Ocean Newsletter

【Ocean Newsletter】最新号

第491号(2021.1.20 発行)

シップリサイクル条約とEU規則

[KEYWORDS]シップリサイクル条約/バーゼル条約/EU規則
(一財)日本海事協会船舶管理システム部主管◆山元建夫

船舶の解体・リサイクルの現場には安全衛生問題や有害物質による環境汚染問題があるが、有害廃棄物の越境移動を規制するバーゼル条約を船舶に適用することが困難であることから解決のための法整備が求められてきた。これらの問題を解決するために採択されたシップリサイクル条約とその早期発効を促すことを目的に制定されたEU規則について紹介したい。

シップリサイクル条約の背景

船舶の解体・リサイクルは、先進国では人件費が高いこと、リサイクル物資の市場価値が低いこと等から産業として成立しにくいため、その多くがバングラデシュ、インド等で行われている。これら地域における労働者の安全衛生問題および環境汚染問題が深刻化し、国際機関でこの問題が議論されるようになった。主要船舶解体国であるバングラデシュ、インド等における船舶解体は、船を砂浜に乗り上げさせ、干潮時に多数の作業者がガス等で船体を切断し、人力で回収物を運搬する「ビーチング方式」と呼ばれる方法で行われている。クレーン等の大型設備がほとんど使用されておらず、安全規制も整備されていないことから、解体・リサイクル現場は、死傷事故が多発する危険な状況となっていた。一方、船舶は、ほとんどが良質な鉄鋼材料で構成されているため、基本的に有効なリサイクル資源であるものの、現在解体されている船舶は20年以上前に建造されたものが主であるため、現在は使用されていないアスベスト、ポリ塩化ビフェニル(PCB)等の有害物質が使用されている可能性がある。解体する際に十分な対策をとらなければ、作業者の健康と周辺地域の環境に重大な影響を及ぼす可能性がある。
さらに、船舶は、その生涯において、製造者、所有者、運航者、解体者等、多数の関係者が多国間にわたって存在し、かつ、長期間使用されることから廃棄・リサイクルに関する法規制の整備が難しい。従来から、廃棄物の越境移動を規制する「バーゼル条約」の船舶への適用が議論されていたが、解体現場まで自力で航行する船舶をどの時点で廃棄物とみなすのか等、根本的な部分において各国政府・関係者の解釈が一致せず、その適用が難しいことが指摘されていた。
これらの問題を解決するため、2009年5月に、香港で開催された国際海事機関(IMO)の外交会議において「2009年の船舶の安全かつ環境上適正な再生利用のための香港国際条約」が採択された。これが、いわゆる「シップリサイクル条約」である。

条約の発効要件と現在の批准国

シップリサイクル条約は、①15カ国以上が締結し、②それらの国の商船船腹量の合計が世界の商船船量の40%以上となり、かつ、③それらの国の直近10年における最大の年間解体船腹量の合計がそれらの国の商船船腹量合計の3%以上となる国が締結した日の24カ月後に効力を生じることとなっている。2020年10月時点の批准国は、15カ国であり、世界の30%以上の船舶を解撤する「世界最大の船舶リサイクル国」であるインドが、2019年末に同条約を批准したことは世界に大きな影響を与え、近い将来条約が発効する可能性が高まっている。

シップリサイクルに関するEU規則の背景

2013年12月30日に、船舶の解体・リサイクルについて新しい法的枠組みを導入する「シップリサイクルに関するEU 規則」(以下「EU規則」)が発効した。これまで、EUは、バーゼル条約の1995年改正(通称BAN改正)に沿った「廃棄物の輸送に関するEU 規則(Regulation (EC) No 1013/2006)」によって、EU籍船を、解体・リサイクルのためにOECD加盟国以外の国に輸出することを禁止してきた。しかし、廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約の法的枠組みを船舶に適用することが困難であることが欧州において認識され、また、2009年に、シップリサイクル条約がIMOで採択されたことを背景に、欧州委員会(EC)は、2012年3月に、EU 議会および理事会に対して規則改正案を提出し、それらによる審議および採択を経て、EU 規則が2013年12月に発効した。EUの法規制は、「規則(Regulation)」と「指令(Directive)」に大別される。指令が、EU 加盟国の国内法に置き換えられて初めて効力を持つものであり、加盟国間において規制の内容に差異が生ずる場合があるのに対し、規則は、EU加盟国の法令を統一するために制定されるものであり、国内法に優先して加盟国に一律に要件が課されるものである。
また、EU規則は、シップリサイクル条約をそのまま取り入れている部分が多いものの、一部について、同条約を上回る要件(上乗せ規制)が課されている。これは、通常のIMO条約において各国に特別要件が認められているのと同様である。さらに、インベントリ(船舶に存在する有害物質等の概算量と場所を記載した一覧表)に関する要件は、EU籍船だけではなく、EU加盟国に寄港する非EU籍船にも課される。すなわち、EU規則は、シップリサイクル条約の発効に先駆けてEU 加盟国に「上乗せ規制のあるシップリサイクル条約」を一律に課すものである。

IHMの対象に追加された2物質の概要

EU規則では、シップリサイクル条約に対し、搭載が禁止・制限される物質(ANNEX I)にPFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)が追加され、有害物質インベントリ(IHM)に記載すべき物質(ANNEX II)にHBCDD(ヘキサブロモシクロドデカン)が追加されている。
別表のように、PFOSおよびHBCDDはすでにストックホルム条約および国内の「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)」で禁止されているため、EU規則の適用後に新船に使用される可能性は低い。PFOSは、非EU籍船には適用除外であること、また、HBCDDは、現存船に関して義務ではないことから、これまでに作成したIHMについて、EU籍船の場合、PFOSの調査が必須になるものの、非EU籍の場合、シップリサイクル条約に適合したIHMであれば、特別な調査等を必要とせず、そのままEU規則に適合すると判断される。

シップリサイクル条約の早期発効を促すことを目的に制定されたEU規則は、非EU 籍船であっても、2020年12月31日以降にEU 加盟国に寄港する船舶にはIHMの備え置きが要求される。すなわち、実質的なシップリサイクル条約がいよいよ始まったこととなる。これを契機に各国の条約批准が促され、ひいては船舶解体国における労働者の安全衛生問題や環境汚染問題の解決に繋がることが期待される。(了)

  1. 正式名称は「REGULATION (EU) No 1257/2013 OF THE EUROPEAN PARLIAMENT AND OF THE COUNCIL of 20 November 2013 on ship recycling and amending Regulation (EC) No 1013/2006 and Directive 2009/16/EC」
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