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オーシャンニュースレター

第468号(2020.02.05発行)

海洋境界の争いは解決できるか

[KEYWORDS]海洋境界/国連海洋法条約/紛争の平和的解決
同志社大学教授◆坂元茂樹

日中、日韓における海洋境界の争いは解決のめどが立たない重要な政治問題となっている。
中国との間では尖閣諸島が、韓国との間では竹島の領有をめぐる紛争が背景となっているが、これらが解決なされないと、海洋境界画定の基点が決まらないので境界画定の合意に至ることができない。
海洋境界画定紛争を力ではなく国際法に基づいて平和的に解決するためには、直接交渉や国際調停など第三者の紛争解決機関に委ねる道を模索すべきである。

なぜ海洋境界の争いが起こるのか

地上の国境であればともかく、海は世界に広がりつながっている。それなのに、国の間で海洋境界についてなぜ争いが起きるのか不思議だと思う方が多いと思う。その背景には、海洋資源の獲得をめぐる国同士の争いがある。1960年代に石炭から石油へ転換するエネルギー革命が生じ、各国はみずからの沿岸の大陸棚における海底石油資源や天然ガスの開発に乗り出した。1967年の国連総会でマルタのA.パルドー大使が、世界中の海底が先進沿岸国の間で分割されるおそれがあると警告し、大陸棚の範囲を明確にし、それ以遠の海底には大陸棚とは異なる深海底制度を樹立し、そこにある資源を人類の共同の財産とすべきであるとの演説を行った。この演説を契機に、1982年の国連海洋法条約(以下、海洋法条約)が生まれた。

海洋法の仕組み

海洋法条約は、海洋の秩序を形成する基本的考え方として、二つの考え方を採用している。一つは、海域区分の考え方である。沿岸国の領海を12海里と定めると同時に、新たに沿岸から200海里までを沿岸国の排他的経済水域(以下、EEZ)と定め、200海里までの海域と海底およびその下の天然資源の探査、開発および管理のための主権的権利を認めた。もう一つの考え方は、航行、漁業、資源開発、海洋環境の保護、海洋の科学的調査という事項別規制の方式である。そうすると、沿岸国が他国を排除して独占的に資源の探査や開発を行える範囲はどこまでかということが重要な問題となる。400海里未満で向かい合っている国同士や隣接している国同士では、こうして大陸棚やEEZをめぐる海洋境界の争いが生じることになる。
海洋法条約を採択した第三次国連海洋法会議では、海洋境界画定の基準について二つの考えが対立していた。一つは、「等距離中間線+特別事情」原則であり、もう一つは「衡平原則+関連事情」原則という考え方の対立である。しかし、採択された海洋法条約はこのような特定の基準を採用せず、海洋境界画定の争いを抱える国は、国際法に準拠しながら合意に基づいて解決すると定めている。海洋法条約では、海洋境界画定のルールが定められているのだから、そのルールに従って交渉し、合意をすればいいのではないかと考える方が多いと思うが、ことはそれほど簡単ではない。そこで、紛争を抱えるそれぞれの国について考えてみよう。

中国とは何がもめているのか

白樺ガス田(写真:防衛省提供)

日本は、大陸棚およびEEZの境界画定は、ともに等距離中間線に基づき境界を画定すべきだと主張し、中国は大陸棚の自然延長として沖縄トラフまでの主権的権利を主張し、対立が続いている。海洋法条約の採択以来、EEZの概念が定着するにつれ、大陸棚が200海里の距離基準に包摂され、大陸棚の概念がEEZの制度の中に吸収されている。日中両国のように、東シナ海をはさんで向かい合っている国同士の間では、中間線・等距離線が一つの基準とされている。
日中両国のように大陸棚の境界画定が定まっていない場合に、海洋法条約第74条2項および第83条2項では、「関係国は、合理的な期間内に合意に達することができない場合には、第15部に定める手続〔紛争解決手続〕」に付すると規定している。しかし、中国は国連事務総長に対して、第298条1項(a)の海洋の境界画定に関する紛争、(b)の軍事的活動に関する紛争および(c)の国連安保理が国連憲章によって与えられた任務を遂行している場合の紛争につき、第15部第2節(拘束力を有する決定を伴う義務的手続)から除外する旨の宣言を寄託した。つまり、日本がこの海洋境界画定問題を義務的な仲裁裁判に付託する道は閉ざされている。
国際司法裁判所(ICJ)にこの問題を付託するためには、日中両国の間で特別合意を結ぶ以外に方法はない。しかし、中国が特別合意に同意する可能性はない。その結果、外交交渉による解決以外には、この問題を解決する方法はない。
残念ながら、両国の間には尖閣諸島(中国名:釣魚島)の領有権をめぐる問題など困難な課題があり、共同開発の合意の実現のための協議も、中断を余儀なくされているが、両国は日中友好という大きな枠組みの中で、協議の再開に向けて努力する必要がある。

韓国とはなぜもめているのか

韓国と日本は、EEZの境界画定の基準としてともに中間線を主張しており、その意味では両国は等距離中間線原則の適用に同意している。日本は竹島(韓国名:独島)を基点とした「竹島・鬱陵島中間線」を、韓国はこれまで「鬱陵島・隠岐中間線」を主張していた。
ところが、2006年、韓国はこれまでの姿勢を転換し、中間線の基点となる島を鬱陵島から竹島に変更した。これに対して、日本は従来から竹島を基点とした「竹島・鬱陵島中間線」を主張しており、このため境界画定の交渉は暗礁に乗り上げた。その結果、竹島の領土紛争の解決なしに、EEZの境界画定は困難な事態となった。仮にこの膠着状態を打破するために、日本が、「竹島は領有権を争っている島なのでお互いにEEZの基点として用いることをやめよう」と提案しても、韓国がこれを受け入れることはないと思われる。なぜなら、韓国は竹島紛争そのものが存在しないという立場をとっており、この日本提案は到底受け入れられるものではないからである。
韓国についても国際裁判で解決される見込みはない。日本は、1954年と1962年に竹島問題をICJに提訴することを提案したが、韓国により拒否された。2012年の竹島問題をICJに共同提訴する日本の提案も、「一顧の価値もない」として韓国により拒否された。竹島紛争は存在しないという立場の韓国が、ICJに紛争を付託する可能性はほとんどないといわざるをえない。

東アジアの海洋境界画定の争いの解決は、なぜむずかしいのか

東アジアの日中・日韓の海洋境界画定紛争は、解決のめどが立たない重要な政治問題となっている。その背景には、島の領有をめぐる紛争の存在がある。中国との間では尖閣諸島が、韓国との間では竹島の領有権紛争の解決がなされないと、海洋境界画定の基点が決まらないので境界画定の合意に至ることができないという問題がある。
中国は共産党一党支配の体制で、主権にかかわる問題は国連といえども第三者に委ねる考えをもっていない。韓国は、中国とは異なり民主主義体制の国であるが、保革の対立が激しく、国際裁判で敗訴すればその政権は持たないといわれている。それに加えて、最近の日韓関係の悪化がこの問題の解決の見込みをいっそう遠ざけている。
それでも、海洋境界画定紛争を力ではなく国際法に基づいて平和的に解決するためには、直接交渉や調停など第三者の紛争解決機関に委ねる道を模索すべきである。なぜなら、日本も中国も韓国も、ともに国連の加盟国であり、国連は、その憲章第2条3項で、加盟国に紛争の平和的解決の義務を課しているからである。(了)

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