Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第501号(2021.06.20発行)

編集後記

日本海洋政策学会会長◆坂元茂樹

◆2020年12月、小惑星探査機「はやぶさ2」が、地球近傍の小惑星「リュウグウ」へ着陸し、採取したサンプルを持ち帰った快挙は記憶に新しい。近年、隕石などの地球圏外物質から、太陽系天体の構造やその起源と進化を研究する比較惑星学の研究が進んでいる。地球はなぜ「地球」となったのかという地球環境の特異性を探る学問でもある。他方で、地球の深海を掘削して得られる海底堆積物のコア(柱状試料)から地球に生じた変化を読み解こうという「国際深海科学掘削計画」が2013年から2023年まで22ヵ国が参加して行われている。
◆益田晴恵大阪市立大学大学院理学研究科教授から、地球の声を「採り」「聴き」「探し」「読み」「診て」をめざすこうした地球掘削科学についてご説明いただいた。「地球の記録媒体」としてのコアは、白亜紀末期の約7,000 万年前に遡る詳細な気候変動パターンを復元できるという。2020年に公表された「The2050 Science Framework」の4つの研究の柱の内容は本誌に譲るとして、この計画が将来の気候変動予測のための全球気候システムモデルの構築や検証へ貢献することを期待したい。
◆鈴村昌弘(国研)産業技術総合研究所上級主任研究員から、海洋生態系を支える「光合成」の反応に欠かせない元素であるリンの枯渇問題についてご寄稿いただいた。気候変動に伴う海水温の上昇は深層から表層へのリンや窒素の栄養塩供給を抑制し、海洋酸性化はphに敏感な有機態リン分解酵素の活性に影響を及ぼすとのこと。世界的に水産資源への依存度が高まる中、現在われわれが直面している海洋危機が海洋のリン枯渇という深刻な問題に発展する可能性をもつと警鐘を鳴らす。
◆IUU(違法・無報告・無規制)漁業に関してはすでに本誌第452号と第465号で取り上げているが、藤井巌(公財)笹川平和財団海洋政策研究所研究員から地域漁業管理機関(RFMO)によるIUU 漁業対策とその課題についてご寄稿いただいた。違法・無報告漁業による漁獲は最大2,600万トンに達するとの推定もある。近年不漁が続くサンマについては国民的関心も高いが、日本が加盟している北太平洋漁業委員会(NPFC)では、中国や台湾を含む周辺国との漁獲量の調整や資源管理強化に当たっているが、IUU 漁業による漁獲量は公式のデータに反映されないため資源管理上深刻な問題を生じさせている。こうしたIUU 漁業の解決には、RFMOにおける監視・管理・取締能力強化が喫緊の課題であるとの藤井氏の主張に異論を唱える者はいないであろう。(坂元茂樹)

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