Ocean Newsletter

オーシャンニューズレター

第485号(2020.10.20発行)

森里海が織りなす佐渡島の新たな地域創生型自然共生科学拠点

[KEYWORDS]生物多様性/国際海洋教育/佐渡モデル
新潟大学佐渡自然共生科学センター海洋領域/臨海実験所 海洋領域長・教授◆安東宏徳

豊かな自然に恵まれ、自然と人間が密接な関わりを持つ佐渡島に地域創生型自然共生科学拠点「佐渡自然共生科学センター」が設立された。
センターは森林・里山・海洋の3領域からなり、佐渡島の森里海生態系を活用した総合的な生態系の理解と保全を目指した教育研究を展開し、自然と人間が共生する社会の実現に貢献する「佐渡モデル」構築を目指していく。

森里海をつなぐ生態系と新潟大学佐渡自然共生科学センターの設立

佐渡臨海実験所

佐渡島は、手つかずの自然や多様な海岸環境・里山が残された生物多様性・環境保全の島である。近年にはサドガエルやサドナデシコナマコなどの佐渡固有種が記載されるとともに、希少種や絶滅危惧種も多く生息している。そして、森里海がコンパクトにまとまっているため、河川でつながる森里海生態系の構造とその機能を、1つの地理的範囲の中で総合的に教育研究する場として利用できる唯一のフィールドと言える。
佐渡島にはこれまで、新潟大学の3つのフィールド教育研究施設(農学部附属フィールド科学教育研究センター佐渡ステーション(演習林)、朱鷺・自然再生学研究センター、理学部附属臨海実験所)があった。2019年にそれらが統合されて、地域創生型自然共生科学拠点「佐渡自然共生科学センター」が設立された。新センターは森林・里山・海洋の3領域からなり、これまでのそれぞれの施設の実績を基盤として相互に連携し、佐渡島の森里海生態系を活用した総合的な生態系の理解と保全を目指した教育研究を展開していく。
森林領域の演習林では、森林生態学、島嶼生態学を中心にした研究を進めている。里山領域では、トキが餌場にしている里地里山における生物多様性の解明と生態系の復元管理手法についての研究、また、自然と人間が共生していくための地域社会システムの実践的研究を進めている。
海洋領域/ 臨海実験所では、年間を通して20mの透明度を誇る美しい海と岩礁帯や砂浜などの多様な海岸環境を持つ佐渡島沿岸域において、海洋生物の多様性とその成り立ちについての研究を進めている。臨海実験所には4名の教員が在籍し、魚類や棘皮動物、海産無脊椎動物を対象にして、適応生理生態学、水圏生態学、進化発生学、分類学の研究を進めている。

人材育成:森里海の連携学実習と国際海洋生物教育

稲田での生物調査とサドガエル(下腹部の黄色が特徴のひとつ) シュノーケリングによる磯採集

佐渡自然共生科学センターでは、佐渡島の豊かな自然環境を活かした教育、研究、地域貢献、国際連携を進めている。中でも教育面では、演習林と臨海実験所は文部科学省教育関係共同利用拠点に認定され、新潟大学の学生のみならず国内外の大学から学生と教員を受入れて、それぞれ森林生態学実習、臨海実習を行っている。年間の学外利用者延べ人数は、それぞれ約800名、約1,600名である。両施設ともに年間約30の実習を実施しており、その中にはセンターの3施設の教員が連携した森里海の連携学に関する複数の実習がある。
臨海実験所で実施している公開臨海実習4コースの1つの「森里海をつなぐ野外生態学実習」では、5泊6日の合宿型実習の中で参加者は3 施設をまわり、スギ天然林や牛の林間放牧の観察、棚田跡地を利用した自然再生現場での生態調査、河川や磯での生物採集などを行う。トキやサドガエルの観察も含めて、森里川海が近接した佐渡島ならではの総合型フィールド実践教育プログラムを受けることができる。
臨海実験所では、国際海洋教育活動としてアジア圏を中心に海外の大学から学生と教員を受入れて国際臨海実習「International Marine Biology Course(IMBC)」を実施している。2019年は、海外9大学、国内8大学から学生教員合わせて37名の参加を受けて「IMBC2019:美しい日本海に浮かぶ佐渡島でアジア圏の学生たちが海の生物多様性を学ぶ」を実施した。本実習は、(国研)科学技術振興機構さくらサイエンスプランの支援を受けて、アジア圏からの参加者には渡航、宿泊に係る経費の全額を補助した。IMBC2019では、自然や海洋環境が異なる様々な国や地域からの参加者が集まり、海洋生物の多様性と海洋環境についての理解を深めると共に、文化や生活などの異なる者同士で交流を深めることができた。臨海実験所で実施してきた国際臨海実習の海外からの参加延べ人数は、2015年15名、2016年41名、2017年170名、2018年162名、2019年202名と年々増加している。2020年は残念ながら、COVID-19感染拡大のため中止せざるを得なかった。

自然と共生する社会の実現に向けて ─ 「佐渡モデル」の発信

地球規模の自然環境の汚染や劣化が大きな問題となる中で、森里海のつながりを理解し、その知見を基に質の高い生物多様性を確保し、豊かな生物資源を持続的に維持していくことは今後ますます重要になってくる。自然と共生する世界の実現は、国際社会の大きな目標である。佐渡島は、豊かな自然を有しているだけでなく、過疎や少子高齢化、第一次産業の担い手不足などの地方都市が抱える様々な問題に直面している。一方で、佐渡は世界農業遺産や日本ジオパークに認定されており、さらに、佐渡金銀山の世界遺産登録に向けた全島的な活動を進める中で、環境保全に関する地域住民の意識も高い。このような佐渡の置かれた自然環境や社会状況の中で、地域住民と協働しながら自然と人間との関係について文理融合型の多角的な研究を推進していくことで、地域住民、ひいては人間が今後どのような暮らしをしていけばよいのかという課題に対する「佐渡モデル」を提示することができる。そして、そのモデルを日本全国、さらには世界でも役立つものとして検証し、情報発信していきたいと考えている。(了)

  1. 新潟大学佐渡自然共生科学センター https://www.sices.niigata-u.ac.jp/

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