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笹川日中友好基金グループ

Solutions Journalism in Practice 001:

「息子には継げと言えない」産業を、誰が支えるのか。石川県の二つの挑戦

京論壇チーム


2026.11.04
11分

 「自分の息子にも、この業界を継げとは言えない」
 石川県加賀市の山中温泉地区。山中漆器の技術を教える研修施設で、長年ろくろを挽いてきた職人はそう語った。息子が幼い頃に同じ仕事をしたいと話した際も、「絶対やめてくれ」と伝えたという。

 職人として生計を立てるのは容易ではなく、自身も妻の収入に支えられながら仕事を続けてきた。それでも、目の前には全国から集まった研修生たちがいる。「自分らの子どもには勧められないものを、この子らは『やりたい』って言ってくれるところに、僕らもちゃんと向き合って、ろくろのことを教えてあげたい」と職人は話す。
 
 同じ石川県の能登半島・七尾市でも、創業85年の牡蠣養殖業者が熟練のむき子(牡蠣の殻をむく作業員)を失いつつある。家族や地域の限られた担い手に頼ってきた産業を、これから誰が、どのように支えていくのか。性格の異なる二つの現場を取材し、その手がかりを探った。

年齢も国籍も問わない「技術継承の学校」

 まず、私たちは山中温泉地区へ向かった。山中漆器を代表する挽物轆轤(ひきものろくろ)技術は、回転する木材に刃物を当て、椀や皿の形に削り出す技だ。刃の角度や力加減、木の状態を見極める判断には長年の経験がものを言う。しかし職人が使う刃物は市販されておらず、職人は自らの体格や作りたい器に合わせて道具づくりから手がけなければならない。こうした技術を、職人が一つひとつ家業を継ぐ子どもや弟子だけに伝えていくことには限界がある。

 そこで、血縁や出身地を問わず学びたい人に門戸を開いているのが、石川県立山中漆器産業技術センターだ。初心者向けの2年間の基礎コースと、技術を深める2年間の専門コースがあり、基礎コースの年間授業料は約20万円(材料費別途)。現役の職人や作家から直接指導を受けられる。一般的な大学や専門学校と比べて学費が抑えられているのは、県からの補助金があるためだという。

 研修生には地元出身で高校を出たばかりの10代もいれば、別の伝統工芸の職人を経験したことのある人、リタイア済みの人、海外から来た人もいる。経歴はさまざまだが、伝統工芸への情熱は共通している。

 山中での学びは、言葉にしにくい絶妙な感覚との格闘でもある。「ほとんどの職人さんが技術を感覚で伝えてきます。言語化してくれる先生もいるんですけど、聞いただけじゃ本当にわからないので」と研修生は話す。それでも繰り返し練習してコツをつかむと、「『こんなこと言ってたんだ』というのがやっとそこでわかる感じがします」。熟練者の仕事を間近で見ながら、失敗を重ねられる時間と場所。センターはその学びを個々の弟子入り任せにせず、教育の仕組みとして提供している。

学んでも、職人として食べていけるとは限らない

 ただし、学ぶ機会が整えば後継者問題が解決するわけではない。

 箱根の寄木細工の工房で約6年働いた後、ろくろづくりを学びに来た研修生は、卒業後に小田原で独立することを考えているという。「仕事の需要はあるんですが、それをこなせるかが心配です」。

 工房の場所や機械を自前で確保する必要があり、初期投資は小さくない。19歳の研修生も、好きなものづくりを仕事にしたいと望む一方で、それで生活していけるのかという不安を口にした。卒業後も山中にとどまりたいかと尋ねると、首を横に振った。

 指導にあたる職人たちも、この仕事は会社員のような安定した雇用や社会保障のない、厳しい道だと話す。センター自身も、材料費や道具代が高騰する一方、予算が物価上昇に追いついていないという課題を抱える。

むき子が減る作業場に、アプリで来た働き手

 七尾市の山口水産は、1941年創業の牡蠣養殖業者だ。水揚げされた殻付きの牡蠣をむく作業場では「お姉さま方」と呼ばれる熟練のむき子たちが、朝6時半から午後4時まで牡蠣をむき続ける。かつては、農閑期の冬場に近隣の住民へ働く場を提供する側だった。しかし今ではその関係が逆転し、むき子を積極的に募集しなければならなくなったという。

 むき子はこの20年で大きく減り、85歳になってもなお殻をむき続ける人もいる。2024年の能登半島地震も、離職や転居によるむき子減少に拍車をかけた。
 そこで同社が活用しているのが、スキマバイトアプリ「タイミー」だ。「こんな地域でもたくさんの人が応募してくれる」と作業者の一人は語る。近隣で定置網漁をする青年が、朝の漁を終えた時間を利用して働きに来るようになった例もある。まず単発で来てもらい、相性が良ければ直接雇用に切り替える──短時間・単発という入口が、継続的な雇用への足がかりになっている。

入口・継承・継続は別の課題だった

 二つの現場は、従来の担い手が減るなかで、新たな人が産業に関わる入口を広げようとしている点で共通する。だが、その手法と限界は対照的だ。

 産業の担い手を確保するには、少なくとも三つの段階がある。新たな人を迎え入れる「入口」、技術を身につける「継承」、そして仕事として続けられる「継続」だ。山中漆器のセンターは、入口と継承の役割を担っている。最長4年間、職人の仕事を間近で見ながら練習できる時間を用意したからだ。一方で課題となるのが、その先の継続だ。工房や機械をそろえ、職人として生計を立てるまでの道のりは研修生個人に委ねられ、簡単ではない。

 さらに、身につけた技術が山中に残るとは限らない。寄木細工の研修生は、ろくろの技術を小田原へ持ち帰ろうとしている。技術の継承と産地の継承もまた、別の課題であった。卒業生の独立を支える仕組みや、センターを維持する財源も問われている。

 山口水産のある旧中島町の人口は、2004年の七尾市合併時の約7,000人から約4,500人に減った。代表が生まれた1968年に160人いた同級生に対し、今の小学校の一学年はごくわずかだという。地域の担い手そのものが減り続けるなか、外から来た人を支える仕組みの重要性は増していく。

 一方、山口水産が担っているのは、入口と継続の役割だ。まずは単発の仕事で作業を試してもらい、本人と職場の相性が合えば直接雇用につなげる。働き始めるきっかけと、その後も働き続ける道筋を、一つの流れとしてつくっている。

「継ぐ人」を探すだけでなく、「継げる仕組み」を

 「継ぐ人のいない」産業の根底には、産業と担い手の力関係の変化がある。かつて地域に仕事を「与える」側だった牡蠣養殖は、今や働き手に「選ばれる」側にある。山中の漆器職人が自分の子どもに仕事を勧められなかったのも、それで暮らしていける保証がなかったからだ。「やりたい」人がいても、産業が生活を支えられなければ担い手は定着しない。

 今回取材した二つの現場は、家族や地域の外にも入口を開けることを示した。ただし、入口を開くだけでは足りない。山中漆器のセンターが担うのは入口と継承、山口水産が担うのは入口と継続で、どちらも三つの段階すべてを支えているわけではない。

 外から来た人を迎え入れ、技術を身につけてもらい、その仕事で暮らしていけるところまで支える。入口・継承・継続の三つをつなぐ仕組みの重要性は、担い手が減るほど増していく。産業の未来は、継ぐ人の覚悟だけでなく、その人を社会がどこまで支えられるかにかかっている。


京論壇チームメンバー
小早川莉奈、筒井麻美、中村文彬、ファスカインディゴ風、竹内颯汰

取材先
石川県立山中漆器産業技術センター、山口水産(石川県七尾市)

参考サイト
石川県立山中漆器産業技術センター
石川県挽物ひきもの轆轤ろくろ技術研修所
https://yamanaka696.org/

 能登かき 山口水産
https://notokaki-yamaguchisuisan.jp/

 


本取材記事は、第9回日中未来創発フォーラムにおける「ソリューションジャーナリズムの実践」の成果として制作されました。日中の若者たちが混合チームを組み、社会課題の解決に挑む人々や現場を取材し、その成果をまとめたものです。
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