Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第531号(2022.09.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆一の丑(今年は7月23日)の日にうなぎを食べる習慣は日本人に根付いている。栄養価の高いうなぎは暑い日本にピッタリの食材で昔から食べられており、万葉集に「石麻呂に吾物申す夏痩せによしと云ふ物ぞうなぎ取り召せ」(大伴家持)の和歌があるとのこと。もっともこの時代は白焼きであったと想像される。われわれが好むニホンウナギは、現在、絶滅危惧種レッドリストに指定されているようである。
◆Yu-Lin Eda Chang(国研)海洋研究開発機構アプリケーションラボ気候変動予測応用グループ副主任研究員からウナギの生態研究の最前線に関する論文をご寄稿いただいた。2010年以降、ニホンウナギの年間回遊漁獲量は、1960年代のそれと比較すると90%も減少しているという。太平洋のウナギの産卵が日本から離れた西マリアナ海嶺の南端で行われることは判明したが、Changさんらのグループの研究は、大西洋のウナギの産卵場所について大西洋中央海嶺ではないかとの新たな説を提唱されている由。詳しくは本誌で。
◆海洋に突然現れる巨大波「フリーク波」の研究で知られ、1988年にアメリカ気象学会のスベルドラップ・ゴールドメダル賞を受賞された光易恒九州大学名誉教授から、海洋波の研究を発展させた先人たちの研究をご紹介いただいた。1995年に第15回京都賞を受賞したW.H.ムンク博士は、光易教授が「天才」と称するように海洋波と潮汐、海洋大循環の力学の解明を行ったし、その後に続くW.J.ピアソン、ロンゲット・ヒギンズ、Miles-Phillipsの風波発生理論で知られるO.M.フィリップス、2021年に眞鍋淑郎博士とともにノーベル物理学賞を得たクラウス・ハッセルマン教授の海洋波の研究が紹介されている。次世代の研究者への期待が込められた論考である。
◆プロセーラーで日本ヨットマッチレース協会会長を務める伊藝徳雄氏からは海の環境を守るためのセーラーの立場からのご提言をいただいた。身近な環境を守ることが地球環境を守ることにつながるとの考えのもとで展開されている「クリーンレガッタ」プログラムの実施など素晴らしい活動が紹介されている。伊藝さんの「世界とは遠い国や違う言葉を話す人々のことでなく、自分自身と手に届く身近な人々から始まり、繋がって、そこから世界へと拡がっていることを決して忘れてはならない」との言葉や、「環境問題など、大人が作ってしまった負の遺産を次の世代に何とかしてもらうことほど無責任なことはない」との言葉から、多くの学びを得た。ぜひご一読を。(坂元茂樹)

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