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海洋・沿岸域における気候変動への適応

吉岡 渚
笹川平和財団海洋政策研究所 (OPRI) では、OPRIの研究員を中心に海洋に係る国内外のさまざま動きを分析し発信する、海の論考「OPRI Perspectives」を発行しております。

第23号は笹川平和財団海洋政策研究所の吉岡渚氏による論考「海洋・沿岸域における気候変動への適応」です。
【要旨】
地球表面の7割を占める海洋は、地球全体に蓄積された熱エネルギーの殆どを吸収するなど、気候システムの安定化において重要な役割を果たしている。しかし近年、気候変動の影響により海洋環境は温暖化、貧酸素化などの変化に直面し、かつてない危機的な状態へと移行していることが科学的に明らかとなりつつある。気候変動に関わる政府間パネル(IPCC)が2019年に公表した「海洋雪氷圏特別報告書」によると、過去50年、海洋は世界全体で温暖化していることがほぼ確実であり、1990年代前半以降はそれ以前と比べ約2倍の速さで温暖化が進行している。海洋の温暖化とそれに伴う環境変化は今世紀にわたって引き続き進行していくと予測されており、台風の甚大化や、高潮などの沿岸災害のリスクが増大していくことが懸念される。暮らしが海洋と密接に関係する沿岸域の人々は気候変動の影響に脆弱な立場に置かれており、適応策は喫緊の課題となっている。四方を海に囲まれ、長い海岸線と多数の離島を擁する日本も例外ではない。 ところが、気候変動の影響は複数の分野に跨るため、海洋と沿岸域の気候変動適応の検討には多様なセクターが関わっている。そのためか、日本の海洋政策における気候変動適応についても、各分野の担当府庁が個別に推進しており、情報が分散している。こうした現況を鑑みると、海洋と沿岸域における気候変動適応の考え方について包括的な視点で整理することは有益であろう。しかし、国際的にも整理・分類が十分には進んでいないのが現状であり、国内でも明確な整理はされていない。そこで本稿は、海洋と沿岸域に焦点を当てた気候変動適応を概観するとともに、日本における海洋・沿岸域の気候変動適応の現況について解説し、今後の国内政策の方向性について提案する。

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