新人流時代の共生社会モデル構築
2022年度事業
所属 | アジア・イスラム事業グループ |
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実施者 | 笹川平和財団 |
委託先名 | 北海道国際交流センター、鈴鹿国際交流協会、神戸定住外国人支援センター、人権ワーキンググループ(HRWG) 他 |
年数 | 5年継続事業の1年目 |
事業形態 | 自主事業 |
事業費(予算額) | ¥44,000,000 |
事業概要
定住型・還流型の人の移動が混在する新たな人流時代において、日本における官民の多様なアクターによる地域発の自助・共助のモデルを構築していきます。アジア域内における移民送り出し国・受入れ国の連携を促進し、自助・共助モデルを他地域に波及することで、外国人住民・労働者を包摂する共生社会づくりに寄与します。
具体的には、日本の受入れ地域における実態調査と自助・共助の仕組みづくり、移住労働者送り出し国における課題解決・協力関係構築、東・東南アジアのプラットフォーム強化・対話/政策提言を実施します。
具体的には、日本の受入れ地域における実態調査と自助・共助の仕組みづくり、移住労働者送り出し国における課題解決・協力関係構築、東・東南アジアのプラットフォーム強化・対話/政策提言を実施します。
担当者
森 ちぇろ
活動報告
公開フォーラム ~市民・フィリピン人グループ・在外フィリピン人委員会との対話~
2023年3月18日、笹川平和財団と名古屋国際センターが主催する公開フォーラムが名古屋市内で行われた。同財団アジア・イスラムグループは「包摂的な社会の実現」を重点分野に掲げ多岐に渡る事業を展開しており、外国人コミュニティ内の相互扶助強化を通じた保健医療、こどもの教育問題など在日外国人の諸問題解決を支援している。
「包摂的な社会の実現」に向けた取り組みの一つとして、在日フィリピン人を支援するグループ「架け橋」によるハンドブック『架け橋:日本で暮らす若者のガイド』制作がある。このハンドブックは、フィリピンにルーツを持つ若者の日本への適応を円滑にすることを目的に、日本語、英語、フィリピン語で製作され、フィリピン政府・在外フィリピン人委員会(Commission on Filipino Overseas: CFO)が実施している‘Migration Advocacy and Media Awards'の2021年ノンフィクション・ガイドブック部門において、最優秀図書に選定された(https://mamawards.cfo.gov.ph/cfo-to-honor-19-outstanding-advocates-and-media-works-on-migration/)。この度「架け橋」とCFOはハンドブックのエッセンスを抽出した動画を作成し、その完成に合わせ、日本を代表するフィリピン人集住エリアである名古屋市で公開フォーラムが開かれた。
フォーラムには在名古屋フィリピン総領事のセレステ・ビンソン-バラトラット氏、フィリピン研究者の高畑幸静岡県立大学教授、CFO(在外フィリピン人委員会)幹部など両国のキーパーソンが来場し、在日フィリピン人の現状や自助活動の近況を共有し、来場者と今後に向けて意見を交換した。
高畑氏は基調講演の中で、1990年代以降のフィリピン系住民の特徴を振り返った。エンターテイナーが増加し国際結婚が急増した2005年以前は全国に散住していたが、2010年以降は製造業に従事する日系人らが東海エリア、特に愛知県に集住する傾向が顕著であるとした。加えて、「これまでに記録された約18万件の日本人-フィリピン人国際結婚の内、約半数が離婚している。フィリピン移住者センター(Filipino Migrants Center/FMC、名古屋市)など相互扶助を目的とするコミュニティの存在感が増しており、今後も地域レベルでの共助がフィリピン系住民と日本人住民の共生に大きな役割を果たす」と指摘した。
「架け橋」代表の島田ビトゥイン氏も壇上に上がり、ガイドブック完成に至るまでの経緯を紹介するとともに、笹川平和財団やCFOをはじめとする関係団体や、個人史を語ってくれた若者たちなど多くの協力者への感謝を述べた。今後も増加が見込まれるフィリピンにルーツを持つ若者に対するサポートを継続するとした上で、より多くの人の参画、協力をお願いしたいと呼び掛けた。また、この度完成した動画が上映され、参加者は時折笑い声を挙げながら興味深そうに鑑賞していた。動画は以下のCFO YouTubeチャンネルで視聴できる。
英語:
https://www.youtube.com/playlist?list=PLfWmuk4e7tUDDZqjej70zzpgr5KLyip_B
フィリピノ語:
https://youtube.com/playlist?list=PLfWmuk4e7tUBCzW6ZgV_jAx_XSfJ6k_Im
日本語:
https://youtube.com/playlist?list=PLfWmuk4e7tUD_m4J5fE163vYOHFxykkjb
東海ヘルプライン代表の後藤美樹氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、登壇した各分野の専門家に対しフロアから次々に質問や意見が発せられた。特に、国際結婚と離婚の問題、それらに端を発するフィリピン女性が抱える困難については、熱を帯びたやり取りが展開された。
来場者から寄せられたフィリピン女性のメンタルヘルスへのサポートを求める意見に対し、ビンソン-バラトバット総領事は「CFOと協力して、オンラインのカウンセリング実施することも可能かもしれない。また、大使館、領事館はそれぞれに緊急時のホットラインを開設しているので、何かあればすぐに利用して欲しい」と応じた。CFOディレクターのロメオ・ロサス氏とマリア・デル・ロザリオ-アパタッド氏は「国際結婚については来日前にオリエンテーションを行うなど、対策は講じている。不幸にも夫婦関係が破綻するケースも多いが、離婚(婚姻無効)に向けた手続きをサポートしているので日本を去る前に声を上げて欲しい」と呼びかけた。
離婚後にフィリピン女性が抱える問題に関しPhilippine Society in Japanのネストール・プノ代表は「シングル向けの福祉サービスが利用できる。フィリピン政府から日本人との婚姻関係が無効である旨の書類を取り寄せれば、受けられる支援の選択肢が広がる」とした。安里和晃京都大学大学院文学研究科准教授は「公的支援を探す際は、フィリピン側だけでなく日本側にも目を向けて欲しい。コロナ禍で実施された給付金事業のように、日本で受けられる公的扶助の情報を正しく入手して欲しい」と述べた。
離婚が制度として認められていないフィリピンにおいては、婚姻無効による夫婦関係の解消が別離のための唯一の手段となるが、手続きが煩雑で時間がかかる上、弁護士等の専門家への依頼が不可欠なために多くの費用が必要となることが、当事者たちを苛んでいることが改めて浮き彫りとなった。厚労省によれば、2021年に日本人と結婚したフィリピン女性は1,780人で、国際結婚の10%強を占める。前述のとおり、今日までに日本人と結婚したフィリピン女性は18万人近くに上る。婚姻は一過性のものではなく、結婚が破綻したあとに生ずる問題もあれば、結婚生活が続く限りついて回る困難もある。加えて、国際結婚は夫婦だけの問題ではなく、フィリピンで暮らす家族、特に子どもと密接に関わる問題であることを鑑みれば、むしろ国際結婚・離婚をめぐる諸課題は以前にも増して切迫していると考えても差し支えないだろう。そうした緊張感は、フロアとパネリストとの間で交わされる真剣なコミュニケーションや、閉会後にもパネリストと情報交換しようと参加者が列を成す光景から窺い知ることが出来た。
解決されるべき課題は少なくないが、フィリピンコミュニティによる相互扶助の精度、強度が高まっていることも確かであり、今後に向けた明るい材料だと言える。フィリピンルーツの若者に手を差し伸べる「架け橋」に笹川平和財団やCFOが共鳴し、具体的なプログラムが出来上がったように、個別の志が有機的に繋がり支え合う事例は着実に増加している。フォーラムで交わされた未来志向のやり取りは、あらゆる人が共生する社会の実現が決して絵空事ではないことの証左である。
「包摂的な社会の実現」に向けた取り組みの一つとして、在日フィリピン人を支援するグループ「架け橋」によるハンドブック『架け橋:日本で暮らす若者のガイド』制作がある。このハンドブックは、フィリピンにルーツを持つ若者の日本への適応を円滑にすることを目的に、日本語、英語、フィリピン語で製作され、フィリピン政府・在外フィリピン人委員会(Commission on Filipino Overseas: CFO)が実施している‘Migration Advocacy and Media Awards'の2021年ノンフィクション・ガイドブック部門において、最優秀図書に選定された(https://mamawards.cfo.gov.ph/cfo-to-honor-19-outstanding-advocates-and-media-works-on-migration/)。この度「架け橋」とCFOはハンドブックのエッセンスを抽出した動画を作成し、その完成に合わせ、日本を代表するフィリピン人集住エリアである名古屋市で公開フォーラムが開かれた。
フォーラムには在名古屋フィリピン総領事のセレステ・ビンソン-バラトラット氏、フィリピン研究者の高畑幸静岡県立大学教授、CFO(在外フィリピン人委員会)幹部など両国のキーパーソンが来場し、在日フィリピン人の現状や自助活動の近況を共有し、来場者と今後に向けて意見を交換した。
高畑氏は基調講演の中で、1990年代以降のフィリピン系住民の特徴を振り返った。エンターテイナーが増加し国際結婚が急増した2005年以前は全国に散住していたが、2010年以降は製造業に従事する日系人らが東海エリア、特に愛知県に集住する傾向が顕著であるとした。加えて、「これまでに記録された約18万件の日本人-フィリピン人国際結婚の内、約半数が離婚している。フィリピン移住者センター(Filipino Migrants Center/FMC、名古屋市)など相互扶助を目的とするコミュニティの存在感が増しており、今後も地域レベルでの共助がフィリピン系住民と日本人住民の共生に大きな役割を果たす」と指摘した。
「架け橋」代表の島田ビトゥイン氏も壇上に上がり、ガイドブック完成に至るまでの経緯を紹介するとともに、笹川平和財団やCFOをはじめとする関係団体や、個人史を語ってくれた若者たちなど多くの協力者への感謝を述べた。今後も増加が見込まれるフィリピンにルーツを持つ若者に対するサポートを継続するとした上で、より多くの人の参画、協力をお願いしたいと呼び掛けた。また、この度完成した動画が上映され、参加者は時折笑い声を挙げながら興味深そうに鑑賞していた。動画は以下のCFO YouTubeチャンネルで視聴できる。
英語:
https://www.youtube.com/playlist?list=PLfWmuk4e7tUDDZqjej70zzpgr5KLyip_B
フィリピノ語:
https://youtube.com/playlist?list=PLfWmuk4e7tUBCzW6ZgV_jAx_XSfJ6k_Im
日本語:
https://youtube.com/playlist?list=PLfWmuk4e7tUD_m4J5fE163vYOHFxykkjb
東海ヘルプライン代表の後藤美樹氏がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、登壇した各分野の専門家に対しフロアから次々に質問や意見が発せられた。特に、国際結婚と離婚の問題、それらに端を発するフィリピン女性が抱える困難については、熱を帯びたやり取りが展開された。
来場者から寄せられたフィリピン女性のメンタルヘルスへのサポートを求める意見に対し、ビンソン-バラトバット総領事は「CFOと協力して、オンラインのカウンセリング実施することも可能かもしれない。また、大使館、領事館はそれぞれに緊急時のホットラインを開設しているので、何かあればすぐに利用して欲しい」と応じた。CFOディレクターのロメオ・ロサス氏とマリア・デル・ロザリオ-アパタッド氏は「国際結婚については来日前にオリエンテーションを行うなど、対策は講じている。不幸にも夫婦関係が破綻するケースも多いが、離婚(婚姻無効)に向けた手続きをサポートしているので日本を去る前に声を上げて欲しい」と呼びかけた。
離婚後にフィリピン女性が抱える問題に関しPhilippine Society in Japanのネストール・プノ代表は「シングル向けの福祉サービスが利用できる。フィリピン政府から日本人との婚姻関係が無効である旨の書類を取り寄せれば、受けられる支援の選択肢が広がる」とした。安里和晃京都大学大学院文学研究科准教授は「公的支援を探す際は、フィリピン側だけでなく日本側にも目を向けて欲しい。コロナ禍で実施された給付金事業のように、日本で受けられる公的扶助の情報を正しく入手して欲しい」と述べた。
離婚が制度として認められていないフィリピンにおいては、婚姻無効による夫婦関係の解消が別離のための唯一の手段となるが、手続きが煩雑で時間がかかる上、弁護士等の専門家への依頼が不可欠なために多くの費用が必要となることが、当事者たちを苛んでいることが改めて浮き彫りとなった。厚労省によれば、2021年に日本人と結婚したフィリピン女性は1,780人で、国際結婚の10%強を占める。前述のとおり、今日までに日本人と結婚したフィリピン女性は18万人近くに上る。婚姻は一過性のものではなく、結婚が破綻したあとに生ずる問題もあれば、結婚生活が続く限りついて回る困難もある。加えて、国際結婚は夫婦だけの問題ではなく、フィリピンで暮らす家族、特に子どもと密接に関わる問題であることを鑑みれば、むしろ国際結婚・離婚をめぐる諸課題は以前にも増して切迫していると考えても差し支えないだろう。そうした緊張感は、フロアとパネリストとの間で交わされる真剣なコミュニケーションや、閉会後にもパネリストと情報交換しようと参加者が列を成す光景から窺い知ることが出来た。
解決されるべき課題は少なくないが、フィリピンコミュニティによる相互扶助の精度、強度が高まっていることも確かであり、今後に向けた明るい材料だと言える。フィリピンルーツの若者に手を差し伸べる「架け橋」に笹川平和財団やCFOが共鳴し、具体的なプログラムが出来上がったように、個別の志が有機的に繋がり支え合う事例は着実に増加している。フォーラムで交わされた未来志向のやり取りは、あらゆる人が共生する社会の実現が決して絵空事ではないことの証左である。
加藤友裕