Ocean Newsletter

オーシャンニュースレター

第485号(2020.10.20発行)

大海洋諸国の台頭

[KEYWORDS]持続可能な開発/小島嶼開発途上国(SIDS)/国連海洋法条約
DeepGreen Metals主任海洋科学者◆Greg STONE
駐日トンガ王国大使◆T. Suka MANGISI

小さな島々で国土が形成される小島嶼開発途上国は、地球温暖化や自然災害の被害を受けやすく、人口の少なさや遠隔地であることも手伝って持続可能な開発が困難となってきた。
いま、海は貴重な鉱物資源の宝庫として注目されているが、国土の大半を広大な排他的経済水域が占める大海洋諸国にとって、海洋資源の開発が公平で持続可能な形で進むことを期待する。

持続可能な開発のための国連海洋科学の10年

科学者たちは、生命は海から生まれたと信じています。現在、海洋はこの惑星の血流の役目を担い、海水はグローバルに移動し、南北に、そして寒暖の流れとなって、栄養素を混合し、太陽のエネルギーを食物に変えながら、あらゆる生命にとって快適な気候を保ってくれています。
「国連海洋科学の10年」開始の前年となる今年は、全人類にとっての海洋の中心的重要性と、国土の大半を海洋が占めている巨大海洋国家が伝統を守り、経済、社会、環境で暮らす広大な伝統的知恵を持っていることを世に知らしめるのに相応しい年です。
地球上のあらゆる陸地を我が物顔で占領し使い続けてきた人類は、その注意を海洋に向け直し、私たちの将来の機会の多くを慎重に正しい方向に導いていかなければなりません。この深遠なパラダイムシフトの意味するところは、海洋の管理と監督が人類の歴史において今ほど重要な時はないということです。私たち文明社会の大部分において、人類は欲するがままに海洋から多くのものを取り尽くし、そして不要になったものは海洋をその捨て場所にしています。野生の魚類資源の多くは枯渇しており、2050年までには魚の量よりプラスチックのほうが多くなるかもしれません。それでも、陸地の開発と比べると、海洋の開発は1世紀遅れています。陸上で犯した過ちが海中でも繰り返されることを懸念する人はたくさんいます。しかし、私たちは、陸地の搾取から学んだことを教訓に、膨大な海洋資源にますます目を向けて第4次産業革命の到来を告げるという機会があると信じています。

大海洋国家としての小島嶼開発途上国 – 国連海洋法条約と豊かな海を守ろう

人類の運命は海と密接に結びついており、海の広大な地域を管轄している「小さな」国々は、かつては世界の舞台に影響力を与えてきませんでしたが、今やその勢力に目覚めています。アンティグア・バーブーダ、フィジー、キリバス、ジャマイカ、ナウル、ツバルなどの国は、ターコイズブルーの海、白い砂浜、生き生きとしたサンゴ礁で知られています。しかし、国民の生活は思い描くものからかけ離れています。
1992年、国連は38カ国を小島嶼開発途上国(SIDS)として正式に認定しました。これら諸国は、限られた資源、遠隔地、自然災害の感受性、国際貿易と援助への過度の依存、脆弱な環境など、類似した課題を共有しているからです。富める国と貧しい国の間の経済格差と闘うため、そして私たちの海洋を搾取から守るために、国際社会は、最も重要な国際協定である国連海洋法条約(UNCLOS)を採択しました。この「海の憲法」のおかげで、小さな島々は大いに潤いました。UNCLOSは、すべての沿岸国が低潮時の領海基線から公海まで200海里に広がる海域を所有していると規定して、島国は現在、国境をあらゆる方向に広げることができ、たとえ小さい国であっても、広大な領土を生み出しています。たとえば、キリバス共和国には33の島があり、それら島の面積の合計は無人島を含めて811km2ですが、新しいEEZによって、主権領土を4,320%増やし、350万km2以上に拡大しました。これは地球上の大きな足跡です。

持続可能な開発と深海底鉱物資源開発の予防的諸活動

ISA第25回セッションのトンガ代表団、左から4番目がMANGISI 氏(筆者)

海洋の約61%は、どの国にも属さないゾーンです。「公海」と呼ばれるこの区域は、地球上のすべての人が所有者です。この概念の法的定義を確かなものにするために、UNCLOSは「人類共同の財産」を実用的な中心テーマに据えることを採用しました。海は貴重な鉱物資源の宝庫であり、これらの財産はすべての人に帰属します。この革新的な考え方は、この地域で生み出された経済的価値をすべての人類、特に南半球の小島嶼開発途上国で分かち合えるように設計されています。
この原理は古くから知られていますが、今日では現実的な意味合いを持ちます。海洋鉱物の洋上回収は今日では技術的に可能ですし、世界銀行によると、これらの鉱物の需要は、社会が化石燃料から再生可能エネルギーおよび電力輸送に移行するにつれて、2050年までに500%増えると言われています。陸地から採掘する鉱物を資源とすることは環境破壊を招き、多くの太平洋共同体に環境劣化と多様な生物の生息地の喪失という負の遺産をもたらし、幅広い鉱物サプライチェーンにおいて児童労働の問題が起きることは言うまでもありません。さらに、長年の鉱山採掘による鉱石の低品位化は無視できず、かと言ってより深く掘り続けることはできません。そこで、海底に堆積している手付かずのポリメタリックノジュール(多金属団塊)が代替品となり得るのであり、その採取による悪影響を減らし慎重な開発をする国として、海と共に生きる小島嶼開発途上国が最適なのです。
歴史上初めて、主要な採取産業は持続可能な計画をし、政治力や資本力に従わず、利益は原則として公平に分配されます。私たちが将来を見据え、海に目を向けるようになると、基本的な機会を最も必要としている国々は、巨大海洋国家の台頭と共通遺産の原則の実施を通じて、より良い機会を持つことになります。パンデミックとそれに続くヴァーチャル環境での交渉のペースの鈍化の結果として、国際海底機関(ISA)とその加盟国は、2021年にマイニング・コードを完成させる可能性があります。これが成文化されるまでは鉱石採取に取り掛かることはできません。3年間の厳格な調査の結果となる、鉱業免許の授与に必須な「環境への影響宣言」が承認された後になります。各アプリケーションはメリットに基づいて評価されます。活動が「深刻な害」を引き起こす可能性があると思われる場合、採掘は行われません。
これらすべてを考慮すると、多金属団塊の採取は2023年になると考えられます。いったん合意すれば、これは国連が監督する最初の採取産業であり、100を超える低中所得国が共有する通貨基金の設立につながります。これが予見可能な将来への唯一の可能性のある産業化の機会であると考え、太平洋諸国はこのプロセスに非常に積極的に参加しており、正しいやり方で、陸地での採掘の過去の遺産が繰り返されないことを保証することにコミットしています。
小島嶼開発途上国にとって、海洋資源の責任ある開発は、経済を多様化させる千載一遇のチャンスとなり、自国の決定で発展の筋道を立てることが可能になります。気候変動の影響が深まるにつれ、これは避けられなくなっています。可能な限り最も公平で持続可能な方法で進むことを保証するのは私たちの責任です。その結果、私たちの共同の財産の恩恵がこれから何世代にもわたってすべての市民にもたらされるでしょう。(了)

ポリメタリックノジュール(多金属団塊)のTOML社の探査許可エリア

  1. 本稿での記載は筆者の見解であり、必ずしもトンガ王国政府の見解ではありません。
    本稿はAltaSeaに掲載された英文(https://altasea.org/opinion-the-rise-of-the-giant-ocean-states/)をもとに作成されました。

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