の役割」をつくり直すことだと考えられる。

 空き店舗を活用する際には、単に新しい店舗を入れるだけでなく、昔からの住民や商店主と、新しく地域に入ってくる移住者・事業者をつなぐ「中間者」の存在も重要になる。空き店舗を新しい事業者につなげるだけでなく、コミュニティスペースやイベントなど、人が地域と関わる機会を生み出すことで、商店街に新しい役割も生まれている。

 熱風寮の取り組みからは、空き家を単なる「住むための場所」としてではなく、地域と新しい人をつなぐ場として活用する可能性が見えてきた。特に「空き家×学生」という組み合わせは、空き家問題と若者の地域参加・担い手不足という二つの課題を同時に考える一つの方法になり得る。

 また、活動が継続・拡大している背景には、地域に長期的に関わる人の存在や、地域住民・学生との信頼関係がある。だからこそ、この取り組みを他地域に広げたり、事例を参考にしたりする際には「学生寮」という形をそのまま移すのではなく、それぞれの地域が抱える課題や、そこに存在する人材・資源に合わせて空き家の使い方を考えることが重要だと考えられる。

 二つの事例を通して見えてきたのは、空きスペースの価値は、建物を再び使える状態にすることだけでなく、そこに新しい人や活動を呼び込み、地域との接点を生み出すことにもあるという点である。

 いとしまちカンパニーは移住者や事業者と商店街をつなぎ、熱風寮は学生と地域をつなぐことで、空き家・空き店舗を人と地域が関わるための「場」へと変えている。さらに、所有者・利用者・地域住民の間に立って関係をつなぐ存在があることで、その活用が単発の利用にとどまらず、地域との継続的な関係へと発展している。つまり、空き家問題を考える際には「何に使うか」だけでなく、「誰と誰をつなぐ場所にするか」という視点が重要になる。 ※本記事の内容は、2026年10月時点の情報です。


一年生能飛(福岡社会人)チームメンバー
森楽歩、牛島英利、林家和、劉詩穎

取材先
いとしまちカンパニー:https://itoshimachi.com
大堂良太氏(熱風寮):https://yoka-gotsu.co.jp/


本取材記事は、第9回日中未来創発フォーラムにおける「ソリューションジャーナリズムの実践」の成果として制作されました。日中の若者たちが混合チームを組み、社会課題の解決に挑む人々や現場を取材し、その成果をまとめたものです。
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