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第430号(2018.07.05 発行)

日本の魚食の将来 ~魚離れをめぐって~

[KEYWORDS]一人当たり魚介類消費量/魚食文化/漁業構造改革
大東文化大学経済学部教授◆山下東子

2000年代初めまで世界一の魚食国だった日本で、急速な魚離れが起きている。
となると、何とかしなければならないと反射的に考えてしまうものだ。
しかし限りある天然資源、減少する国内生産、増加する世界需要、浸透する和食という内外の事情を勘案すれば、日本の内需はひとまず下げ止まるまで見守り、その間に国内漁業の諸課題を解決していくという道も見えてくる。

魚離れの要因は複合的

一人当たり年間魚介類消費量のピークは1988年の72.5kgだったが、2016年には45.6kgにまで減少した。とくに2002年からの14年間は年率2.7%のペースで減少している。なぜ減少したのかを見ていこう。以下では価格面、供給面、代替財、および嗜好について検討するが、いずれも単独では説明がつかず、要因は複合的である。
第1に価格が上がれば需要は減る、はずである。ところが価格の下落局面でさえも需要は減っていた。家計調査から魚介類の購入単価を見てみると、2001年から2008年まで鮮魚の100g当たり購入単価は154円から139円へと下落し、その後上昇して2016年には170円になった。前半の消費減は価格では説明できないのである。
第2は供給量の減少である。国内生産量は1994年の1,261万トンをピークとして減少し、直近の2017年には430万トンになっている。食用魚介類の自給率(重量ベース)はこの間57~60%の間を行き来しており、消費量の4割は安定的に輸入魚介類で賄われてきた。ただし、世界的な需要増のため、2006年ごろから日本が国際市場において予想に反して「買い負け」る現象が起きており、輸入環境は悪化しつつある。
第3は、代替財へのシフト、つまり魚介類の代わりに肉類の消費を増やしていることである。図に見るように、牛肉の消費は2001年のBSE、その後の輸入規制の影響もあって増えていない。魚介類と鶏肉の消費量の相関係数は−0.92と高く、魚介類は安価な鶏肉に代替されたと言える。しかし、肉と魚を合わせた消費量合計が2001年の111.5㎏から2016年の93.5㎏へと18㎏も減っており、蛋白質の摂取量そのものが減少しているのである。これには高齢化の影響もある。
第4は嗜好の変化である。水産白書(平成28年度)では、子どもの頃と比べて魚介類を食べる量が増えたかどうかの調査結果を紹介している。「減った」(38.2%)という人は「増えた」(29.6%)という人を上回る。減った理由の上位には、「価格の上昇」「品質が悪化」と並んで「調理が面倒」「ごみ処理が困難」「調理時の臭いや煙」が挙げられている。これは好き嫌いというよりライフスタイルの変化に起因する「調理問題」である。

■肉と魚の年間一人当たり消費量
注:正確には国内供給量であるが、供給=需要と捉え、消費と表記する
(出所:農林水産省「食糧需給表」)

魚食普及対策

一人当たり消費量が低下していることに人口減少が追い打ちをかけ、日本の漁業は価格低迷・市場縮小という困難に直面している。このトレンドを是正しようと動いているのが水産庁と全国漁業協同組合連合会などの組織である。たとえば水産庁が2012年から開始した魚食普及のための取り組みに「ファーストフィッシュ」がある。簡単に調理できる食品や器具をメーカーの提案に基づき水産庁がリストアップしたところ、2017年末時点ですでに3千件を超えた。上記の「調理問題」に直接働きかける取り組みだが、魚介類消費量を反転上昇させるには至っていない。
学校での食育も漁協などが取り組んでいる。しかし学校給食への魚介類の使用には実にさまざまな制約がある。たとえば焼き魚の切り身を同一サイズに揃えられるか、骨があると事故の原因になりがち、予算は限られ、メニューは1カ月以上前に決まる。もちろん生食は提供できない。
魚食普及対策をしたからといって、代替財シフトや人口構造など、手の打ちようのないこともある。しかも、価格が下がっても需要が増えないことは経験済みである。漁獲量の低迷、担い手の不足、漁業者と船の高齢化、漁業所得の低下など、産業の課題が山積している。

発想の転換も必要

表は2004年と2013年の一人当たり年間魚介類消費量の国際比較である。日本は2004年までの32年間世界一であったが、2013年では7位に後退した。消費を反転上昇させる決め手が見つからない以上、下げ止まりを待つしかないだろう。仮に現在の鶏肉消費量と同量の18.3㎏にまで下がると仮定すると、粗重量に換算して34.0㎏となる。今のトレンドで魚離れが進むなら、2026年にこの数量に達する。そのとき日本の総消費量は414万トンとなり、現在の生産水準(424万トン)が維持できれば自給率は100%を超える。
魚離れが引き起こす問題として考えられるのはさしあたり健康問題、産業の疲弊、魚食文化の崩壊である。どれくらいの量の魚を食べると健康に良いのかは水産白書(平成24年度)のコラムで紹介されている。EPA・DHAを厚生労働省の目標である1日1g摂取するために必要な魚介類の目安は、サンマの塩焼きなら0.4尾である。年換算するとおおよそ22㎏となり、消費量が半減してもなお健康に良い計算である。
産業の縮小は水産業に携わる者にとっては深刻な問題である。しかし、生産量が低下したのは資源の減少や採算性の悪化という供給要因による面もある。担い手不足を逆手に取り、少人数でも採算の取れる漁業構造へ改革をする時期に来ており、水産庁は6月1日に水産政策の改革を発表した。また、輸出にも期待できる。輸出金額は2001年の1,352億円から2016年の2,640億円へと倍増している。これには世界的な水産物需要の高まりと、日本産というブランド力の2つの要素が働いている。先進国はもちろんのこと、食の多様化が進んだ熱帯域の人々も高緯度地域の魚に食指を伸ばしている。ここに日本産の魚介類が注目される理由がある。というのは、内需の停滞で価格が下がり、「日本産なのに意外に安い」アキサケや小型のサバ、すしネタ用のブリが輸出されるようになっている。もちろんホタテ貝は農林水産物最大の輸出品目である。
魚食文化は維持できるのか。2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録され、その文化的価値は権威ある国際機関のお墨付きを得た。農林水産省によると、海外の日本食レストランの数は2006年の2.4万店から2017年には11.8万店に増えている。魚食を含む和食文化は今や世界の人々によって支持されている。
表に示したように、日本以外の国・地域の多くで一人当たり消費量は増えている。世界平均もこの間5㎏増えた。一方、世界の漁獲量(天然)は1994年以来9千万トン台で頭打ちになっており、世界需要の増加分はかろうじて養殖生産量の増加によって賄われている。今後も人口は増加し続け、水産物需要もこれに応じて増加する。日本の魚離れとは真逆の事態が世界で進行している。魚離れが進む今こそ、輸入が困難になる時代に備えて日本の水域での水産資源を持続的・戦略的に利用できるよう、漁業構造を改革していく好機と捉えられるのではないだろうか。(了)

■年間一人当たり魚介類消費量
注:人口100万人以上の国・地域を抜粋。2004年は2003-2005年平均
(出所:FAO, Food Balance Sheet of Fish and Fishery Products、各年)

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