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オーシャンニュースレター

第539号(2023.01.20発行)

大阪公立大学の海洋に関する研究体制

[KEYWORDS]大学統合/研究科横断型組織/持続可能社会の実現
大阪公立大学大学院現代システム科学研究科教授◆大塚耕司

2022年4月、大阪市立大学と大阪府立大学が統合し、日本で最大の公立の総合大学、大阪公立大学が誕生した。
大阪公立大学には、教授8名、准教授8名の海洋関連研究者が、海からの視点で持続可能な社会の実現に向けて教育・研究に携わっている。

大阪公立大学の概要

2022年4月1日、大阪市立大学(以下市大)と大阪府立大学(以下府大)が統合し、大阪公立大学(Osaka Metropolitan University、OMU)が誕生した。学部学生入学定員は約2,900人で、大阪大学、東京大学に次ぐ国公立大学第3位、学生総数は約16,000人で、公立の総合大学としては最大規模である。図に示すように、学士課程は、現代システム科学域、文学部、法学部、経済学部、商学部、理学部、工学部、農学部、獣医学部、医学部、看護学部、生活科学部の、1学域、11学部で構成されており、大学院は、学士課程に連結する12の研究科に、医学部の一部と連結するリハビリテーション学研究科、独立研究科である都市経営研究科と情報学研究科が加わり、15研究科で構成されている。

■図 大阪公立大学の学士課程の構成

海洋関連研究体制

表に大阪公立大学の海洋関連研究体制を示す。海洋システム工学分野、都市学分野(ともに工学研究科)、環境共生科学分野(現代システム科学研究科)内に、合計8研究グループがある。これらの研究グループは、中百舌鳥キャンパスにある曳航水槽(写真)、杉本キャンパスにある大型二次元水槽等、複数の大型実験施設を所有するとともに、水質・底質の分析や培養実験等が可能な生態環境分析室を所有している。2027年4月には、これらの機能をまとめた新実験棟が中百舌鳥キャンパスに建設される計画となっており、同時に、すべての研究グループが中百舌鳥で共同して教育・研究に携わる環境が整う予定となっている。既に、さまざまな研究グループが、大阪湾内の現地調査や水質調査など、互いの長所を活かした共同研究を行っている。

海洋関連研究内容

中百舌鳥キャンパスの曳航水槽(長さ×幅×深さ=70m×3m×1.5m)大阪公立大学 https://www.omu.ac.jp/

海洋システム工学分野では、5つの研究グループをベースにして分野の垣根を超えたバーチャル研究所を複数設置し、環境と調和した海洋の新しい利用方法に関する工学技術の研究を行っている。例えば「養殖場高度化推進研究センター」では、タンパク源の確保という点で今後ますます重要となる養殖場をターゲットに、養殖場の機械化、自動化、情報化を狙った小回りの利く自動航行船や自動給餌システムの開発、水質センシングとシミュレーションの結合による海域環境予測技術の開発等を行っている。また「計算科学研究所」では、シミュレータとAIとが連携しながら最適解を探索する“次世代型デジタルツイン”システムを構築することを目指し、その適用事例として超高速物理シミュレーションとAI解析を連携させ、匠の造船技術を再現する板曲げ自動化システムの構築を進めている。さらに「海洋科学技術センター」では、次世代燃料・グリーン&スマートシップ構想を掲げ、GHG(温室効果ガス)削減に向けた次世代船舶燃料の評価・可能性に関する調査研究、次世代グリーン高速船舶のコンセプト設計、次世代自動運航スマートシップの開発等を進めている。
一方、都市学分野の環境水域工学グループでは、大阪湾流域の淡水域から大阪湾全域でモニタリングを実施し、ブルーカーボン像の実態把握や、造成された浅海域生態系サービスの評価、環境統計データに基づく大阪湾の環境診断と将来像予測などに取り組むとともに、「豊かな海の再生」と「気候変動の緩和」を視座として、沿岸域における物理・化学・生物過程をモデル化し、諸要因が複雑に絡み合うことによって発現する諸現象のメカニズムの解明と諸施策の効果の予測・評価を目指している。また河海工学グループでは、内湾沿岸、特に、河口域・港湾海域を対象とした環境修復技術の開発に資する基礎研究・実用化研究を行うとともに、近い将来にその発生が懸念される巨大津波や高潮・洪水氾濫への対応策の検討、リアルタイム気象予測や気候変動に伴う極端気象の長期的予測の不確実性についての研究等を行っている。
さらに環境共生科学分野の海洋環境学グループでは、大阪湾のような閉鎖性内湾において大きな問題となっている「栄養塩の偏在」に着目し、栄養過多の海域で大量発生する緑藻類などの海産バイオマスをメタン発酵処理し、バイオガスを燃料として、発酵残渣を栄養不足の海域への肥料としてそれぞれ有効利用するシステムの開発を行うとともに、情報技術を活かした流通システムの開発、若年層の魚食離れを解消するための啓発活動など、次世代の漁村コミュニティの創出を目指した文理融合型研究等を行っている。

今後の教育研究の方向性

2015年に開催されたCOP21でパリ協定が採択されて以降、世界各国でカーボンニュートラルが宣言されるようになり、わが国も2020年にその仲間入りを果たした。カーボンニュートラルは持続可能社会の実現に不可欠な一つのゴールであるが、いうまでもなくSDGs(Sustainable Development Goals)のいずれのゴールに対しても大学が果たすべき役割は大きく、公立大学最大の知の拠点となった大阪公立大学の責任は重い。
海洋の教育研究は、SDG13(気候変動)やSDG14(海の豊かさ)だけではなく、SDG2(食糧資源)、SDG4(教育)、SDG6(水資源)、SDG7(再生可能エネルギー)など多くのゴールに密接に関わっている。大阪公立大学の海洋関連研究体制は、教授8名、准教授8名で決して大きな組織とはいえないが、大学全体のSDGsへの貢献に対しては重要な役割を担っていると考えている。今後ますます持続可能社会の実現に貢献できる教育研究が重要視されることは間違いない。2027年に整備される新しい実験施設の活用も含め、8研究グループの結束を強め、さらに力強く持続可能社会の実現に貢献できる教育研究を進めていきたい。(了)

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