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核の恫喝、使用の危機、軍備管理の停滞 今こそ現実的な議論を

新著「壊れる核抑止 核兵器運用のリアル」刊行

笹川平和財団 岡田美月


2026.10.16
7分
対談インタビューに応じる笹川平和財団の兼原信克常務理事(左)と福田潤一主任研究員=13日、東京都内(岡田美月撮影)

対談インタビューに応じる笹川平和財団の兼原信克常務理事(左)と福田潤一主任研究員=13日、東京都内(岡田美月撮影)

 笹川平和財団の兼原信克常務理事と福田潤一主任研究員(日米・安全保障研究ユニット)が共同で編集と執筆にあたった新著「壊れる核抑止 核兵器運用のリアル」が9月末に刊行されました。兼原常務と福田主任研究員はインタビューに応じ、新著で核兵器の運用政策を取り上げた狙いについて語りました。主なやり取りは次の通りです。(聞き手 笹川平和財団 岡田美月)
――核兵器を巡る問題への関心が高まっています。高市早苗首相は10月14日の衆院予算委員会で、年末に改定する安全保障3文書における非核三原則のうち「持ち込ませず」の記載を巡り、緊急時の例外を認める政府見解について「検討の余地がある」と述べました。核を巡る国際環境をどうみていますか
福田 「核兵器を取り巻く国際環境は激変している状況にあります。大国間競争が激化し、各国で核軍拡が進み、ウクライナの戦場ではロシアによる核の恫喝が行われ、核使用の可能性が現実味を帯びています。例えばロシアは戦術核をベラルーシに配備して頻繁に周辺で演習を実施しています。さらに、軍備管理の機能不全が起こっています。米露の新戦略兵器削減条約(新START)の後継条約は生まれず、その後継条約に中国を巻き込みたい米国などの努力も失敗しています。核兵器不拡散条約(NPT)の運用検討会議の成果文書採択に3回連続で失敗し、イランの核開発など核拡散の流れも見られます。その中で、核兵器を通じた抑止が現実に壊れる可能性を想定しなければならなくなりました。従来なら、核兵器は使わせてはいけないとの考えが全てでした。ところが、現在は実際に使われる可能性があるかもしれず、それを抑止するためにはどんな状況で相手が使ってくるのか、こちらはどんな運用政策を備えていかなければならないかを考えなくてはいけない時代にあると思います。世界的な軍備管理の停滞という厳しい現状も踏まえると、核抑止の前提条件は壊れかねない局面だと言えるわけですね」
――核軍備を競い合った米ソ冷戦期と比べ、核兵器を巡る国際情勢はどう変わりましたか
兼原 「冷戦期は欧州における戦略核の打ち合いが起きれば米露、欧州各地で甚大な被害が出るとの恐れが関係国の念頭にあり、米ソがぶつかれば〝第三次世界大戦〟に直結するとの考えのもとで冷たい平和が成り立っていました。一方、今何が起きているかというと、ロシアがウクライナを侵略していますが、周辺国を巻き込む大戦には発展していません。ロシアと北大西洋条約機構(NATO)諸国は互いに戦略核の打ち合いとなれば、自国を含むすべての関係国が大きな犠牲を払うことになると理解しているからです。結果として、プーチン露大統領は戦略核の打ち合い未満なら何をやっても良いという発想に至り、戦術核による脅しに出てきたという姿を我々は目の当たりにしています」
――台湾有事を念頭に、日本や同盟国、同志国にとってどんな教訓が得られるでしょうか?
兼原 「台湾を巡って米国と中国が戦略核を打ち合うような戦いを繰り広げることなどないということが教訓ではないでしょうか。そうなると中国の習近平国家主席がプーチン氏と同様に核の恫喝に出るかもしれません。台湾有事では特に海空戦が想定され、米軍は圧倒的な強さがあります。中国は海空戦で負けそうになったときに習氏が日本政府に対して戦術核で脅すこともあり得ます。日本はその恫喝にどう対応するかこれまで考えたことがないわけです。1945年の広島、長崎への原爆投下や、その後の米国による水爆実験で犠牲となった第五福竜丸事件も重なり、日本では長年、核を巡る議論を忌避する傾向が根強くありました。しかし、半世紀以上が経ち、国際情勢は大きく変化しています。抑止力の根幹は火力をどう並べるかです。火力とは、通常戦力、戦術核、戦略核を指しますが、日本の議論では戦術核、戦略核の部分がごっそり抜け落ちています。これは世界でも極めて珍しい状況です。現実的な議論を避けては通れない時代に来ていると思います」
――確かに日本では核兵器の議論は長年タブーとされてきました
福田 「従来のタブーを一番乗り越えやすいのは、トラック2と呼ばれる民間レベルの議論から始めることだと思います。最近は民間レベルであったとしても、核抑止を含めた高度な知見が国際的にも議論されるようになっています。米国や英国などでは、官だけが握っていってるような機密情報に基づく議論ばかりではなく、公開情報を基にした高度な議論が行われているのが現状です。今の段階で我々の議論や提案が政府に受け入れられなかったとしても、言い続けることによって国際環境に対する認識や世論が変わり、政府の動きも段々変わっていくということはこれまでも起こってきたことです。核の問題にしてもそうかもしれません。今回、問題提起をさせていただいたということで、我々自身が果たせる役割があるのではないかというふうに思っています」
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公益財団法人笹川平和財団
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