Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第491号(2021.01.20発行)

編集後記

同志社大学法学部教授◆坂元茂樹

◆船舶の解体は労働コストなどの観点から主に途上国で実施されているが、これらの国での労働災害や環境汚染が国際問題化した。そこで安全・環境に配慮した国際的な船舶リサイクル制度を定めたシップリサイクル条約(2009年)が国際海事機関(IMO)で採択された。日本は、船舶所有者の国際競争力を確保し、リサイクルの際の労働災害及び環境汚染の防止に貢献する「船舶の再資源解体の適正な実施に関する法律」を2018年6月20日に公布し、2019年3月27日に同条約を批准した。
◆山元建夫(一財)日本海事協会船舶管理システム部主管から、シップリサイクル条約と同条約の上乗せ規制を行うEU規則についてご説明いただいた。有害廃棄物の越境移動を規制するバーセル条約では、解体現場まで自力で航行する船舶は廃棄物とみなせないので適用できず新たな条約の締結が必要であったことや、新たに搭載が禁止される物質を追加したEU 規則が2020年12月31日以降にEU 加盟国の港に寄港する非EU 籍船にも適用される指摘など大いに教えられた。
◆小林康宏(一社)日本水中ドローン協会代表理事からは、日本の水産業におけるIoT活用による省力化とコスト削減による生産性向上のツールとして注目される水中ドローンについてご紹介いただいた。紹介されている定置網の点検や水難救助の際の潜水士に先行しての捜索や海底構築物の調査などの活用事例は、水中ドローンの特性を生かした分野であることがよくわかる。同協会は、2019年に水中ドローンの安全な運用技能と知識の修得を目指す「水中ドローン安全潜航操縦士認定講習」をスタートさせ、200名以上がライセンスを取得したとのこと、さらなる発展を期待したい。
◆岸上伸啓(共)人間文化研究機構理事から、カナダ先住民のハイダ人とイヌイット人の疫病との闘いについてご紹介いただいた。ハイダ人については、19世紀後半、米国発の船舶の乗客からもたらされた天然痘により、カナダ北西海岸全域の約30,000人の約60%が死亡し、各地で無人化や廃村化が生じ、当時とられていた同化政策も手伝いハイダ人の文化や社会の復興に100年近くの年月を要したこと、20世紀半ばカナダ極北地域で結核が蔓延し、ある島のイヌイット約130人のうち約50人(約38%)が結核であったこと、2010年代でもイヌイットの結核発症率は非先住民の290倍以上であることが紹介されている。2020年6月、バチェレ国連人権高等弁務官は国連人権理事会に先住民族のCOVID-19による死亡リスクが高いことを報告したが、現代においても状況に変化がないことがわかる。(坂元茂樹)

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