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【Ocean Newsletter】バックナンバー

第507号(2021.9.20 発行)

世界の海上保安機関の拡大と連携の現状

[KEYWORDS]コーストガード/法の支配/世界海上保安機関長官級会合
前海上保安庁長官◆岩並秀一

近年、沿岸国の管轄海域の拡大、様々な海洋環境の変動等を背景として海上保安機関(コーストガード機関)の拡大、普遍化が進展している。
各海上保安機関の設立経緯や組織形態は多様であるが、機関名称等の標準化も見られる。
国境を越える海上の脅威や海上における大規模災害の懸念が拡がるなかで、海上保安機関の一層の連携・協力が望まれる。

海上保安機関の拡大とその背景

海洋は沿岸国にとって国境であるとともに、国際物流の大半を占める輸送路であり、魚類、エネルギー、鉱物等の海洋資源の宝庫であり、レジャーを始めとする様々な活動の場でもある。それ故に、海上の安全、治安の確保や海洋環境の保全を図ることは、沿岸国のみならず地域や国際社会の平和、安定、発展の基盤である。かつて、これらの任務は、各国において海軍、国境警備機関、警察機関等、様々な既存の実働機関により実施されることが多かったが、近年、海上の安全、治安および環境保護といった海上保安業務を総合的に、あるいはその特定分野を専任的に実施する海上保安機関(コーストガード機関)を設置する国が急速に増大している。また、このような海上保安業務が英語で「Coast Guard Functions」と呼ばれることも多くなっている。
このように、近年において海上保安機関が拡大、普遍化してきた背景としては、
①国連海洋法条約による沿岸国の管轄権の広範な海域への拡大
②経済活動の拡大、グローバル化に伴う海上活動の活発化
③海上テロ、海賊、大規模事故といった海上の安全・治安上の課題の拡大
④海上の領域や権益を巡る国家間紛争や対立の多発
等といった要因が考えられる。実際、国連海洋法条約の検討が始まった1970年代以降海上保安機関の設立が目立ちだし、米国同時多発テロの発生、海賊、薬物密輸、密漁等の海上犯罪の拡大、海上難民の急増、海上における大規模災害の発生等、海上の安全・治安情勢が大きく変動した2000年以降その動きが加速している。2010年以降もコモロ連合、ジブチ、スリランカ、中国、インドネシア、ケニア等で、新規に、あるいは組織改編により海上保安機関が設置され、既存の海上保安機関も各国においてその体制強化が進められている。また、移民・難民問題等を抱える欧州連合(EU)は、2016年に、欧州対外国境管理協力機関(FRONTEX)の権限を強化・拡大して欧州国境沿岸警備機関(European Border and Coast Guard Agency)に改組し、2021年1月よりEUとしての初の実働部隊となる欧州国境沿岸警備隊(European Border and Coast Guard standing corps)を創設した。

海上保安機関の多様性と標準化

第2回世界海上保安機関長官級会合集合写真

このようなコーストガード制度の歴史は海軍と比べれば比較的浅く、その発展形態、組織形態も国によって様々である。2019(令和元)年11月、東京において海上保安庁と日本財団の共催の下に開催された第2回となる「世界海上保安機関長官級会合(Coast Guard Global Summit)」には世界75カ国84機関から海上保安業務を任務とする機関が参加したが、その組織形態を見ると、海上保安業務を専任とする独立の機関のほか、軍事機関、国境警備機関、治安機関、警察機関本体が海上保安業務を兼務するもの、その傘下機関が海上保安業務を専任するもの、あるいは、海上保安業務に関して国内関係機関を調整するもの等多様である(下記参考資料参照)。軍事機関傘下の海上保安機関等は軍事機能を併せ持つものもある。
また、その発展形態も新規に海上保安機関を立ち上げたもの、既存の実働組織を海上保安機関に改組したもの、既存組織の一部に海上保安業務を専任させることとしたもの、調整機関を実働の海上保安機関に改組したもの等、組織形態と同様に多様である。世界的に見れば、海上保安制度(コーストガード制度)は未だ変化の過程にあると言える。
一方、海上保安機関の名称や船体塗装の標準化が進んでいる。独立の実働機関であれ、他の主要任務を有する機関傘下の実働機関であれ、海上保安業務を専任的に実施する機関が自らの組織名称を英語でコーストガードと名乗ることが多くなっている。また、各国の海上保安機関が保有する船舶の多くが船体前部に斜めの塗色(ストライプ)を入れている。これらの外形的標準化は国際的規則等で定められたものではなく、海上保安機関の普遍化とともに自然に定着してきたものである。また、外形的標準化に留まらず、警告措置、停船措置といった海上法執行手法についても徐々に標準化が見られる。

(写真上段左から)アルゼンチン沿岸警備隊、ジブチのコーストガード(出典:JICA「ODA見える化サイト」)、
インド沿岸警備隊、イタリア沿岸警備隊、米国沿岸警備隊、海上保安庁

海上保安機関の連携と今後の課題

このような海上保安機関の拡大に伴って、各地域レベルにおける海上保安機関間の連携が進展している。日本は海上保安庁と日本財団が連携して海上保安機関の多国間連携を主導的に進めてきており、2000年から「北太平洋海上保安フォーラム」、2004年から「アジア海上保安機関長官級会合」(2000年に開催した「海賊対策国際会議」が前身)を開催し、2017年からは「世界海上保安機関長官級会合」を開催してきた。これを追うように、現在、「黒海沿岸国国境╱海上保安機関協力フォーラム」「北大西洋海上保安フォーラム」「欧州海上保安機能フォーラム」「地中海海上保安機能フォーラム」「北極海海上保安フォーラム」といった海上保安機関の多国間会合が各地域において開催されている。国際組織犯罪、海賊、テロ等の犯罪の拡大、難民の流入、違法操業といった海上における様々な国境を越える脅威の拡大や、近年の海上活動の活発化、気候変動といった環境変化に伴う海上における大規模災害の懸念など、世界が直面する課題に対応していくためには、地域の枠組みを越えて世界の海上保安機関の連携や対話を強化することがますます重要になってきている。また、領海のみならず公海において、国内法および国際法に従って海上法執行活動を行うコーストガード機関間の連携・協力は、海上における法の支配に基づく地域や世界の平和・安定の強固な基盤となるものである。もっとも、海上保安機関の連携は途についたばかりであり、歴史も浅い。情報の共有手段、発足間もない海上保安機関に対する能力向上支援、海上保安業務に関する人材育成等、今後の課題も多い。これらの課題への取組みも含めて、今後、海上保安機関間の連携・協力が地域レベルのみならず、世界海上保安機関長官級会合等を通じて、世界レベルで一層進展することが望まれる。(了)

  1. 古谷健太郎著「世界海上保安機関長官級会合の開催 ~世界的な海洋秩序の維持へ向けて~」本誌第416号を参照ください。https://www.spf.org/opri/newsletter/416_2.html
  2. 参考資料:「世界の海上保安機関の現状に関する調査研究報告書」、公益財団法人海上保安協会(2021(令和3)年3月)、URL: https://www.jcga.or.jp/project/research.html
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