Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第545号(2023.04.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆2007年に制定された海洋基本法は、おおむね5年ごとの海洋基本計画の策定を求めており、すでに第1期から第3期までの海洋基本計画が策定され、わが国の海洋政策推進の基盤になっている。
◆阪口秀(公財)笹川平和財団海洋政策研究所所長には、現在準備が進められている第4期海洋基本計画に向けて実施された「我が国における最近の海洋政策に関するアンケート調査―『第4期海洋基本計画』策定を念頭に―」の結果から見えてきた課題と今後の展望について論じてもらった。海洋政策に関心のある355名の協力をいただいたこの調査の結果につき、9名の有識者に対するヒアリング調査が実施された。そこでは、内閣府に総合海洋政策推進事務局を設置した理由である、海洋政策の統合性の確保が十分になされていないとの指摘が行われたとのことである。海洋立国である日本の国際的なリーダーシップが失われるつつある現在、阪口所長のリーダーシップの下、民間の立場からの海洋政策研究所の貢献に期待したい。
◆同じく日本が南極ガバナンスでリーダーシップを発揮することへの期待を示す論稿を柴田明穂神戸大学教授・極域協力研究センター(PCRC)センター長からいただいた。2026年に南極条約協議国会議(ATCM)が30年ぶりに日本で開催される。ATCM や南極海洋生物資源保存条約(CCAMLR)では全会一致制が採用されていることもあり、十分説得的でない理由によってCCAMLRの下での海洋保護区の設定に執拗に反対する中国やロシアによって必要な規制ができない状況が続いている。これら両国を先頭に南極海洋生物資源や鉱物資源への開発圧力が高まる中で、国際社会における法の支配のための日本の貢献が求められる。
◆人類が放出したCO2の一部は海洋に吸収され、地球温暖化の抑制機構となっているが、同時にそれにより海洋酸性化が生じている。和田茂樹筑波大学下田臨海実験センター助教から、伊豆諸島の式根島にある海底からCO2ガスが噴出する海域「CO2シープ」の調査につき説明をいただいた。高CO2環境下の海底に広がる微細藻類のマット状コロニーが海底面に貧酸素環境を形成し、微細藻類以外の付着生物の加入を防ぐため、サンゴと大型の海藻が消失し、それらを生息場とするベントス(底生生物)や魚類の種数の減少を引き起こし、生物多様性の損失につながるという。海洋生態系の保全のためには、海洋酸性化の進行に対する対策が必要だと論ずる。ぜひご一読を。(坂元茂樹)

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