Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】最新号

第516号(2022.2.5 発行)

日本各地に漂着する軽石を追う

[KEYWORDS] 軽石/海流予測/リモートセンシング
(国研)海洋研究開発機構付加価値情報創生部門アプリケーションラボ主任研究員◆美山 透

小笠原諸島の海底火山である福徳岡ノ場から大量に噴出した軽石は沖縄・奄美諸島を中心に日本の沿岸に漂着し、大きな社会問題になっている。(国研)海洋研究開発機構で海流予測の研究をしている筆者が、軽石の漂流予測計算を担当して軽石の行方を追っている。

福徳岡ノ場の海底火山からの軽石の影響

2021年8月13日、沖縄から約1,400km離れた小笠原諸島の福徳岡ノ場の海底火山(図1★印)が、明治以降の日本列島における噴火の中では最大級の噴火を起こし、大量の軽石を発生させた。その軽石は西に漂流し、2カ月後の10月中旬までに沖縄県の沖縄本島周辺の島々や鹿児島県奄美諸島に達した。その後、伊豆諸島を中心に関東各県、静岡県にも漂着が確認されている。
沖縄県によれば、軽石を原因とする漁船のエンジントラブルは140隻に及び、軽石が原因で出漁自粛している漁船は全体の34.1%である1,030隻となった(2021年12月1日現在)。養殖魚のエラに軽石が詰まり大量死するなどの被害も伝えられている。

軽石漂流シミュレーション

(国研)海洋研究開発機構(JAMSTEC)の付加価値情報創生部門アプリケーションラボでは、普段から海流予測を行っている。その海流計算を利用して、10月中旬に沖縄・鹿児島諸島で軽石が問題になり始めたのをきっかけに、どのように福徳岡ノ場から軽石が到達したかを計算した※1。海流だけで流されるという単純なシナリオを考えた場合でも、10月中旬に沖縄・鹿児島諸島に達することを確かめることができた(図1(a))。さらに、11月30日まで予測を伸ばし、関東付近まで軽石が漂着する可能性があることを予測した(図1(b))。伊豆諸島を中心に関東周辺への漂着はその後に現実になっている。
沖縄・鹿児島諸島から遠く離れた海底火山の軽石が漂着したのは、図1(b)の矢印で示したような海流が背景にある。黒潮は日本沿岸を流れた後、太平洋にそそぎ、太平洋を時計回りに大回りした場合はフィリピン東方付近で黒潮に戻ってくるが、日本近くで回って沖縄付近で黒潮に戻ってくる循環もある。この時計回りの循環を黒潮再循環流と言い、黒潮に戻ってくる流れを黒潮反流と呼ぶ。福徳岡ノ場はこの黒潮反流の中に位置しており、噴出した軽石が沖縄周辺に漂着するのはある意味必然である。
現在の考慮すべき特異的な状況として、黒潮が大蛇行状態にあることが挙げられる※2。そのため、黒潮が紀伊半島付近などでは離れているが、関東・東海の沿岸に近づいている。これが沖縄・鹿児島諸島に漂着した後、他の地方を飛び越えて、伊豆諸島を中心に漂着した理由である。海洋モデルの予測はこの状況をおおよそ再現できていたと言える。
上記の予測計算は、軽石漂流の状況をおおよそ捉えていたとはいえ、軽石問題が深刻となるなか、より精緻な予測計算が必要となってきた。しかし、福徳岡ノ場から漂流計算を始めて数ヶ月先までの漂流経路を正確に再現することは困難である。そこで(国研)宇宙航空研究機構(JAXA)と協力し、JAXAが人工衛星で発見した軽石位置※3から漂流計算を行うことで、現実に近づけた漂流計算を行った。図2はその例で、2021年11月4日にJAXAが高知沖で発見した軽石が、11月下旬に伊豆諸島に漂着することを予測している。図1のシミュレーションでは単純な海流のみによる漂流計算だったが、軽石の海面から突き出た部分が風で吹き流される効果も考慮するために、風の影響が無い場合(黒点)、風の影響がある程度有る場合(青点)、風の影響が強い場合(赤点)の3つのシナリオで計算している。加えて、計算期間は2週間強だけになるものの、図1で使用したものよりも分解能が高く(約9km水平メッシュの分解能から3kmに)、潮の満ち引きも考慮した海洋予測モデルを使用している。
予測計算はJAMSTECのサイトで公開※4しており、定期的に更新しているので今後の参考とされたい。沖縄周辺にある軽石は当分残りつつ、一部は黒潮に乗ってさらに黒潮の周辺に広がるという予測になっている。
予測よりも先は推測になるが、軽石はばらばらになって砂のようになって浮力を失うまでは漂流し続けるため、図1の海流に乗って漂流し続けることになると考えられる。現在は軽石の分布が黒潮流域の東シナ海と太平洋にとどまっているが、過去の例から見て今後は対馬暖流(図1(b)の点線)に乗って、日本海沿岸にも軽石漂着が広がる可能性がある。広い範囲に広がることで密度は薄くなるから、現在の沖縄・鹿児島ほどの濃密な漂着ではないにしろ、広い範囲で数カ月、あるいはそれ以上長く軽石の漂流の影響が出る可能性がある。

図1 8月14日に福徳岡ノ場(★)の周囲100kmに軽石を模した粒子(青点)を配置して、後の分布を計算した結果。(a)10月15日。(b)11月30日。(a)の図には福徳岡ノ場から北上する軽石もあるが、観測されておらず、大まかな初期設定によるものと考えられる。(b)の矢印は模式的に示した海流。
図2 a)2021年11月4日にJAXAが人工衛星で発見した軽石の位置。b)その後を計算した11月21日の軽石分布。黒点:風の影響が無し(海流のみで漂流)、青点:風の影響がある程度有り(海流+風速の0.5%で吹き流される)、赤点:風の影響が強く有り(海流+風速の1%)の3シナリオで計算。

今後の課題

軽石の漂流問題は執筆段階でまだ現在進行中の問題だが、現段階で得られている海洋学的な教訓と課題を述べてみたい。
まず、いざという時に海洋研究が役立つということである。JAMSTECでは軽石の漂流シミュレーションを始める前から海洋予測は行っており、軽石の漂流予測を始める時にはすぐに海流データを利用することができた。また、海洋プラスチックの漂流の計算は以前から行っており、その経験を応用することができた。JAXAが行っている人工衛星からの軽石位置判定も、以前は利用できなかった人工衛星を応用した例であるが、海洋予測に人工衛星のデータを取り入れる際にJAXAと共同開発をしていたことから軽石シミュレーションでもすぐに協力関係を築くことができた。
一方で課題は、今回の対応は必ずしも早くなかったということである。漂流予測は沖縄・鹿児島で軽石の漂着が深刻化してから始めたものである。沖縄・鹿児島でこれだけの影響が出るという問題意識があれば、予測やモニタリングによる注意喚起を行える技術は十分にあった。しかし、沖縄・鹿児島に関しては備えが無い中で影響が広がることになった。火山国の日本では同様のことが十分に起こりうるのであるから、経験を将来に活かすべきであろう。
また、さらなる技術のブレークスルーが必要である。図2のようにして伊豆諸島周辺に漂着したというのは、現実に対応しておりもっともらしいが、観測で確かめられているのは、高知沖での人工衛星による観測と、伊豆諸島周辺に出現したということだけであり、実際がどうだったかはわからない。点と点をつなぐというシミュレーションの強みが発揮された例とも言えるが、リモートセンシングで観測ができる技術の発展も必要である。観測による検証がなければ、予測計算の向上も望めない。より高分解能の人工衛星データの利用や、データからAIでの判別などのブレークスルーが望まれる。新しい技術は海洋プラスチックの実態把握など他の海洋における汚染や漂流問題にも役立つに違いない。(了)

  1. ※1(国研)海洋研究開発機構、福徳岡ノ場の噴火と海流による影響について、http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20211028/
  2. ※2美山透著「黒潮大蛇行とその影響」Ocean Newsletter448号(2019.4.5)
  3. ※3JAXA、衛星「しきさい」(GCOM-C)等による軽石観測情報、https://earth.jaxa.jp/karuishi/
  4. ※4(国研)海洋研究開発機構、福徳岡ノ場の噴火と海流による影響について(最新シミュレーション)、http://www.jamstec.go.jp/j/jamstec_news/20211116/
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